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第百三十一話 『予想以上の食いつきだった』

 「いやはや、素晴らしいですな! これは、完成したら売り出す予定などは……」


 目をキラキラさせながら俺の話を聞いていたニールさんが、やはりというべきか、俺が話を終え次第、我先にと食いついて来た。


 「あ~いえ、特にそういった予定はないですかね。元々、自分たちであったら便利なものを作っているだけなので」

 「で、でしたら是非! 是非売らせてはいただけないでしょうか!! 面倒な経理や事務は、全て私にお任せくださって構いません! 私の取り分も、利益の3割……いえ、2割で結構です! 無論、いくらでどこに、いつ何個売ったかを全て明記した上で、ご報告させていただきます。商品の最低買取価格も設定し、そちらには前金としてお支払いいたしますし、万が一損をした場合でも、そちらへの請求はございません!! どうでしょうか!!」

 「え、えっと……」


 あまりの食いつき様に、思わずたじろいでしまう。

 というか今の話、かな~り俺に有利な感じに聞こえたが、どこかに落とし穴でもあるのか?

 でも、そういう人を化かすような真似、ニールさんはしなさそうに見えるんだけど……


 「おっと、すみません。つい興奮してしまいました。古龍様がお相手だというのに私は……申し訳ございません」

 「ああっいえいえ! 全然、気にしないでください。国王や貴族の前などでは、威厳を保つために偉そうにしていましたが、実際別に大した存在でもないので」

 「そんなことはございません!! 古龍様といえば、この世の頂点に君臨する、神の御使い!! それが大した存在でないというのであれば、我ら人間など、路傍の石と変わりますまいて」


 あはは……ガチだ、この人。

 謙遜とかじゃなく、ガチで言ってやがる。

 ま、まあ……彼らの感覚からしたら、キリスト教徒の前にいきなりイエス様が降臨するとか、そういうレベルなのかもな。


 「と、ところで、今のお話だと、随分こちらが有利に聞こえたのですが……」

 「ええ。通常では考えられないレベルで、優遇させていただきました」

 「……それは、どうしてまた?」

 「無論、絶対に売れると確信しているからです!」


 力拳を天に掲げ、大げさなポーズで宣言するニールさん。

 俺の中で、彼の紳士像がどんどん崩れていく……

 まあ、これが商人としての彼の顔なのだろうな。実に熱心で良いことじゃないか、うん。


 「ところで、先にお伺いしておきたいのですが……この、水分だけを識別し、通過させる結界。これは、細かい調整などは可能なのですかな?」

 「? ええ、それなりには。逆はもちろん可能ですし、それ以外にも色々――――」

 「でしたら! 用途は無限大!! 絶対にバカ売れ間違いなしです!! もっときちんとした形で、用途に合わせて作れば、間違いなく売れるでしょう。ただ、一つだけ心配なのは、盗作ですかな。魔法陣さえわかれば、魔導具は作れてしまいますから……」


 ふっふっふ……よくぞ聞いてくれた。

 その点なら心配ご無用だ。


 「お!? 何か策がおありなのですかな!?」


 む? 心の声が漏れていたようだ。まあいい。


 「ええ。実は最近、魔法陣を隠す技術をついに習得したのですよ。たとえば……広く広まっているアーティファクトで、物を沢山入れられる袋がありますよね? あれが複製できない理由は、当然御存じだと思いますが……」

 「ええ、それはもちろん。あれは魔法陣がどこにも描かれていないからです。それでいてあのような効果があることから、一部では神が奇跡の御力を宿した袋なのではと噂されているほどで……まさか!!」

 「ええ、そのまさかですよニールさん。あれは神の奇跡などではございません。れっきとした魔法技術なのです! まあ、細かいことはお話しできませんが、要はあれが私にもできる、ということです」

