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第百二十九話 『膝枕って、普通される側が嬉しいんじゃないのか?』

 「…………フィルス?」

 「あっ……お目覚めになられたのですね。お加減はどうでしょうか? どこか、痛むところなどは――」


 目を覚まして最初に視界に入ってきたのは、上からのぞき込むように俺の顔を見るフィルスの顔。

 この光景は前にも見覚えがあるな。ってことは俺は今、フィルスに膝枕されているのか。

 周りを見れば、香奈と梨華ちゃんも、こちらを心配そうな顔でのぞき込んでいる。


 俺は……そうか、香奈が殺されると思って、それで――――


 「迷惑を掛けたみたいだな。怪我人や死人は?」

 「はい。敵一名はレイジ様の攻撃で消滅しましたが、私たちは、レイジ様がお与えになってくださった魔導具で……まあ、それも一撃で壊れてしまいましたが」

 「そうか。良かった……」


 旅に出る前、もしもの時にと、皆には使い捨ての防御用魔導具を渡しておいた。

 起動ボタンを押すと、正面に空魔法による歪みの壁を作りだすというものだ。

 一度きりで壊れて良いものなので、耐久力度外視の、効力重視で作ったものだったが、それが功を奏したのかもな。

 周囲を見渡すと、そこには一部を除き、だだっ広い土のみの平坦な大地が広がっている。

 おそらくこれをやったのは……俺、なのだろう。

 扇状に残っている部分は、フィルスたちの居たところの後ろか。

 暴走時の記憶は曖昧だが、これを見ただけで俺の暴走がいかにヤバいものだったかがわかる。


 「……すまなかったな」

 「いえ、レイジ様がいらっしゃらなければ、皆死んでおりました。むしろ、守っていただけたこと、感謝しております」

 「そ、そうだよ! それにアイツらにとっては、勇者も敵なんだし、レイジにぃは関係ないって!」

 「そうか……ありがとう」


 俺はそう言うと、身体を起こして立ち上がろうとするが、指先を動かすのが精々で、頭すら持ち上げることができない。


 「む……」

 「かなりご無理をなさったのですから、まだ休んでいてください」

 「……すまん」

 「いえ。こうしているのは、嫌ではありませんから。ふふふ」


 そう言う彼女の笑顔は、いたずらに成功した子供のような、どこか無邪気で楽しそうなもので、初めて見るそんな表情に、俺はどこか安堵を覚えた。

 少し前までの彼女であれば、絶対にこんな表情は見せてくれなかっただろうからな。

 少しは、彼女の心も良い方向に変わってこれているのかな……


 「ね、ねえフィルス? そろそろ足が痛いんじゃない? レイジにぃ、今変身状態だから重いし。だからさ、膝枕するの、私が代わっても――――」

 「いえ、まだ大丈夫です」

 「えー……でもでも、本音を言えば――――」

 「大丈夫です」


 ……というか、君たちは人が目を瞑った途端、何をやっているんだか。


 目を開けて見てみれば、なんだか引きつった笑みで迫る香奈と、貼り付けたような笑顔でそれに応じるフィルス。

 ていうかフィルスさんよ、前に俺を膝枕した時は、その後足が痺れて動けなくなっていたじゃないか。

 空は既に暗く、少なくとも数時間は経っているように見える。

 その間ずっとこれだったと考えると、限界なのではないかね?

 いやまあ、別に好きにしたらいいけれどもさ。

 エコノミークラス症候群とかには気を付けるんだぞ? フィルスは知らないだろうけど。


 「フィルス。気持ちは嬉しいが、ずっとその姿勢でいるのは体によくないから、そろそろやめておきなさい。というか、膝枕なんて別にしなくてもいいんだぞ? 魔晶龍騎士の頭は、固いだけじゃなくて尖ってるところもあるし、痛いだろ?」

 「いえ、この程度、大したことは――――」

 「でも、前は足が痺れて動けなくなってたよな?」

 「うっ……それは、その……はい」


 そう言うとフィルスは、渋々と言った感じで俺の頭を両手で支えながらそっと膝を抜き、そのまま地面に置――――


 「では香奈。レイジ様のことをよろしく」

 「はいはいっ! 任されました!」


 ――――くことは無く、香奈にバトンタッチし、代わりに香奈の膝が俺の頭の下に滑り込んでくる。

 香奈は今どきのJKってやつだろうし、普通に考えて正座は慣れていなくて辛いだろう。

 それも下はむき出しの地面で、人よりずっと重い俺の頭を乗せて、だ。

 今は魔素の操作が上手くいかず、軽くしてやることも、人の姿に戻ることもしてやれないし……というか、それができるならこうして寝てる必要も無い訳だが。

 あ、というか――――


 「そういえば、さっきからニールさんの姿が見えないのだが、彼は?」

 「は、はいっ! 私でしたら、ここに!!」


 俺の問いに、遠くから声がしたと思ったら、少し離れた場所にあったニールさんの馬車の裏から、本人が姿を見せ、緊張した面持ちでこちらへ歩いてくる。

 ……いやあんた、なんでそんなところに……てか、なんでそんなにガッチガチなん?

