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第百四十四話 『きっとまた、いつかどこかで』

今回、切るの難しくて長くなっちゃいました。二話分くらいあるかも?(;^ω^)

それから、セリフが普通に書かれているので、「元気じゃねえか」と突っ込みたくなるかもしれませんが(特にレイジ)、流石に全部そんな書き方してたら読みにくいよねってことで、そこの表現は省きました。(ぶっちゃけ、めんどいしね♪←)

 あれから程なくして、部屋の奥に刻まれた魔法陣を梨華ちゃんが発見し、無事脱出して行った。魔法陣の内容は俺が確認したので間違いないだろう。

 去り際に倒れている少女のことを気にしていたが、一緒に連れて行くなどと言い出したところで俺が止めた。彼女の正体が不明な上に、これほどの神気を発する存在だ。どんな影響があるかわからん。それに、そもそも人一人担いでいく余裕など無いだろうし、彼女が敵か味方かもわからないのだ。これが平時の気楽なダンジョン攻略ならそれでもよかったが、流石に今の状況でその判断は容認できない。

 まあそんなわけで、今この部屋にいるのは、いまだ目を覚ます様子のない少女と俺だけというわけだ。

 穴の向こうから聞こえている魔物の雄叫びは相変わらずだが、一向に侵入も攻撃もしてこないし、そっちは心配ないだろう。

 ……自分の核のある部屋に自分が入れないとか……ちょっとかわいそうな気もするな。


 まあ、そんなことはいいか。今はとにかく、なるべく暴走までのタイムリミットを伸ばして、少しでも皆が逃げる時間を稼がないと――――


 「……良かったの? 独り残って」


 俺が目を瞑って、再び集中しようとしたところで、不意にそんな声が聞こえてくる。

 この場にいるのは2人だけってことは……声の主は倒れていると思っていた少女か。うつ伏せだからわからなかったが、どうやら起きていたらしい。

 声は見た目相応に幼いが、彼女も少し弱っているようで、俺同様に声に元気が無い。まあ、こんなところで倒れていた時点で、そりゃそうだろうけど。


 「……起きてたんだな。いいのかって、どういうことだ? その口ぶりからして、会話は聞いていたんだろ?」

 「うん。でも、大事な人だったんでしょ? 少なくとも2人は。最後まで一緒にいたいって思わないの?」

 「最後って……一応、まだわからんのだが」

 「ううん、最後だよ。君は助からない」


 俺の反論に、間髪入れずにそう断言してくる少女……というか、幼女? でいいかもな。身長は120ちょっとくらいだし、胸もぺったんこだし、完全に小学生にしかみえん。あーでも、お腹はポッコリしてなさそうだから、そうでもないのかな? まあもう何でもいいや。


 「嫌に自信ありげだな。その神気といい、何か知ってるのか?」

 「あはは……まあね。ボクはこれでも神の端くれだから」


 ……は? 神って……え? でも、発しているのは邪神の神気……え? マジ? この幼女が邪神? …………マジか。確かに黒色の髪と赤色の瞳からは、闇属性っぽい印象を受けるけど……

 いやでも、この子が邪神だというのであれば、逆にチャンスなんじゃないか? 協力してくれたら、ワンチャンあるかも。


 「……とりあえず確認するが、君は……いや、あなたは邪神様なのでしょうか?」

 「ああ、うん。そうだよ。馬鹿で愚かな、独りぼっちの神様だよ。あ、敬語じゃなくていいからね」


 ……邪神、やけに自虐的だな。何かあったのか? 随分弱っているみたいだし……信者に利用されたとか?


 「あはは……こんな言い方したら気になるよね。ボクとしては聞いてくれると嬉しいんだけど、大丈夫かな? ボクの神気のせいで、長くないんだろう?」


 ……確かに俺に残された時間は、せいぜいもってあと10分かそこらだろうが……目の前に希望が転がっているのであれば、それを逃す手はない。

 とはいえ、邪神の自虐話を聞くことに意味があるのかはわからんし……不躾かもしれんが、ここは先にお願いしてみるか。


 「あー、まあその……話を聞くのは全然かまわないのだが……そちらさんも言う通り、俺には時間があまりない。もしそちらの協力で今の俺の状態が少しでも改善できるのであれば、先に頼めるだろうか?」

 「ゴメンね。残念ながらボクにはどうしようもないよ。というか、できるなら先にやってるしね」


 まあ、そうだよな。この邪神は悪い人――――というか、神? って感じじゃないし、そんな気はしてた。ならまあ、最後にこのしょんぼり幼女神の話に付き合ってやるのも悪くは無いか。死ぬ直前にしては締まらないが、誰かのささやかな願いを叶えて死ねるってのは悪くはない最後だろう。


