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第百四十七話 『話はまだ終わっていなかったようです』

 「あ、えっと……落ち込んでる所悪いんだけどさ。話の続き、しても良いかな?」


 レイジ様の死に落ち込む私達の重い静寂を破ったのは、邪神のそんな言葉だった。


 「えっと、話はさっきので終わったんじゃ……」

 「あーいや、まあダンジョンであったことって意味なら、さっきので全部なんだけどね? 話自体はまだ終わってないっていうか」


 どうやら先ほど邪神が一旦黙ったのは、あくまで"ダンジョンで起きた出来事"を伝え終えたというだけで、全てを話し終えたという訳では無かったようだ。

 しかし、この空気をわざわざ破ってまで話を続けようとするという事は、何か希望が残されているという事だろうか? 彼女は力の大半を使えなくなっているとはいえ、神の一柱なわけだし……十分あり得る話だ。


 「えっと、それじゃあ話していいかな?」


 その問いかけは、ただの話を始める前のポーズだったようで、一呼吸置くと、私達の返事を待たずに話を始めた。


 「えっと……まず、死者の魂って言うのは、一応神が管理するものではあるんだけど、普段は自動的処理されるだけで、特に神が何をするとかはないんだ。でも、それはあくまで普通の人だけ。彼は上の世界から呼び寄せた魂である上に、古龍や神気で魂そのものがかなり変質してしまっているから、普通に輪廻転生はできないんだ。これは、勇者の皆にも言えることだけどね」


 その言葉に、僅かに香奈と梨華が動揺を見せるが、今はどうでも良いと言わんばかりにすぐに話を聞く態勢に戻る。

 それを確認してから、邪神は言葉を続ける。


 「それでも魂がそのままなら、普通に元いた世界に輪廻転生させられるんだけど……今言った通り彼の魂はかなり変質してるから、それも無理。ならこっちに転生した時みたいに、新しい体に魂を転生させればいいじゃんって思うでしょ? でも、それもできないんだ。魂って言うのは、ある程度自分と合った器にしか収まらない、というか、収まれないんだ。でも、彼の今の魂は、人であり龍であり神でもある。人と龍はまだどうにかなるんだけど、神って言うのが厄介でね。その因子に適応できる可能性がある器は、今のところこの世界だと古龍だけなんだ。でも、古龍の器はボクの身体になっているこれだけ。それに、仮にボクがこの身体を彼に差し出しても、結局は今までと同じ不安定な状態になってしまうんだ。まあそれは、彼の魂に対して器が異質で脆弱だったせいなんだけどね。この器はまだまだ未完成だったから」


 ……つまり、適切な器――というか、肉体が無いから、レイジ様は転生できないという事でしょうか? なら、それさえあれば、転生は可能と? それが本当なら、少しだけですが希望が見えて来るかも。


 「ま、ここまで聞いたらわかると思うけど、彼の転生には、相応の"器"が必要なんだ。なら用意すればいいじゃんって思うかもしれないけれど、ボクたち神もそこまで万能では無くてね。何の制約もなければ、それくらいなら何とかできなくもなかったかもしれないけれど、神は管理する命への干渉を禁じられているから、新たな種を生む行為に当たる"器の創造"は難しいんだ。その唯一の例外が古龍なんだけど、これは最高神様が与えて下さった例外だから、ボクたちの権限じゃどうにもならない。そんなわけで、現状での良い手段は、僕には思いつかない。でも、希望が無い訳じゃない。っていうのが、今の状況かな? ちなみに、彼の魂が向こうにいられる時間に制限は無いから、あっちで勝手に判断して何かしちゃわない限りは、特に時間の制限は無いよ」

 「な、なら、すぐにでもそれを伝えて――いえ、それは向こうにいる神にもわかっていることですよね」

 「ん~、どうだろ? ボクは能動的にやらなきゃいけない仕事なんてほとんど無かったから、その辺復習したり、皆の仕事見てたりしたから把握してたけど、輪廻神がどこまで把握してるかはボクにはちょっとわからないかな? 生命神もその場に居れば、たぶん大丈夫だと思うけど」


 え、ええっ!? 神のくせにそんな適当なんですか、六大神って! ていうか、何が六大神ですかっ!! ただの自動任せのポンコツ集団じゃないですか!! 挙句に自分たちの都合でレイジ様や香奈たちに迷惑を――あ、いえ。それについては、レイジ様と出会うきっかけを下さったという事で、私個人としては(・・・・・・・)不問にしましょうか。


