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第百四十五話 『亡失』

 「はぁ……はぁ……はぁ……」


 レイジ様に説得され、ダンジョンを脱出してからどれだけ経っただろうか。

 脱出用の魔法陣を起動させ、砂漠に放り出された私達は、レイジ様に言われた通りにダンジョンから離れるように砂漠を駆けた。

 本当は、最後まで共に居たかった。側に在りたかった。でも、それをレイジ様は望んで下さらなかった。

 だから私はただ走った。その思いを振り切るように。抱く不安を振り払うように。

 そうして今、ようやく元いた村まで戻ってきたのだ。

 門の前に立つ兵は、何かから逃げるように走ってきた私たちに、不安の入り混じった視線を向けている。当然だろう。砂漠とダンジョン以外何もない方向から必死に駆けて来るなど、そこで何かあったようにしか見えない。それがダンジョンでのスタンピードなどであれば最悪だ。

 まあ実際、それよりずっと酷い災厄が起きる可能性があるのですが。

 

 「……おいアンタら、随分必死に走ってきてたみたいだが、何かあった――「何もありません!」」


 私はつい、門番の方の質問を怒鳴り声で遮ってしまう。

 彼の疑問は、仕事としても一村民としても当然のもので、彼に非はない。わかってる。悪いのは私の方だ。

 でも……答えたくなかった。

 口にしたら、そうなってしまう気がして。レイジ様は無事だと、帰ってくると、そう信じていたかったから。


 「……何も、ありません。だから……大丈夫です」


 半ば自分に言い聞かせるようにそれだけ言うと、私は門を通り抜け、宿の方へと歩いて行く。

 香奈と梨華も、私を咎める様子も、事情を説明することもなく、無言で私の後に続く。

 本当は、もっと遠くへ逃げなければいけないのだろう。レイジ様も、なるべく離れるようにと言っていた。

 けれど、もうこれ以上何かをする気力がもう私には無かった。今はただ、ただ休みたかった。何も考えることなく、ただ眠りにつきたかった。


 ……本当は、本当は気が付いていた。レイジ様が私たちを逃がす為にああ言っていただけだと。助かる確率は、決して高いものではないと。

 けれど、あの場に残っても私にできることなど無く、レイジ様の気を煩わせるだけだとわかっていたから。だから、ここまで来た。そうレイジ様が願ったから。

 でも、もうここにレイジ様はいない。仮にあの魔導具の中に魂だけ逃げられたとしても、会える保証も、それを確かめるすべもない。

 私はこれから、どうしたら良いのでしょうか。何のために、どう生きればよいのでしょうか?

 レイジ様と出会ってからは、レイジ様が私の生きる意味だった。それまで生きてきたのも、ただ漠然と生きたいと思い、そうしてきただけだった。

 でも、今の私にはそれすら無い。生きる希望も意味も、失ってしまった。

 けれど、死ぬこともできない。レイジ様が、私が生きることを望んだから。それを裏切りたくない。

 ああ、神様。いえ、神でなくても、誰でもいい。どうか……どうかレイジ様をお救い下さい。再び出会える奇跡を、私に……いえ、私達にお与えください。


 いつの間にか宿屋についていた私たちは、結局一言も言葉を交わすことなく、そのままの恰好で寝床に身を沈めるのであった――――










 「…………」


 翌朝、目を覚ますとそこは前日までと変わらぬ宿屋の一室であった。どこにも破壊の跡は無く、外も特に騒がしくなっていたりはしない。

 当然ながらレイジ様はいまだ帰っていないが、これは……

 一つの可能性に行き着いた私は、まだ目を覚ましていない香奈と梨華を起こす。2人は眠そうに目を擦っていたが、前日とは違って生き生きとしている私の様子を見て、すぐに意識を覚醒させてくれた。


 「どうかしたの? もしかして、レイジにぃが帰って――」

 「ううん。そういうわけじゃないけど……でも見て! 宿は無事だし、村も無事でしょ?」

 「……それはまあ、見れば分かるけど……だからどうって――「そっか!」」


 香奈は怪訝そうな顔で首をひねるが、梨華は私の言わんとすることが理解出来たようだ。


 「村が無事で騒ぎも起きてないってことは、お兄さんが暴走してないってことで……つまり、何かしらの方法で押さえ込んで無事な可能性があるってことが言いたいんだよね?」

 「っ!! そ、そっか! ならすぐにでも探しに――「それはダメ!」」


 すぐにでも部屋を飛びだしそうな香奈を制止する。2回連続で口を挟まれたせいか、ちょっと拗ねた顔をする香奈。


 「すぐにでも飛び出したい気持ちは私も同じだよ。でも、香奈はダンジョン内部の構造、ちゃんと覚えてる?」

 「え? ……いや、前に進むのに必死で、道とかはあんまり……」

 「梨華は?」

 「私は2人に比べれば多少は冷静だったつもりだけど、流石にあの強行軍の中じゃちゃんとは……」

 「だよね。なら、きちんと準備してから行くべきだよ。昨日の消耗も回復しきってないのにまた同じことしてたら、今度こそ死ぬよ? 私も人のことは言えないけど」

 「うっ! ……ぐぬぅ」

 「じゃあ、まずは腹ごしらえ。それから急いで買い物をして、そしたらまたダンジョンに行こう! 2回目で大体はわかってるんだし、慌てなくてもそんなにかからないよ、きっと……うん」


 その言葉は、香奈に言うというよりは、不安と焦りに苛まれる自分の心を落ち着けるためのものであった。香奈には落ち着いた態度で接したが、私だって内心は不安でいっぱいだ。間に合わなかったらとか、そもそもこの淡い希望は見当違いで、レイジ様はもう、とか……ううん、信じよう。でないと、きっと折れてしまうから。今不安で心を弱らせれば、それは死につながる。だから信じるんだ。……大丈夫。絶対、大丈夫。……ですよね? レイジ様――


週末に書いた分を全没にしたり、話の順序入れ替えたりしてたら時間かかっちゃいました(^-^;

正直もうちょい悩んでたい気もしたのですが、一週間たっちゃうしいいかな~と思って投稿しちゃいました()

明日明後日でしっかり書ければ、来週は大丈夫だと思います。……しっかり書ければ、ね。


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