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第四十六話 『到着、武闘都市レムサム』

 王都を出てから六日目の昼頃。

 俺達は、道中何度か魔物と遭遇することはあったものの、特に大きな問題もなくレムサムの街に到着することができた。


 街を取り囲む頑強そうな壁を抜けて街の中に入ると、王都顔負けのにぎやかな街が俺達を出迎えてくれる。

 大会が近いせいもあるのだろうが、この賑わいは凄い。

 侯爵家のご指名で出場する身としては、それなりに緊張してしまうな……

 そしてこの街のシンボルとも言える闘技場は……流石に入り口からじゃ見えないみたいだ。

 王都は全体がなだらかな丘のようになっていて、入り口からでも城が見えたのだが……まあ、闘技場は城に比べれば背も低いだろうし、残念だが仕方がないか。


 フィルスと二人で街の様子を眺めてはしゃいでいる内に、いつの間にか別宅とやらに到着していたのか、俺達の乗った馬車は緩やかに速度を落とし、一軒の屋敷の前で停車した。

 別宅は王都の屋敷ほど大きくはないものの、それでもそれなりの大きさがあり、この人数と馬車なら余裕で倍以上は入れそうな大きさはあるように見える。

 まあ実際には色々な用途の部屋があったりして、そこまでではないのかもしれないが。


 「ようこそ、ジウスティア家別宅へ。これから半月ほどはこちらに滞在していただくこととなりますので、何かご不便がございましたら、気軽にお申しつけ下さい。それではお部屋までは私が案内をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」


 俺が馬車を降りて屋敷を見ながらボケっとしていたところ、レティアが来ていきなりそんなことを言い出した。

 確かに道中ずっと俺たちと話したそうにしていたが、侯爵令嬢が屋敷の案内をするっていうのはどうなんだ?

 ほら、後ろのメイドさんも微妙な表情をしているぞ?


 「えっと、案内していただけるのはありがたいのですが……レティア様がなさるのですか?」


 「うっ……そ、そうです。家主の娘なのですから、何もおかしなことはありません。それに……」


 そこまで言ったところで、急に口籠るレティア。


 「それに、何でしょうか?」


 「そ、それに、道中ではずっとお話しできませんでしたし、私もレイジ様やフィルス様とお話がしたかったのです! 明日からは、挨拶回りやお茶会などで数日はゆっくりできませんし……今日話せないと、しばらくお話しする機会もなさそうだったので少しでもと思って…………あ、あの、ご迷惑でしたでしょうか」


 気持ちをぶっちゃけたは良いものの、段々と声が尻すぼみになっていき、最後にはほとんど聞こえないくらいの声量になってしまったレティアに、俺は思わず苦笑してしまう。

 そんなに心配になるくらいなら、最初から適当な理由つけて誤魔化しちまえばいいのに、正直な子だなぁ……

 人としては好感が持てるが、貴族社会では生き辛そうだ。


 「ははは……いえ、迷惑なんてことはないですよ? それに、私の方こそレティア様とはもっとお話をしてみたいと思っていましたから。まあもっとも、一介の冒険者でしかない私などに、気の利いた話ができるかどうかはわかりませんが。それでよろしければ、他に支障の出ない範囲でならいくらでもお付き合いさせていただきます。もちろん、フィルスも一緒に」


 そう言ってフィルスの方へと目配せをすると、フィルスは少し微笑んで頷いてくれる。


 「あ、ありがとうございます! それでは、立ち話もなんですから、どうぞお入りください。お荷物はこちらでお持ちいたしますので、ご心配なく」


 俺の言葉にホッとしたのか、笑顔を浮かべてはしゃぐレティア。

 その年相応の姿に、なんだかほっこりしてしまう。

 ……そういえば、レティアとフィルスって同い年なんだよな。

 話してみたら気が合って仲良くなれたり……してくれると嬉しいなぁ……


 こちらの世界の感覚で、身分の差がどのくらい心理的な壁を作ってしまうのかはわからないし、ましてや彼女ら二人は真逆と言って良いほどの身分の人間だが……それでも、それを気にせず気軽に話せる友人になってくれれば良いなと思ってしまう。