 「とにかく、そういう事なら早くそれを向こうにいる神かレイジ様に伝えなくては! 何か交信手段は無いんですか!?」

 「えっ!? あ、あるよ! でも……」

 「でも?」

 「王都の神殿じゃないと、ちょっと難しいというか、無理と言うか……」

 「それは、王都ならどこでも良いのですか?」

 「ん? あ、うん。話せる神はそこによって違うけどね。ちなみに、輪廻神はアストレアだよ。ここから近い王都は~……スレブメリナとザストールかな? サルマリアもすぐだけど、王都は南の方だからね」


 ふむ、流石は神の一柱ですね。地上の地図は完璧に把握しているのですか。


 「ま、これはさっきここに来る前にぼうけんしゃきょうかい? とかいうところで聞いて来ただけなんだけど」


 ……私の感心を返して下さい。いやまあ、確認していてくれただけでも十分ありがたいのですが。


 「それで、どっちに行く? 砂漠越えができるなら、ザストールのほうが近いけど、たぶん道中の安全性はスレブメリナの方がずっと上だよ?」

 「愚問ですね……と言いたいところだけど、少しだけ相談させて」


 本当なら、ザストールと即答したいところだが……無理をして強硬策に出た結果がこれだ。少し落ち着いて、きちんと考えよう。いやまあ、ダンジョン攻略の件は、どちらにしても選択肢なんて無かったのかもしれないけれど。でも今回は違う。


 「それで、香奈と梨華はどう思う?」

 「ん~……私としては、移動手段が確保できるならザストールがいいかなぁ」

 「……ちなみに、理由は?」

 「あ~、えっとね? 明日ってさ、レイジにぃの誕生日、なんだよね。だから、間に合うならって……」


 む、そうだったのですか。確かに、レイジ様の誕生日は知らなかったけれど、何もこんなタイミングでなくても……きちんとお祝いしたかったのに。


 「あーいやでもさ! それはほら、前の世界のだから。こっちに転生した日も誕生日だし、ね?」


 私のしょんぼりした顔を見たからでしょうか。香奈が気を遣って励ましてくれています。誕生日だからと言い出したのは香奈なのだから、香奈だって同じようなことを思っているはずなのに……しっかりしなくちゃね。


 「うん、大丈夫。それで、梨華は?」

 「あーうん。私もザストールかな。近いっていうのももちろんあるけど、今は確か、向こうから人が多く来てるみたいで、こっちから向こうへ行くのは、その分空きが多いらしいから」

 「そうなの?」

 「うん。なんか向こうの国内がガタガタしてるって噂だよ。ダンジョンのこと聞いて回ってる時にちらっと聞いただけだけど。ちなみに、王都までだったら今から急げば、便の時間次第では明日の昼には向こうの王都に着くと思うよ。とは言っても、砂漠横断はトラブルが多いらしいから、スムーズに行ければだけどね」


 ふむ……でもそれだけ人が行き来しているのなら、ここであえて距離のあるスレブメリナの王都まで引き返すほどの危険は無さそうだし、決まりかな。


 「そういう事なら、ザストールの方がよさそうだね」

 「……決まったかい?」

 「はい。ザストール王都へ」

 「なら、すぐに支度をしよう。地図と一緒に時刻表も見てきたけど、最終便は今日の7刻半頃だったと思ったよ? 便が出てるのは隣の村だし、急がないと間に合わないかも」


 それを聞いた私達は、寝床に座っていた身体を跳ね起こして、慌てて支度を始める。邪神がまだ何か言っていたけれど、残りの話なんて道中で聞けばいいのだ。どうせ移動中は暇になるだろうし。


 そうして出かける準備を終えた私達は、半分呆れたような笑いを浮かべる邪神の手を引っ張って、宿を駆け出るのであった。


 フィルスがたまに邪神に敬語使っちゃってるのは、「神様だしさすがに……いやでもレイジ様に迷惑を掛けやがった一人だし」とか、「あったばかりの他人にタメ口は……いやでもやっぱりレイジ様に(ry」とかいう狭間でふらふらしてたり、クセだったりで出ちゃってるだけだったり。マジで嫌な相手なら出ないだろうけど、邪神も割と被害者側だからね。同情とかもあったりであんま憎めない感じみたいですね。

 いやでもぶっちゃけ、今まで敬語ばっかだったから、敬語じゃないフィルスとか違和感がスゴイ(笑)

 お前がそうしたんだろっていうね! テヘペロッ♪

 香奈と梨華相手には、流石に慣れては来たみたいですけどね、フィルスも。私は慣れませんが←


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