第百四十話 『頼るべき仲間』
「な……なんでそんな大事なことを話してくれなかったの!?」
俺が話を終えるや否や、香奈が悲しそうな顔で俺に抗議の声を上げる。
「……すまん。結論だけ言えば……言葉は悪くなってしまうが、俺が皆を信頼できていなかった。それだけだ」
俺の発した言葉の意味をすぐに理解したフィルスは、悔しそうな顔をして俯き、梨華ちゃんは少し悲しそうな顔をしながらも、こちらに理解の色を示してくれた。
だが、香奈は少々興奮気味なせいもあってか、少々思い違いをしたようで、
「そ、それって……私たちが信じられなかったってこと!? 確かに私とレイジにぃは子供の頃に一緒に暮らしてたってだけだし、フィルスと梨華も出会ってそう間もない他人だよ。だけど、でもっ!!」
「待て待て待て、落ち着け。別にお前の言っているような意味で信じていなかったわけじゃない。信頼はできていなかったが、信用はしていたさ」
「へっ? え、えっと……」
「言葉が足りなかったな、スマン。ようは、俺は人として皆を信用はしていたが、戦力としては皆を信頼できていなかったってことだ」
「つ、つまり……私たちが弱いから、戦力として見ていなかったってこと?」
「いやまあ……極端に言えば、そういうことだな。全くという訳では無いが、一定以上のレベルの事態に陥った際に限って言えば、そう考えていた。そしてそれは、申し訳ないが今でもあまり変わらない」
俺がそう言うと、皆一様に複雑そうな顔をする。まあ、当たり前のことだろうが。
「ただ、信頼することの大切さというのにも、ついさっき気付くことが出来たのでな。こうして皆に相談したというわけだ」
「なら、すぐにダンジョンに――――」
俺は香奈の発言を右手人差し指をその口に当てて止める。
「香奈の意思はわかった。だが、これは命に関わる選択だ。どうするかは、個々に決めて欲しい。隣にいる仲間のことは気にしなくて――――「お兄さん」」
「あ、え? ……梨華ちゃん?」
「信頼、してくれてるんですよね? なら……その気遣いは、無粋ですよ?」
「……ふっ……くっくっくっ……そうだな。その通りだ」
梨華ちゃんの言葉に、改めて皆に目を向けてみれば、皆一様に力強い目で俺を見つめていた。
ああ……そうだよな。仲間として信頼するって言うなら、こうじゃないよな。
「すまん、皆……俺の為に、その命をかけて欲しい。頼む」
「「「はい!(うん!)」」」
「……それで、レイジにぃ? 具体的にはどうするつもり~とか、あるの?」
「ん? あぁ~そうだな……とりあえず、ダンジョンの所在については、協会に聞いてみよう。既存のもので条件に合うものがあるかはわからんが、この近辺の情報が聞けるだけでも十分役に立つ」
「それじゃあ早速行こうか!」
「ああ。ただそれは、香奈と梨華ちゃんで行ってきてくれ。その間に俺は、ダンジョンアタックするための準備を進めておく。俺が戦力として数えられなくなる可能性がある以上、ある程度の戦力強化は必須だろう。それに……」
「……それに、何?」
「……俺に万が一のことがあった時は、俺を殺せるように準備をしておかないといけないしな」
「……え? な、なにそれ。そんなの……そんなの、嫌だよ。だって――――」
「今も俺を侵食し続けているのコイツは、邪神の神気だ。それに加えて、俺は元々古龍の破壊衝動を抱えている。神気に魂を侵されている今、そっちの制御もかなり不安定になってやがる。すぐにどうこうなる訳では無いが、ダンジョンで戦闘を繰り返せば、どうなるかはわからない。そして暴走したら、今度こそ……だから――――」
「嫌だよ! だ、だって……レイジにぃが死んじゃうんだよ!? そんなの絶対嫌!! そんなことするくらいなら、私も一緒に――――」
「香奈!!」
俺のしかりつけるような声に、身を竦める香奈。
俺もできればそんなことはさせたくないが、俺達だけの問題でもないからな、これは。きちんと言っておかないと。