 「そうか。ならまあ、それはいいや。それじゃあ、話を聞こうか」

 「……いいのかい? 最後のひと時なのに」

 「でも、お前はそうして欲しいんだろう?」

 「う、うん……」

 「なら、それで良いじゃないか。変に遠慮するなよ。どうせ他にすることもないしな。だからほら、話してみ?」

 「あ……うん。ありがとう……それじゃあ、どこから話そうかな。時間が無いなら短くまとめないとだよね。ええっとね――――」












 「――――そんなわけで、今ボクはこうしてダンジョンの奥底で、自身の消滅を待つだけの存在となっているわけなんだ。アハハ……馬鹿みたいだよね。子供みたいなわがまま言って、キミやこの世界の皆に迷惑かけて、挙句の果てに死にそうになってるなんて」


 そうして邪神が7分程の時間をかけて語った内容は、簡単にまとめるとこんな感じだ。


 神は七人いて、数千から数万年に一度、地上に古龍という器を用いて降臨する。これは順番制で、邪神はホントはくじ引きで三番目になったんだけど、それを羨ましそうに見ていた七番目になってしまったルナトメリスと順番を交代してあげたらしい。

 そうして六番目まで終わって、今回は七回目。ようやく自分の番が回ってきたと楽しみにしていたら、直前になって一番最初に自分の順番を終えていた闘争神のギルメテウスが、「俺の時は人間も生まれていなかったし、不公平だ。もう一度くじをやり直すべきだ」なんて言い出したんだと。

 普通に考えてそんな暴論、通るはずもないのだが……他の既に順番を終えていた五人は、これに同調。勝手にくじをしてしまい、邪神は残った最後の一枚ってことで順番はまた最後。どう考えても仕組んでそうしたとしか思えなかったし、そもそもそんな理不尽な話は許容できなかったけれど、元々人々から広く信仰を集めていた、六大神である他の皆の方が力も強いし、結局押し切られてしまった。

 それでもやっぱり納得できなかった邪神は、地上にそのままの姿で降りて、まだ未成熟だった古龍の器を先にゲットしに行ったらしい。これは神にとっては相当なタブー――――というか、神はそもそも地上での活動が難しいから、わざわざ古龍なんて器を用意するんであって、なんの準備もなく降臨するなんて、もはや自殺行為らしい。けれど、その時は頭に血が上っていて、深く考えずに衝動的にそんな行動に出てしまったらしい。


 でもまあ当然というべきか、器はまだ神がそこに宿れるほど成熟しておらず、更には未成熟な幼体に接触してしまったことで、僅かに邪神の性質の影響を受けて変質してしまったらしい。

 ……魔晶龍は大人しい種のはずなのに、やけに激しい破壊衝動に襲われることは不思議に感じていたが、そのせいか……まったく。


 まあ、そんなわけで流石にそこで冷静になって帰ろうとしたのだが、何故か開けっ放しで来たはずの神界の門が閉じていて、帰れなくなってしまったらしい。

 地上から単独で門を開けるなんて、信仰もされず、むしろ人々から嫌悪の対象とされている邪神には不可能で……地上にいても神気をまき散らしてしまうので、どこか身を潜められる場所をと彷徨った末に、ここに辿り着いたらしい。

 ちなみに、邪神教徒が力を増しているのは確かに邪神が地上に降りてきてしまったせいらしいが、力を得ていること自体は、元々の世界のシステムでそうなっているだけで、別に何かしたとかではないんだと。


 いやしかし、なんと言うか……クズばっかだな神様!! 何が六大神だよ!! 自分の順番が待ちきれなくて数の力で黙らせるって……ガキかっつーの!! その結果がこれか? 酷過ぎるだろおい。

 っていうか……もしかしてあの輪廻神が言ってた世界の危機って、これなのか? もしマジでこれなんだったら、殴るぞ? 神とか関係無く。だってこんなん、小学生のイジメレベルじゃねえか。二次被害が凄まじいだけで。

 それの解決を自分でせずに異世界から引っ張ってきた人間に丸投げって……俺は転生だからまだいいが、勝手に拉致された勇者はいい迷惑だぞ? 異世界召喚とか勇者って言えばまだ聞こえは良いが、ぶっちゃけただの拉致だからな? しかも絶対に帰れないとかいう最悪なオマケ付きの。


 まあ、邪神曰くあの勇者の遺した魔導具内の空間は、一度確認された以上、既に神の管理するところとなっているはずだから逃げ場とはなり得ないらしいし、俺の死は確定的だ。そうなったら輪廻神の顔くらいは拝めるだろうし、一つ文句でも言ってやるとしよう。

 あ、ってかこの身体って古龍だよな。邪神が接触した時にはまだ未成熟だったっていう話だったが、今はどうなんだ? これ使えるなら、邪神は死なずに済むし、暴走も防げてWin-Winなんじゃなかろうか?


