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第百二十四話 『思ってたよりも難しそうだった』

 「……そうか。あやつがそんなことを……」


 ごたごたした日々は一旦の終息を迎え、学院への復帰を果たした早朝。俺は、その足で真っすぐ学院長室へと来ていた。もちろん目的は、勇者和敏の伝言を伝えるため。

 経緯は話さず、ひとまず伝言だけを簡潔に伝えた。

 ホームルームまで、時間もあまり無いしな。

 彼らの間に交わされた約束がどんなものであったかは知らぬが、あの場面で言伝を頼むくらいだ。恐らく大事な約束であったのだろう。

 そんなわけで、放課後を待たずに朝早くから、こうしてここに来たというわけだ。

 まあ、昨日来ても良かったのだが、流石に仲間へのケアの方が大事なので、そこは優先させてもらった。

 彼らのはもう何百年も前の約束だろうし、一日ずれたからといって、何がある訳でもないだろうしな。


 「しかし、あやつもヒトの子。当の昔に死んだはずじゃが、どうしてお主がそれを――」

 「彼は昨日まで、アーティファクトの中にその魂を封じ込め、生きながらえておりました。私はそんな彼と、たまたま接触する機会を得られただけです」

 「そう、であったか……しかし、その言い方じゃと、もうあやつは……」

 「はい。残念ながら……」


 俺がそう言うと、学院長は少しうつむき、暗い顔を見せる。

 数百年の年月が経った今でも、相手の死を悼むくらいの間柄ではあったようだ。

 で、あれば、俺が下手に口を挟むこともないだろう。後は当人の心の問題だ。

 それよりも――――


 「それから、もう一つ。これは勇者和敏とは関係なく、私個人からのお話なのですが……」

 「む? 何かの?」

 「申し訳ございませんが、今日一杯でここを去ろうと考えております」

 「ふむ……そうか。お主は、その心のありようも、魔導の技も、実に見事であった。故に、その話は残念なものではあるが……元々、そう言う話であったしのぅ……引き留めても、行くのであろう?」

 「ええ。残念ながら、目的のある旅をしている身ですので。それに、少しばかり急がねばならぬ事情もありますから」

 「……そうか。まあ、わしはここで、お主の無事を祈っておるよ。では、最後に一つ……この学院での生活は、お主にとって有意義なものとなったかの?」

 「どう、なんでしょうね……勉学という意味では、為になりました。しかし、交友という意味では、残念ながら……」

 「そうか。お主は少し、寂しそうに見えたのでな。それは残念だ」


 俺が寂しそうに見えた、か。

 自覚は無いが、確かに言われてみれば、それはあるかもしれないな。

 フィルスや香奈たちがいるから、別段孤独に苛まれるというほどのことは無いが……俺には力があり過ぎる。

 この古龍の力は、相手との対等な関係というものを俺から奪っていく。

 そう言う意味では、俺は孤独なのかもしれない。


 「あはは……流石は学院長ですね。私のような若輩では、敵いません。まあ、何の憂いもなくなって、平和に穏やかな日々が送れるようになったら、その時はまた、よろしくお願いします。今度は、仲間たちも一緒に」

 「うむ、その時は歓迎しよう。無論、試験に合格できたらじゃがの」


 ニヤリと挑発的な笑みを見せる学院長。

 俺に簡単に試験を突破されたのを、実は根に持っていたとかか?

