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第四十五話 『心透かし』

途中で切るわけにもいかず、ちょっと長くなってしまいました。

今回も馬車の旅でのほのぼの回です。


2017/04/07 微修正・誤字修正

2017/05/01 微修正

 レムサムを目指して王都を出発して四日目の昼。

 俺は暇を持て余していた……


 俺は元々何かしていないと気が済まない質で、じっとしていても何かしらの考え事をしていたりする。

 "何も考えずにぼーっとする"という感覚がが理解できないくらいだ。

 人間は何も考えずにいることなど不可能なのではないかとさえ思えてくるほどに、それができない。


 そんな俺にとって、揺れる馬車の中というのはとてつもなく退屈な空間であった。

 揺れて細かい作業もできないし、本もないし、唯一の話し相手であるフィルスとは、もう三日以上顔を合わせっぱなしで、流石に話題もずっとは続かない。


 「……暇過ぎる」


 「レイジ様?」


 「くっっっそ暇。なんもやることがない。もう暇過ぎて唐突に暴れ出したいくらい暇」


 「……えっと、まあお気持ちは理解できるのですが……そう、ですね……え~っと……」


 フィルスは何か暇つぶしの方法を考えてくれているようで、口に手を当て考え込み始める。

 その真剣な表情はそれはそれで可愛らしく、ちょっとだけ退屈が紛れる。

 俺のこの発言が、子供っぽい我儘であることは理解しているのだが、暇なものはしょうがない。

 フィルスも暇そうだったし、こうして考え事をしていれば、多少は暇も紛れるだろう。

 そして俺は、そんなフィルスを観察して暇を潰す。

 両者両得! これでみんなハッピー! イェイ! はあ……

 暇過ぎて変なテンションになりながらも、俺はフィルスをじっと見る。

 それはそれはじっと観察をする。穴が開くほど見つめ続ける。


 ……深紅に染まった大きな瞳に、柔らかそうな白い肌、もふもふしてそうな尻尾に、たまにぴくぴく動く可愛らしい小さめの犬耳。

 うむ…………モフりたい! なでなでしたい! ぎゅっとしたい!

 あーもうだめだ。暇過ぎて欲望に対してのリミッターが緩んでる。

 フィルス観察はやめよう。これは危険過ぎる遊びだ。己が身を滅ぼしかねない。


 「あ! では、心透かしをして遊びましょう!」


 俺が自分の内に滾る欲望に危機感を抱いたのとほぼ同時に、フィルスが不意に声を上げる。

 ……正直、ちょっとびっくりした。


 「心透かしって、何だ?」


 心を透かす、か。本当に心が透けて覗き見れる――なんてことはないだろうが、その響きには少しばかり惹かれるものがあるな。


 「心透かしというのは、子供が魔力の操作と感知の練習を兼ねてよくやる遊び……らしいです。私は母としかやったことがありませんが…………そ、それでですね、その遊び方なのですが、まず何か一つ、ハッキリとイメージできるものを頭の中に思い浮かべます。そしてそれができたら、魔力で自分の前にそれを形作るのです。ですが、当然変換していない魔力なので、目には見えませんし、形もきちんとしたものにはなかなかなりません。相手はその魔力を何とか感じ取って、何を思い浮かべているのか当てる、といった感じです」


 ふむ……確かに楽しみながら魔力の扱いを学ぶには良い方法かもしれないな。

 とはいえ、俺は感知も操作も完璧だからな……出題側に徹してみるか。

 フィルスがどれだけ感知できるのかを知っておくのも、悪くない。

 まあ、魔素ではフィルスには感知できないだろうから、いつもはオフにしている魔力への変換をしてみますかね。

 魔素の魔力への変換は、意識しなければ変換されないというだけで、人の姿をとってさえいれば俺にもできる。

 なぜ意識しなければいけないのかは、魔素を扱う領域に至ったせいなのか、はたまた俺が魔素であるせいなのか、正直よくわからん。


 「確かに面白そうだし、練習としても理に適っていそうではあるが……俺が当てる側では簡単すぎて遊びにすらならんから、俺が出題側をやろう。フィルスはそれを当ててくれ。最初はきっちり精密に作るから、感知さえできればそう難しくはないはずだ。あ、ちなみにこれは、フィルスの実力テストも兼ねてるから、頑張ってくれ」