 「そ、それならば、万が一にも盗作の心配はない……」

 「その通りです」

 「そ、それは素晴らしい!! 今まで、魔導具製作において、新型の魔法陣というのは、独占しえない市場でした。それは、容易に盗作が作れてしまう、という最大の欠点を抱えていたからです。しかし、これならば……お話を聞いて、ますますこれの魅力に惹かれてしまいましたよ! どうですか? 私の商談、是非受けていただければと……」


 う~ん……まあ、商品を製作・提供するだけで勝手にお金が入ってくるなら、それはかなり楽だし、条件もかなり良くて、自分で売るよりずっと良さそうだ。

 彼は依頼を受ける際に聞いた話だと、大商会とまではいわずとも、中堅としてはなかなかに優秀な商会の主だとか……

 そんな人とパイプを持っておけるのは、今後のメリットも大きいだろう。ただ……


 「そのお話、ありがたいものだとは思いますが、今は一旦保留、という事にしてはいただけないでしょうか? まだ商品にできるほどのものではないですし、私たちも旅をしている以上、開発や製作ばかりに時間を割くわけにもいきませんから。無論、こちらの都合で作成したものだけを少数持ち込み、それを売りさばいてくださるというのであればありがたいですが、流石にそれでは――――」

 「そ、それで! それでお願いします!! それで全然かまいません!! もちろん、商品にする際の用途や形状、材質や価格設定のご相談など、無料でお受けいたします!! 何なら、売る際の条件などを提示していただいても――――」

 「い、いいんですか?」

 「もちろんです!!」

 「ちなみに、理由は? あなたは根っからの商人のようですし、私が古龍だから、なんて理由では無いのでしょう?」

 「ええ、もちろんでございます。まあ、古龍様のお人柄と、そのお強さを目にし、一度商談がまとまれば長く続けられそうだという安心感はございますが……それよりも、です。これほどの効果のある魔導具を量産できるというのはつまり、アーティファクトを量産するも同じこと。それを我が商会で独占できるとなれば、たとえその商売で入るお金がそこまで大金でなくとも、名が売れます。無論、この商売自体、何なら利益の1割しか頂けなくとも、十分儲かるとは思いますが、それ以上に、商会としての名が売れるということには、大きな意味があるのです」


 あーまああれか。看板商品みたいなもんか。

 俺の魔導具が売れれば、ついでにと商品を買う人もいるだろうし、商会の名が知れれば、新たな契約なども取りやすくなる。

 地球でも広告にはかなりの金が使われていたし、それをヒット間違いなしの商品を売るだけでできるのであれば、そりゃ嬉しいだろう。

 そういう事なら納得だ。

 条件が必要以上に良いのは、絶対に他に逃がしたくないから、自分ができるギリギリのラインを提示しているのだろう。

 利益の1割でも儲かるとか言っていたが、実際それでは商売として旨味がなさ過ぎるし、名が売れてからはただ大変なだけになってしまう。

 それに、名が売れるまでの生活もきつくなってしまうだろう。


 「わかりました。そういう事なら納得です。では、私の体調が良くなって、魔導具製作が再び可能となったらにはなりますが、よろしくお願いします」

 「で、ではっ!?」

 「ええ、そのお話、ひとまず受けさせていただきます。無論、細かい条件などは改めて詰めることになるとは思いますが――――」

 「もちろんです! で、では無期限の指名依頼を冒険者協会の方に出しておきますので、何かあればその依頼を受けて下さい。そうすれば、私の所に知らせが来るので、その時に場所をお伝えします。あ、もちろんそちらが来いという事であれば、どこへでも馳せ参じる所存ではございますが――――」

 「いえいえ、移動は圧倒的にこちらの方が早いのですから、こちらから伺わせていただきますよ」

 「そうですか。かしこまりました。では、そのときを楽しみに待っております」

 「ええ、ご期待に添えるよう、良いものを作り上げてみせます」


 そうして俺たちは、互いに笑みを浮かべたまま、固い握手を交わすのであった。


そして休み中に書いたストックが無くなったワシ。

ガンバリマス……

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