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第百三十二話 『よくわからんが、どうやら俺に非があるらしい』

2017/08/27 サブタイトルのミスを修正

 ところで――――と、商談が終わった俺は、ニールさんに話を切り出す。

 実は一つ、気になっていたことがあったのだが、少し聞きにくくて様子を窺っていたのだ。


 「ニールさんは、フィルスの……その~……耳とか尻尾とか、気になったりはしないんですか?」


 そう、俺が目が覚めた時、フィルスは耳も尻尾も隠していなかった。

 おそらく、俺が暴走したせいなのだと思う。

 でも、それに対してニールさんは、何も言ってなったし、特に変な視線を向ける様子も無かった。

 だからとりあえず、様子を見るだけで、本人フィルスの前でわざわざそういう質問をするのは避けてきたのだ。

 その質問は、フィルスの"自分が差別されている立場である"という思いを、助長してしまう事になりかねないから。

 なるべくは、そんな感傷とは無縁な生活をして欲しいと思うから。

 でも、今後も長く付き合いを持つのであれば、これは確認しておかなければならないことだろう。


 「ああ、それですか。まあ確かに、お恥ずかしい話しではありますが、私も少し前までは、差別意識というものを確かに持っておりました。あからさまに何かするという事はありませんでしたが、それでも心の中では、どこか下に見ていたことは間違いありません。ですが、少し前にアストレアで、古龍様のご要望の元、獣人に対する差別意識を無くす取り組みがはじめられたという話を耳にしましてね」


 ほう……噂にまでなっているってことは、何かしらの取り組みをすでに行っているというとこか。随分早いな。

 いやまあ、失敗しない分には、早いのは良いことなのだが。


 「その話を耳にしたとき、私は初めて、獣人差別という事に対して真面目に考える機会を得ました。そして気が付いたのです。お客様であれば、どんな相手でも真摯に対応し、きちんと分け隔てなく平等にというのが私のポリシーなのですが、その対象に獣人の方々が含まれていなかったという事に。私はその時、愕然としましたよ。今まで獣人のお客様がいなかったから良かったものの、もし一人でもいらっしゃっていたら、自分はどうしていただろうかと、怖くなりました。そして誓ったのです。二度と漠然とした差別意識などに左右されることなく、目の前にいるその人をきちんと見て判断しようと」


 そこまで話したニールさんは、俺に向けていた視線を外し、フィルスの方を見る。


「そして今回、フィルス様とお話しさせていただいて、確信いたしました。別に獣人もヒトも、何も変わらないのだと。悪人もいれば善人もいて、強い者も弱い者もいる。ただ少し、生まれつき持った肉体的な特徴が違うだけ。だって彼女は、こんなにも優しい心を持った方なのですから」