 「へ!? あ……が、頑張ります!」


 ふっふっふ……今の俺はさぞ意地の悪い笑みを浮かべていることであろう。

 相手が必死な方が出題側というのは楽しいものだ。

 別に成績が悪いからと言ってどうするつもりもないが、せいぜい頑張ってくれたまえよ。

 まあ、成績が良かった時には、何かご褒美をあげても良いかもしれんな。


 「ではまず第一問! これは何でしょう!」


 俺はクイズ番組風の台詞と共に、目の前に魔力を使って小さなログハウスを形作る。

 これなら流石にこっちの世界にもあるだろうし、わかるだろう。

 ログハウスと呼ぶかどうかは、また別の話だが。まあ、そこは別にどうでもいい。

 家とか小屋とか答えてくれれば正解で良いだろう。


 「これは……山小屋、ですかね。丸太でできた木製の小屋です」


 「ハイ、フィルス選手正解! 得点1ポイント加算! 現在のポイントは1ポイントです!」


 「へ? ポイント制なのですか?」


 「問題の難易度によってポイントは違うぞ! 難易度は1から5、得点は難易度と同じだけ入るぞ!ただし、間違えた場合はその分マイナスされるから注意だ! 問題は全部で10問! 残り9問、好きな難易度を選んで挑戦しよう! 最終得点次第では、豪華景品もあります!」


 「景品ですか! そ、それはどれくらいでどのようなものが……」


 「それはゲットしてからのお楽しみ! でも最低でも10ポイントは無いと景品は手に入らないから、頑張ってね!」


 ま、豪華景品なんてまだ何も考えてないんだけど。

 頑張り次第で適当に考えればいいだろ。




 ――――なんて軽く考えていたのだが……


 「そ、それでは第九問。これは何でしょう」


 「……アストレア城ですね! 塔の数と外壁の描く形状が同じです!」


 「せ、正解! 5ポイント加算で、合計得点41ポイント!」


 そう……得点からわかる通り、フィルスはここまで9問、全部難易度5で正解しているのだ。

 その表情も真剣そのもので、鬼気迫るものを感じる。

 まさかここまでマジになるとは思わなかった……豪華景品、どうしよ……めっちゃ期待してそうだなぁ……

 だがそれもラストの問題に正解できたらだ。

 しょんぼりするところを見たいわけではないが、手加減をするつもりはない。


 「なんとフィルス選手、ここまで全て最高難易度で正解を叩き出しており、その得点は最高の41ポイント! このまま全問正解できるのか!? では泣いても笑ってもこれが最後の第十問! これは何でしょう!!」


 「……これは…………??」


 フィルスは答えがわからないようで、ここに来て初めて長考に入る。


 ちなみに、この問題の答えは"自動車"だ。

 そんなのわかるわけないだろうと思うかもしれないが、以前俺は、フィルスに自動車がどういうものかをその形状を含めて事細かに説明しているので、答えられない問題という程ではない。

 それに今回は難易度の割には形をはっきりと作っているので、ぼんやりとした輪郭から想像する必要もない。



 それから10分ほどずっと悩んでいたフィルスだが、急にピクリと動いて、頭の耳がピンと立つ。

 これは、まさかわかったのか?

 俺は答えが来るのを構えて待つ……が、何故かフィルスは再び考え始めてしまった。

 合ってるか不安なのかな?


 そしてそれから更に5分ほど経ち、ようやく答えが決まったのか、フィルスはその顔を上げてこちらを見つめてくる。


 「答えは……前にレイジ様のお話しされていた自動車というものでしょうか?」


 「…………正解! おめでとう! これで豪華景品は君のものだ!」


 「や、やったー! やった! やったよ! えへへ……」


 ぐは! な、なんという可愛さ!

 正解できたのがよほど嬉しかったのか、いつもの敬語もなくなり、年相応の無邪気な感じではしゃぐフィルス。

 その顔には実に良い笑顔が浮かんでおり、その可愛さと言ったらもう……やばい。

 俺はその可愛さに耐えられず、思わず顔を手で押さえて下を向いてしまう。

 くそ! ニヤニヤが収まらん! こんな顔をフィルスに見せられるか!


