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第百三十五話 『やっぱりお風呂は入りたいよね』

 「ん~……美味しいっちゃ美味しいんだけどねぇ……」


 香ばしい匂いにつられて入った飯屋で、少し遅めの昼食をとる俺達。

 香奈も言う通り、確かに美味いのだが……如何せん味に深みが無いというか、素材の味しか無いというか……

 こちらの世界に来てからというもの、はっきりと文句無く美味いと言える飯を食った経験があまりない。

 まあ、貴族の家でも毎日のように高価な香辛料を使った料理が出て来る訳でもないくらいだし、仕方が無いのかもしれないが……何とかしたいものだ。

 香辛料としていくつか目星をつけている物はあるのだが、いまだ使えるレベルまできちんと加工できているものは無い。

 これについては、合間を縫ってちまちま進めて行って、そのうちって感じかな。

 商人とのパイプでもあれば、仕入れを頼める可能性も無くは無いのかもしれんが……誰も食用として採ってないような植物だし、難しいか?


 「やっぱり無理なのかなぁ~」


 そこまで考えたところで、まるで俺の思考に割って入るようなセリフが、香奈の口から出る。

 まさか、こんな複雑な思考まで表情から読み取ったんじゃ――――


 「ねえ、やっぱりお風呂ってどうにもならないの?」


 っと、そっちか。なんだ、良かった。一瞬ビクッとしちまったぜ。いつの間に飯の愚痴からシフトしてたんだよ。

 しかし、風呂ねぇ……まあ、どうにかならんことは無いし、そもそもどうにかするつもりだ。

 とはいえ、確実に上手くいく保障はないので、まだ黙っておくつもりだったのだが……どうするかな。


 「無理そうなら、ワンチャンあっちの高い宿に一泊だけ――――」

 「あーストップストップ! 大丈夫だ、何とかする。だから無駄な散財はとりあえず避けてくれ」


 今は言う程金が無いのだ。そんなポンポン使ったら、あっという間に財布が空になっちまう。

 まあ、金が無い原因のほとんどは、俺の魔導具製作のための材料費なのだが。


 「どうにかなるの? 魔導具、使えないんでしょ?」

 「ああ、まあな。ただ、俺も多少は回復して、しょぼい魔導具くらいなら作れるから、その範疇でどうにかできないか模索してみるよ。各工程を別々で作って、皆に使ってもらうだけでもかなり簡単になるしな」


 まあ、たぶん小さい風呂くらいならどうにかなるだろう。足を伸ばせるくらいのサイズが作れれば上々かな?


 「ほうほう! ならさっさと食べて、早く宿に戻らないとね!」


 風呂に入れるとわかった途端、急いで飯をかっ込み始める香奈。心なしか、白雪以外の2人の食うスピードも上がった気がする。

 まったく……


 「誰も、絶対にできるなんて言っていないのだがな……」

 「大丈夫だよ、レイジにぃなら。だって、最初にお風呂の魔導具作った時なんて、お風呂に入りたい一心でスキルを昇華させたくらいのお風呂好きなんだし」

 「そりゃまあ、風呂は日本人にとっては――――って、俺その話香奈にしたっけ?」

 「ん? ああ、フィルスから前に聞いたの」

 「あ、さいですか」


 あまりそういう恥ずかしい話が広まるのは嬉しくないのだが……まあいいか。





 そうして食事を終えた俺は、さっそく宿に戻って風呂魔導具の製作に取り掛かる。

 集中したいので、今回は一人部屋での作業だ。

 今頃隣の部屋では、女子トークなんかが繰り広げられているのだろうが、無駄なリソースを割かないために、申し訳ないが白雪の実体化は一旦解除している。

 香奈からはブーイングがあったものの、「風呂、入れなくなっても良いのか?」と言ったらすぐに手のひらを返して、「邪魔しないように大人しくしてよう」とか言いながら2人の背を押して部屋に引っ込んでいった。

 まあ、白雪本人が嫌だと言ったならば、俺も無下にはできなかっただろうがな。


 「……別に、おしゃべりしたかったなら、してきてもいいんだぞ? ああは言ったが、スレブメリナでも、ここまでの道中でも、あまり実体化させてやれてなかったし」

 (……平気。あるじがいる)

 「む……まあ、そう言ってくれるのは嬉しいが、俺も何だかんだ言って、あまり話し相手になってやれてないし……寂しかったりしないのか?」

 (うん……あるじがわたしを連れ出してくれなければ、誰とも話せなかったから。だから、十分)

 「でも――――」

 (それに、わたしはあるじの剣……あるじの道具……だから、あるじの邪魔をしてまで、何かをしたいとは思わない……道具の幸せは、あるじの役に立つことだから)