 俺では精神年齢的にも立ち位置的にも、フィルスの友達にはなれないからな。

 レティアのような優しい子なら、変にフィルスを蔑んで傷つけることもないだろうし……たぶん。


 俺がそんなことを考えながらついて行っている間も、レティアは上機嫌で屋敷の説明を色々してくれる。

 フィルスは黙って俺の後ろを歩いているが、貴族の御屋敷の中が物珍しいのか、レティアの説明を熱心に聞きながらきょろきょろしていて、見ていてこっちまで楽しくなってくる。


 「そしてこちらが、これからしばらく泊まっていただくお部屋になります。二部屋用意しておりますので、それぞれお好きな方をお使いください。お荷物の方は後ほど部屋までお届けいたします。それでは、他に何か聞いておきたいことなどはございますでしょうか」


 「では一つだけ。これは別に屋敷の中でなくても良いのですが、戦闘訓練や魔法の試射などのできる場所を知っておきたいかなと」


 「それはそうでしたね。私としたことが、失念しておりました。申し訳ございません。練習場なら屋敷の敷地内にございますので、後ほどご案内いたします。荷物の整理をして準備ができましたらお声がけください。もちろん、今は使わないから場所だけ知りたい、という事でしたら、今からでも構わないのですが」


 「いえ、どうせなら少し使って感触を確かめたいですし、準備してからでお願いします」


 「ふふっ……かしこまりました。それで……その……訓練なのですが、良ければ、見学してもよろしいでしょうか? 実は前から戦闘訓練というものに興味があったのですが、なかなか見る機会がなくて……」


 う~ん……まあ見られるのは構わないのだが……

 俺は彼女の後ろに控えているメイドさんと護衛隊長さんに視線で確認をする。

 すると二人は少し申し訳なさそうな顔をしながらも頷いてくれた。


 「構いませんよ。ただし、危険もありますのであまり近づき過ぎないようにお願いします」


 「はい! ありがとうございます!」


 ははは……嬉しそうな顔しちゃってまあ……

 フィルスが割としっかりしているせいか、同い年の彼女が随分と幼く見えるな。

 なんだか妹でもできたかのような気分だ。

 孤児院にいた頃を思い出すな……やけに俺に懐いてくる三つ下の女の子がいたっけ……いっつも俺の後ろについてきて……


 「レ、レイジ様? なにかお気に障ることでも――」


 俺がふと昔を思い出して感傷に浸っていると、なんだかレティアが心配そうな顔をして慌て始めた。

 その視線の先には俺の顔が――――あれ?

 俺はそこでようやく、自分の頬が濡れていることに気が付く。

 どうやら涙を流してしまっていたようだ。

 それでそんな顔をしていたのか。いらぬ心配をかけてしまったな。


 「ああいえ、すみません。ちょっと昔を思い出してしまいまして……もう大丈夫です」


 俺は涙を袖で拭いながら、そう言って微笑んで見せた。


 「そうでしたか……あ、荷物が来たようですね。それでは、急がなくても大丈夫ですので、ごゆっくり」


 そう言ってレティアは今来た通路を引き返して行った。

 そのあと俺達は、荷物を運んで来てくれた方にお礼を言って荷物を受け取ると、部屋でさっそく訓練の準備をするのであった。

 訓練施設か……師匠との訓練もこっちの世界に来てからの訓練も、全部森か草原だったからな。

 きちんとした施設というのがどんなものなのか、今から楽しみだ。

 とりあえずは、ただの広い空間でないことを祈るとしよう。

~おまけ~

『レイジとフィルスのおしゃべり②』


 王都を出発してから四日目のお昼前。


 「レイジ様は普段どのような訓練をしているのですか?」


 「そうだなぁ……この体じゃ筋トレは意味ないから、スキルの育成が主だが……最近では魔素の操作練習もしている」


 「魔素の操作、ですか?」


 「ああ。スキルが育っていても、使いこなせなければ意味がないからな。例えば、目を瞑って鞄の中身を把握したりとか、馬車の内部機構を探ってみたりとか、そんな感じだな。身近にある目に見えない部分の形状をを魔素で探るんだ。構造の把握もできて、一石二鳥のお得な訓練だな」


 「素晴らしいですね! ……ですが、残念ながら私にはできそうにありませんね」


 「なんだ、訓練がしたいなら俺がメニューを考えてやるぞ? 今できるものだと、そうだな……」


 こうして俺たちは、狭い馬車の中で一日中訓練に明け暮れるのであった――――



 オチはないです(^^;

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