 まあ何にしても、本気というわけではなさそうだが。


 「もちろんですよ。俺の仲間は優秀ですから。楽々突破ですよ」


 そうして笑い合いながら、俺は学院長室を去るのであった――――







 「――――そうですか、それは残念です。貴方と共に研究をするのを、ひそかに楽しみにしていたのですが……まあ、あんなことがあっては、仕方ありませんね」


 学院が終わり、次に俺が足を運んだのは、ランデルさんの研究所。

 最近ランデルさんは、屋敷に帰らずこちらに籠りっきりで、全然話ができていなかったので、様子見がてら、挨拶をしに来たのだ。

 ちなみに、クラスでは特に何も言わなかった。友達もいないし、言ってもあまり意味が無いからな。


 「すみません。随分良くしていただいたというのに……」

 「いえいえそんな! それに、今回の件では、私も助けられてしまいましたし。まさか私の研究成果が、あのような男の私欲のために利用されていたとは……今度からは、もっと研究成果の行先まで、気にしないといけないと、思い知らされましたよ」

 「あはは……まあ、尖った能力があって他に無頓着な人間というのは、利用されやすいですからね。気を付けて下さい」

 「ええ、本当に……ところで、この国を近日中に去るのはわかったのですが、今度はどちらに?」

 「そうですね~……正直、サルマリアを見に行ってみたいとも思ったのですが、先にザストールへ行こうかと」


 ザストール王国は、国土の半分以上が砂漠で、海は魔物が蔓延り漁業もままならないという、非常に厳しい環境の国だ。

 ただ、その分未探索の遺跡やダンジョンも多く、冒険者にとっては旨みの多い国でもある。

 アストレアには初心者用なら、ザストールは上級者用と言ったところか。


 「ほう、ザストールですか……まあ、冒険者なら一度は行ってみたいと思いますよね。でも、旨味も多い分、危険も多いですから、気を付けて下さいね」

 「ええ、もちろんですよ。命あっての物種ですから」


 そう言って、二人笑い合う。

 こういった気持ちの良い別れは、良いものだ――――っと、そうだ。


 「ああ、そうそう。忘れるところでした」

 「ん? 何かありましたか?」

 「研究協力については、この国の上が信用できるようになるまで保留とさせていただきますが、個人的な協力は反故にするつもりはありませんので……」

 「と、言うと? ……あっ」

 「ええ、代々受け継がれてきたというアーティファクトの解析は、きちんとさせていただきます」

 「おおっ!! ありがとうございます!! 正直、半分諦めていたのですが……さっそく行きましょう!!」


 俺の言葉を聞いて、ランデルさんはウキウキ顔で歩き出す。

 何なら少し、スキップ入ってるんじゃないかってくらいだ。

 アーティファクトの解析なら、別にそんなに悪用されることはないだろうし、万が一危険なものなら、処分する許可も貰っている。

 流石にこんなに長いこと世話になったというのに、何も返せないのでは申し訳ないし、これくらいはな。


 「こちらが、そのアーティファクトになります」


 到着した部屋で、彼が取り出したソレは、片手に収まる程度の小さな金属の箱。

 一辺10cm程度のその立方体は、無機質な見た目とは裏腹に、とても異質だった。

 これは確かに魔導具だ。その証拠に、微量ながら常に周囲の魔素を吸収し続けている。

 だが、逆に一切魔素を放出していない。

 これは、あまりに異様だ。


 魔法とは本来、魔素に干渉し、その性質を変化させることで、超常の現象を引き起こす技術である。

 そしてそれが完了すれば、魔素は元の形に戻り、再び空気中を漂う。

 だが、目の前にあるこれは、魔素を吸収だけして、一切放出していない。

 いったい、どんな理屈で、何のために動き続けているんだ……?


 「……ひとまず、現状で分かっていることを聞かせていただけますか?」


 俺は、そのアーティファクトを受け取りながら、ランデルさんに確認をする。

 おそらく、俺にはわからないこの本体の素材や、長期での観察記録などがあるはずだ。

 それを聞かないことには、仮説すら立てられない。

 というかコイツ、魔素で内部を探ろうとしても、微妙な隙間から入る程度の魔素じゃ、こいつ自体に吸収されてしまって、中を覗けない。

 せめて一旦停止させることさえできれば、中を見ることができるのだが……

 やれやれ、軽い気持ちで引き受けたが、こいつは思った以上の難物かもしれないな。

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