 「ん~、俺は白雪のこと、道具だとは思ってないんだがなぁ……あんまり気を遣わなくてもいいんだぞ?」

 (別に、そういうのじゃない。わたしは道具として生まれ、道具として生きている……人に近い存在でも、考え方は、やっぱり違うから)


 ふむ、そういうものなのか。

 まあ、その辺は白雪の解説書読めばわかるかもだし、風呂が完成したら目を通しておかないとな。

 ……そういや、白雪解説書とか説明書とか、呼び方が定まってない気がする。まあ、タイトルが無いから仕方ないっちゃ仕方ないんだが……まあ、今後は"白雪解説書"で統一しとこ。特に意味は無いけど。いろんな呼び方してるのは、なんか気持ち悪いし。

 っと、そんなことより風呂だ風呂。さっさと仕上げちまおう一発で成功なんて、まず無理だろうからな。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 「しかし……香奈はいいの? このままでさ」


 レイジにぃと別れて部屋に入るなり、梨華が少し呆れたような声でそう言ってくる。

 このままって……まあ、レイジにぃとのことだよね。レイジにぃが居なくなったこのタイミングで切り出したあたりから考えて。


 「そりゃ、まぁ……良いと思ってる……わけじゃないけど……」

 「でも、あんまり積極的に行ってないじゃん? というか、全然じゃない?」

 「そ、そりゃ、だって、スレブメリナでは勉強ばっかで、彼女のフィルスですら若干放置気味だったのに、私なんて……」

 「なら、ここまでの道中は? そんなに積極的に話しに行ったりしてなかったじゃない?」

 「うっ……だって、フィルスとなんか良い雰囲気になってること多かったし、あんなこともあったし……」


 それに、レイジにぃは私のこと、妹としてしか見てないし……あの時は「頑張るぞ!」って思ったけど、無理だよ……レイジにぃは、やっぱり元々日本人で、その感覚のままでいる以上、他の彼女~なんて考えないだろうし、かく言う私だって、そういうのどうなのかな? って思っちゃってるし……


 「はぁ……じゃあ、フィルスのほうはどう思ってるの?」

 「私? 私は、香奈のことも好きだし、一緒にレイジ様に大切にしてもらえるのが一番かなぁって」

 「ほら、彼女のフィルスは背中押してくれてるよ? あんまりうじうじしてないで、思い切って行ってみたら?」

 「で、でも――――」

 「そもそも! 妹みたいにしか見られてないからって諦めてるんでしょ?」

 「うっ……」

 「私に言わせれば、そんなの当たり前よ? だって、あんた自身がその立場に甘えちゃってるんだから。居心地良いんでしょ? レイジさんに気軽に甘えられて、しょうがないなぁってお願い聞いてもらえて」


 うぐっ! た、確かにそういうところがあるのは認めるけど……


 「でもね、そんなんじゃ、向こうが見る目変える訳ないじゃない! いい? 今はチャンスなの! しばらく派手な動きできなくて、やることも無くのんびり一ヶ所に滞在している今が!! わかったら、まずは一人の異性として見て欲しいって、告白の一つでもしてきなさい」

 「え、ええっ!? いやいやいや、告白は流石に――――」

 「甘い!! 甘すぎる!! そんなんだからいつまで経っても意識してすらもらえないのよ! 女は度胸! 今はまあじゃましちゃあれだからいいけど、明日には手も空くでしょ」

 「そ、そんな急に言われても……心の準備とか、色々……」

 「じゃあ、このチャンスはぜーんぶフィルスに譲るってことで良いのね? 私ら2人は冒険者の仕事して、フィルスとレイジさんは村でのんびりデートとか、私ら2人は気を遣って別の部屋に行って、フィルスとレイジさんで甘~い空気作ってたりとか、私ら2人は――――」

 「わーー! わーーーー!! わかった!! わかりましたっ!! やるよ!! やればいいんでしょう!?」

 「そ、やればいいのよ」


 ぐ、ぐぬぅ……涼しい顔で言ってくれちゃって……人がどれだけ怖くて、勇気振り絞ってるかも知らないで……

 でもまあ、そうだよね。言わなきゃ伝わらないことって、あるもんね。

 よ~し、宮辻香奈っ! 頑張ります!!



―作者のどうでもいい小話―

最近運動不足に悩まされている私。色々と身体に症状出始めている気がする……

PCの前座ってばっかりなせいか、首も悪くしちゃってるし……

病院で、なで肩だからなりやすいとか診断されて、整骨院の先生に爆笑されたのはいい思い出(笑)

診断書になで肩なんて書かれてるの初めて見たとかw

……最近、通院サボってるなぁ~

まあ私のことはいいとして……皆さんも生活習慣の乱れなどには十分お気を付けください(;^ω^)

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