「この間暴走した時の力は見ただろう!? あれが更に強化されて、しかも今度はきっと――――止められない。そうなれば、どれだけの犠牲が出るか……あるいは、俺自身が災厄となって無差別な大規模破壊をしてしまうかもしれん。だから、俺が暴走しそうになったらその時は……頼む。やるのは香奈じゃなくてもいい。だが、せめて止めてはくれるなよ?」
「うぅ……でも…………ううん、わかった。でも!! でも……絶対そんなことにはさせないから!! 私が、私たちが助けてみせるから!!」
「ああ、わかってる。頼りにしてるよ」
「うんっ!!」
「二人も、いいか?」
「はい。香奈のことも、任せて下さい」
「……フィルス?」
「……いえ、大丈夫です。そのときには、私が……私がレイジ様を殺します。ですが……」
フィルスは悲痛そうな面持ちで、一度言葉を切る。
まあ、それはそうだろうな。俺だってフィルスに殺してくれなんて言われたら、わかったなんて簡単には言ってやれそうにない。
「レイジ様の死を見届けた後に、私自身も共に命を絶つことをお許しください」
「そ、それは!! ……いや、わかった。こんなことを頼む俺に、それを止める資格なんてないしな。でも、できれば生きていて欲しいとも思っている。それだけは、わかっていて欲しい」
「……はい」
話は済んだのだが……話題が話題だったせいで、完全にお通夜みたいな空気になっている。参ったな……
「ま、それもあくまで万が一の、最悪の状況になったらの話だ。いまはあまり気にしなくていいだろ。それに、そうならないようにこれから頑張るんだからな!」
「あ……はい。そうですよね。では、私は何をしたら良いでしょうか?」
「ん~そうだな……それじゃあ、ちょいと魔導具製作に付き合ってもらおうかね」
「はいっ!」
「それじゃあ私たちは、冒険者協会に行って、色々聞いて来ますね。香奈、行こ!」
「おう、任せた」
「まっかされました~!! 期待して待っててね!」
「安心しろ。香奈に情報収集は、最初からあまり期待してないから」
「な、なんだと~!! ぜ~ったいにぎゃふんと言わせるネタを掴んできてやるんだからねっ!!」
「はいはい」
「む~っ!! 梨華、行くよ!!」
「ちょっと、引っ張らないでよ~」
ぷりぷりしながら部屋を出て行く香奈と、香奈に引きずられていく梨華ちゃん。
ついからかっちゃったけど、まあやる気を出してくれているので良しとしよう。
さて、それじゃあ俺も急いで作業をするとしますかね。
「……そう、か。どうするかな……」
俺が魔導具製作を始めて数刻が過ぎた昼下がり。協会まで情報を仕入れに行っていた香奈たちが帰還した。
随分時間がかかっていたからどうしたのかと心配していたが、どうやら他にも色々聞いて回ってきてくれたらしい。
しかし、それによって得られた情報は、"新たに発見されたダンジョンは無く、周辺には大規模と言うべきダンジョンしか存在しない"という事であった。
「どうする? 大きいところに行く? それとも、私たちで新しいの探してみようか?」
「そうだな……とりあえず、装備が全員分完成するまでは交代で探索にしよう。とりあえずフィルスの装備はもう作るだけだから、次は香奈が残ってくれ。2人は情報収集やダンジョン探索を頼む。梨華ちゃんは――そうだな……夕方には戻ってくれ」
「「了解しました!」」
どこで覚えたのか、フィルスまで梨華ちゃんと一緒に敬礼をすると、そのまま駆け足で部屋を出て行った。
それじゃあ俺も、梨華ちゃんが帰ってくるまでに作業を終わらせないとな。
改めて、気合入れていきますか!
次話を没にしたりしてて、余計に時間かかっちゃいました。すみません(;´・ω・)
ちょっと先の展開で迷ってるので、次も遅くなる……かも? です。はい。
が、ガンバリマス(⁻Д⁻;) 適度に。
あ、それから評価1500ポイント超えました。ありがとうございます_(._.)_
これからもマイペースに、リアルに影響が出ないくらいでそこそこ頑張っていきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。