 「……はっ! あ、あの、レイジ様、申し訳ございま――レイジ様? どうかなさったのですか?」


 フィルスの方はどうやら落ち着いたようで、俺の様子をを気にかけてくれる。

 落ち着け葛城玲仁。貴様は厳しい訓練を潜り抜けた戦士だろう。ならばこの程度の動揺、隠し通して見せろ!

 ……っよし! もう大丈夫だ。


 「いや、なんでもない。大丈夫だ。そんなことより、全問正解のご褒美をあげないとな。正直全問正解するなんて思ってなかったから、ちゃんと考えてなかったんだが……次点で考えてたのに、もう一個付け加えればいいかな。それとも、何かこれが良いっていうのがあったりするか? あればそれでもいいんだが……」


 「いえ! レイジ様の用意して下さったものでお願いします!」


 フィルスは何がそんなに嬉しいのか、尻尾をぶんぶん振ってそんなことを言ってくる。

 俺が用意した景品だから嬉しいってことか? まったく、愛い奴め。


 「それじゃあ景品は二つ。まずはおまけの方から……じゃじゃ~ん! 俺がなんでもお願いを聞いてくれる券! これを使えばあら不思議! 一部非常識なお願いを除き、俺が何でもお願いを一つ聞いてくれる!」


 まあ、これの真の目的はフィルスに我儘を言わせるためなのだがな。

 無償ではなく自分で勝ち取った権利なら多少は使いやすいだろうし、それをきっかけに少しは我儘が言えるようになってくれると嬉しい。

 ふふふ、フィルスよ。俺はお前が自分の希望を言ってくれるようになるまで諦めんぞ?


 「そして……お待たせしました! 本命の豪華景品はなんと! レイジの武闘大会で得る賞金の半分だ! ちなみにこれは賞金が手に入らなかったら0になってしまうぞ! その時は一緒に泣こう!」


 フィルスは稼いだ金を全部俺に渡して、俺に全て任せてしまうからな。

 自分の金というものを持って、少しは贅沢をしてほしい。あとついでに、金の使い方も覚えてもらいたい。

 フィルスは今までずっと森暮らしで、お金を使う機会なんてほとんどなかったはずだ。

 王都に入った時も、街は初めてとか言ってたし。

 だがこれからはお金に触れる機会も増えるだろうし、多少は自分でお金を使って、その価値をある程度理解しておいてもらいたい。


 「え、ええ!? そ、そんな! いけません! そのお金はレイジ様がご自身で稼いだお金で――――」


 「そうだよ? だから俺があげるんじゃないか。それに、この間は俺がフィルスの稼いだ金で寝泊まりしていたじゃないか。フィルスからは受け取るのに、俺からのは受け取らないなんて、そんな一方的な関係は御免だぞ? それに、俺の用意したものが良いと言ったのはフィルスじゃないか。俺の稼いだ金が受け取れないっていうのかーー!!」


 俺は、最近真面目な話ばかりしているのがなんだかこっぱずかしくなって、酔っ払いみたいなことを言って空気を軽くする。

 それに、そんな真面目な雰囲気のままじゃ、フィルスも重く考えてしまうかもしれんしな。

 軽い気持ちで受け取って、軽い気持ちで使ってくれればいいんだ。

 でないと全部貯金とか言い出しかねん。


 「い、いえ、そんなことは! ……わかりました。ですが、せめて一割とか二割にしてください。半分はいくらなんでも貰い過ぎです」


 「うむ、では二割で手を打とうではないか!」


 「…………ぷっ……ふふふっ」


 「くっ……くっくっく」


 二人とも黙って静かになった途端、先程からの茶番がなんだかおかしくなって二人して笑い始める。

 その後はさっきまでの変なテンションも相まってか、なかなか笑いが収まらず、しばらくの間俺たちの乗った馬車から響く二人分の笑い声が止むことはなかった―――― 

今回まででとりあえず馬車でフィルスと二人きりでのおしゃべりは終わりです。

そこそこ満足しましたし←

次回か、遅くともその次あたりからは話を進めようと思ってます。

それでは、また次回お会いするのを楽しみにしております(^^)/~~~

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