 そう言って俺に向き直ったニールさんの顔には、少し照れくさそうな、優しそうな笑顔が浮かべられていた。


 「そう、ですか」

 「ええ。ですから、考え直す機会を下さった古龍様には、感謝しております」

 「え? あ、はい。えっと、それは何よりです。こちらこそありがとうございます」

 「いえいえ。ところで……古龍様がそのような取り組みをするようにアストレア王に働きかけたのは、やはりフィルス様のため、なのでしょうか?」

 「あはは……えっと、まあ~その……そうなりますかね?」


 まあ、単純に差別が気に食わなかったってのもあるけど、まあフィルスの為ってのが一番大きな理由であることには間違いはない。


 「そうでしたか。それほど大切になさっているという事は、やはり何か、特別な存在なのでしょうか? 何か特異な能力を有しているとか、実は希少な種族とか――――」

 「い、いえ! 別にそう言ったことは何も……ただ、巡り合う機会に恵まれたというだけですよ。大切な存在であるというのは、まあその通りなのですが」


 そう言ってフィルスを見つめる俺。

 フィルスも、顔をほんのり赤らめながらも、しっかりと俺の目を見つめ返してくれる。


 「……ああ、そういうご関係でしたか。これは失敬。では、邪魔者はこの辺で話を終えておきますかな? はっはっはっ!」


 横でニールさんの笑い声が聞こえたが、そんなことは気にしない。

 こうして見つめ合っているだけで、こんなにも幸せな気持ちになれる。こんなにも満たされている。なんて素晴らしいのだろう。

 確かに俺は、地球では夢半ばで散ってしまった。その人生に大きな意味があったのかと問われれば、正直言葉に詰まってしまうだろう。

 だが、こちらの世界に再び生まれ、ここに生きている意味は、確かにここに在る。俺が転生したのは、このに会うためだったのだと、そう思わせてくれる。

 ああ、なんて恵まれた生なのだろうか。なんて輝かしい人生なのだろうか。人じゃないけど。

 俺は、何があってもこの娘を――――


 「レイジにぃ? 私たちのこと忘れてない? なんでだんだん距離詰めてるのよ。もうそのままキスしそうな勢いじゃん! せめてそういうのは……その……人目のないところでしてよね!!」


 むっ!? しょ、少々トリップしかけていたようだ。体が弱っているせいで、気持ちまで弱っていたのかもしれん。

 確かに、このシチュエーションでキスは無いわな、うん。

 皆が見てるし、雨降ってるし、護衛任務中だし。反省だ。


 「「す、すみません」」


 セリフが被ってしまったことで、反射的にフィルスの方に視線を再度向けてしまう。

 そうしてその瞳を見つめているうちに、だんだんと心が温かく――――


 「ストーーップ!! 実は全然反省してないでしょ!! 私だってね、私だって悔しいけど……でも別に、二人の仲を邪魔したい訳じゃないんだよ!? 悔しいけど!! でも、せめて時と場所を考えてよね!! 何なの!? 付き合い始めて早々にレイジにぃは学園通い始めて、全然スキンシップも無いし、2人はそういう、シャイでのんびりなカップルなのかな~とか思ってたら、終わった途端これなの? 反動なの!? 我慢してたの!?」


 うおっ!? た、確かに今のは俺達が悪かったかもしれないが、そんな半狂乱になってキレるほどか!?

 何がお前をそこまで――――いや、それより今は、


 「ま、待て待て落ち着け!! 悪かった! 俺が悪かったよ!! 別にそんなんじゃないさ。確かに安全確保のためとはいえ、付き合い始めて早々に魔法研究に夢中になって、フィルスのことをおざなりにしていたのはマズかったなとは思ってるし、今は体が弱ってちょっと甘えたくなってしまっていたかもしれないが、ちゃんと我慢するから!! 常識的な行動の範疇で我慢するから!!」

 「……約束できる?」

 「あ、ああ。善処する」

 「や・く・そ・く・で・き・る!?」

 「……約束、できます」

 「よろしい」


 お、おおう? 香奈が怒るのなんて初めて見た。

 はあ、怒ってるっていうよりは、半分拗ねてるような感じにも見えるが。

 ……なんだ? もしかして香奈の奴、お兄ちゃんがとられて拗ねちゃったのか? 愛い奴め。

 それなら素直に甘えてきてくれれば、いくらでも甘やかしてやるのに。


 「……レイジ様。レイジ様は少々勘違いをなさっているように思えます」

 「ん? いや、そんな事無いと思――――」

 「あります。レイジ様、確かに今のは私もレイジ様を失うかもしれない恐怖から解放された反動で、少々浮かれておりましたが、今後は自重いたしますので、レイジ様もご自重くださいますよう、よろしくお願いします」

 「え? あ、はい」


 え? なんでフィルスもちょっと怒ってるの? ていうか、勘違いって何? えっと……

 答えを求めて、唯一俺に当たりのキツくない梨華ちゃんに視線を向けると、苦笑いで視線を逸らされる。

 え? 俺が悪いの? マジで? マジか……


 そうして俺は雨の中、一人荷台に揺られながら、あまり良いとは言えない雰囲気の中、静かな旅を堪能するのであった。

 …………解せぬ。

 


今日はなんだか、ネットが大規模障害起こしててヤバいですなぁ~

通信遅すぎてハゲそう……

執筆はデータ飛ぶの怖いんで、直るまで控えます。

そんなわけで、次の投稿は場合によっては少し遅れるかもしれませんが、ご了承ください。

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