 ああ、あれかな? 俺が怖くて隠れてたとか? だとしたら、悪いことしちゃったかな。

 護衛任務だというのに、逆に巻き込んじゃったしな……


 「えと……それで、どのような御用向きでしょうか?」


 うん? なんだか随分腰が低いような……まあいい。


 「いえ、無事を確認したかったのと、あとは……お詫びを。今回のことは、こちらの事情に巻き込んでしまった形になりますので。護衛だというのに、申し訳ない」

 「い、いえいえ! 私如き、古龍様に下げられる頭などございません! それに、事前の情報によれば、最近この辺りで姿を消す者が相次いでいたとか。その犯人が、恐らくは先ほどの奴だったのでしょう。私もそれで、今回は護衛を雇ったのです。私も多少は腕に覚えがありますし、この辺りは弱い魔獣くらいしか出ませんから。ですので、仮に古龍様がご一緒でなくとも、私は襲われておりました。そして、そうなれば私には、抗う術など無かったでしょう。ですから、今回の護衛は私に言わせれば、文句なしの成功でございます。ありがとうございます。日程には余裕がございますので、どうぞごゆっくりお休みになってください」


 そうだったのか……ていうか、俺古龍だって話してないよな?

 見た目で分かったのか? それとも、香奈たちが話したのだろうか。

 まあ、どっちでもいいか。


 「そう言っていただけると助かります。しかし、このような情けない姿を見せてしまい、申し訳ない。古龍と言えば、もっと絶対の存在っぽいですよね。ははは……」

 「い、いえ! そのようなことは……ま、まあ正直、確かにそう言ったイメージではありましたが、先ほど見せた御力は、確かに強力無比なものでしたし、十分凄まじいかと……」

 「気を遣っていただかなくて結構ですよ。自分でも自覚していることですから。実を言うと、私は生まれてまだ数ヶ月の幼体でして……さらに言えば、不完全な状態で生まれてしまった身。現在は、状態を安定させ、本来の力を発揮するために鍛えている最中なのですよ。あ、この話はオフレコでお願いしますね」

 「おふれこ……? えと、それは、内緒にしておけという事でしょうか? それならば、もちろんでございます。元々商人にとって、情報は大切なもの。軽々と話はいたしません。ましてや古龍様の頼みとあれば、仮にこの命を投げ出さねばならぬ事態に陥ったとしても、墓まで持って行く所存でございます!」


 い、いや……そこまでしなくても良いのだが……まあいいか。

 ニールさんには悪いが、この情報が敵に渡ると、かなり危ういからな。

 今は下手に説明しないよりは、きちんと説明した上で約束してもらった方が安全だと思ったから話したが。


 さて、まあ今すべきことはこんなところだろう。

 幸い皆無事だったのだし、今は休むとしよう。ただ――――


 「できれば私を荷台に積んで、移動してはいただけないでしょうか?」

 「え、荷台に……ですか? それはあまりに……荷台は揺れますし、寝心地は最悪で――――」

 「それでもです。ここは街から一日も無い場所。そんな場所でこれだけのことをしたのですから、今すぐにでも騎士などが来る可能性が高い。というか、今まで来なかったのが奇跡のようなものです。私は訳あって正体を隠して人として過ごす身。ここで見つかれば、十中八九正体が割れてしまうでしょう。ですので――――」

 「わ、わかりました! では、すぐに出発の準備をいたします!」

 「みんなも、よろしく頼む」

 「「はい!」」

 「え~……せっかく膝枕代わって……ぶぅ~、わかったよぅ」


 こうして俺を荷台に積んで、布をかけたニールさん一行は、目的地に向かって出発する。

 夜通し進めとは言わないが、せめて俺が剥げさせた区域は抜けないと怪しまれてしまうだろう。

 ……そういえば、俺が消し飛ばした範囲に、村とか無かったよね?

 そんな今更な不安を抱きながら、俺は荷台に揺られるのであった。


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