 「なあ、邪神さんよ。俺はどうせもうすぐ死ぬんだろ? ならこの身体、使えないのか?」

 「……え? いやそれは流石に――――」


 などと言いながらも、重い身体を引きずって俺の元まで来て、その胸に手を当てる邪神。どうやら、何かを確認しているようだ。


 「……どうだ?」

 「うそ……使える。で、でもっ! そんなはず――――」

 「まあいいじゃないか、使えるならさ。使ってくれよ」

 「で、でも……そうするには、完全に君が離れる前に譲渡する必要が――――」

 「構わない。どうすればいい?」

 「……死ぬんだよ?」

 「どうせ大して変わらん。それに俺は、暴走して仲間を殺したくはない」

 「……ありがとう。レイジって言ったよね。君の名前、絶対に忘れないよ」


 邪神は本当に感謝をしてくれているようで、俺の手を両手で包んで力強い目で俺を見つめてくる。

 ……というか、さっきまで元気無さそうだったのに、随分動けるんだなおい。


 「別にそれはどっちでもいいけどさ。もし俺に少しでも恩義を感じてくれるならさ……皆のこと、頼む。古龍の役目に支障をきたさない程度でいいからさ。変な気起こして自殺、なんてことにならないようにして欲しい」

 「わかった。約束する」

 「それから……こいつも頼めるか?」


 そう言って俺が差し出したのは――――妖刀白雪。

 結局、コアを処理するだけの余力が俺に残っておらず、持ったままになってしまっていたが、邪神なら大丈夫だろう。


 「これは……意思を持つ魔剣か。うん、任された」


 (……あるじ……ごめんなさい)


 邪神が白雪を受け取り、持ち主変更による魂の繋がりが経たれる直前。そんな声が頭の中に響く。

 白雪の念話か。まったく……気にするなって言ったろうが。


 「いいさ。気にするな。たぶんお前がいてもいなくても、結果は変わらなかっただろうさ。それに、お前と過ごした日々は……短かったけど、楽しかったよ。だから……ありがとな。どうか、達者でな」

 (……うん……ぐすっ……こちらこそ、ありがとう。楽しかった……あるじ、大好き。これから持ち主が誰に代わっても、あるじはレイジだけ。レイジがわたしのあるじだから。だから……ずっと待ってる)

 「馬鹿野郎……俺はもう――――」

 (待ってるから)


 その言葉には、絶対に曲げることは無いという強い意思が感じられた。

 まったく、なんでそんな慕われてんだか。そんなフラグあったか? ……ったく、馬鹿野郎が。俺が仮に転生して再びこの世界に人として生を受けたとしても、それでお前と巡り合って、お前を所持できる力を持っている可能性なんて、ほぼゼロなんだぞ? わかってるのか?


 「……好きにしろ」

 (っ!! ――――――うんっ!!)


 そっけない返事をしたにも関わらず、返ってきたのは今までで聞いた中で一番明るい、可愛らしい声。まったく……そんな声出すんじゃねえよ。泣きたくなっちまうじゃねえか……ちくしょう……


 「確かに、受け取ったよ。他には、何かあるかな? なんでもいいよ。ボクにできることなら、何でも」

 「なら、あと一つだけ」

 「なんだい?」

 「邪神さんよ。アンタがどれだけ自分の行いを悔いているかなんて知らないし、どうでもいい。俺に対してどれだけの罪悪感を抱いているのかも聞かない。だが、もし俺の死に少しでも責任を感じているのであれば……俺の分までとはいわない。せめて、俺の分だけでもいいから幸せになってくれ。自分の分は、いくら捨ててもいいからさ」


 先ほどから、彼女の悲痛な面持ちが気になっていた。

 俺を見つめる彼女の顔は今にも泣きそうで、放っておきたくなかった。


 「……ズルいよ、そんな言い方。君はきっと、僕がどう考えているのかも、どうしようとしているのかも、全部わかっていてそんなことを言っているのだろう?」

 「……すまんな。これは、俺からの呪いであり、許しだ。君がどれだけ俺に罪悪感を抱こうとも、俺は君を許しているという証明で、君自身が自分を許せない限り、君を縛る呪縛となるだろう。だが、これが俺の願いだ。諦めて受け取っておいてくれ」

 「……うん。その願い《呪い》、確かに受け取ったよ」


 「おう。そんじゃ、頼み事も済んだことだし、そろそろ頼むわ」

 「……本当に、良いのかい?」


 どうやら先ほどの白雪とのやり取りを聞いていたのか、こちらを気遣うように再び確認をしてくる。

 確かに正直あの会話で、ちょっとだけ……あと少しだけ生きていたいと、そう思ってしまったりもしたよ。でも――――


 「……ああ。頼む」

 「…………わかった」


 数秒。視線を交わし合い、俺の覚悟を受け取った邪神が、ようやく最後の返事をしてくれる。こんなことを言っては何だが、流石にもう限界なのでさっさと一思いにやって欲しい。


 「じゃあ、始めるね」


 そう言って邪神が俺の胸に手を当てると、俺の中に別の何かが入り込んでくるのを感じる。

 ソレは確かに異物のはずなのに、まるでそれが当然と言わんばかりに、抵抗なく俺の身体中に広がり、馴染んでいく。

 そうして最後に俺の核へとたどり着くと、俺の魂が入っていた場所が、ソレで満たされていく。

 そうして俺の魂は、何の抵抗もなくすんなりと――――器から抜け出した。


 「ありがとう。ごめんね……さようなら」


 そんな邪神の泣きそうな声を最後に――――俺の意識は、闇の底へと沈んでいった。

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