第百二十三話 『穏やかな時間』
今回、ちょっと(?)短めです。
「ふむ……まあ、こんなものか」
あれから約二時間。
完全にテンションがハイになって、突っ走り始めた俺と梨華ちゃんは、その場で拠点の設計会議を開始。
あーでもないこーでもないと意見を出し合い、ようやくなんとなくの形が見えてきた。
とはいえ、まだまだ仮案だし、実現可能かわからない技術を前提としている部分も多いのだが。
しかし、一旦キリの良いところまで行くと、流石に俺も冷静になる訳で……呆れた顔で俺たちを見つめながらお茶をしている二人が視界に入る。
「そろそろ良いかな?」
「……すまん」
よもや、あの香奈からジト目をいただくことになろうとは……くっ! なんか悔しいっ!
「で、なんだ? そろそろ良いかなってことは、何か用があったんだろう?」
「ああ、うん。レイジにぃ、明日から学院復帰じゃん?」
「ん? ああ、そうだな」
「でも、魔法の勉強はあらかた済んだんでしょ?」
「ああ。応用に関しては、ほとんど俺の方がわかっていることばかりなようだし、必要なさそうだからな」
「じゃあ、学院、やめるの?」
そう質問する香奈の表情は、何とも言えない微妙な感じ。
正直、俺としてはどちらでも良いのだが、イマイチどうして欲しいのか読み取れないため、返事に迷う。
「ん~あ~……そうだなぁ……まあ、ぶっちゃけどっちでもいいんだよなぁ~」
「え、そうなの? でも、青春を取り戻すぜ! とか言ってなっかったっけ?」
「まあ、確かに言ってたけどさ。でも、邪神教徒が思ったより強いし、俺のレベルも、古龍の悪影響をギリギリ御せる程度だし、よくよく考えたら、腰を落ち着かせるのはまだ早いんじゃないかと思ってな。年齢制限がある訳でもないんだし、そう言うのは、世界の危機とやらをどうにかしてからでも良いんじゃないかと」
実際、邪神教徒の強さは、並みの冒険者や騎士が勝てるレベルではないように感じた。
それに、俺が出会った奴らなんて、状況的に見てほとんどが下っ端だろう。
そう考えると、俺の今の力では、まだまだ足りない。
魔法はあらかた学び終えたし、新たに時属性と聖属性を得ることができた。
まだ頭に1つ空白が残っているあたり、隠し属性は最低でも一種類は未取得なようだが、この国にある俺の見ることの許されたアーティファクトは全て見せてもらったし、他をあたるしかないだろう。
まあそんなわけで、更なるパワーアップを図るなら、この国に残るという選択肢はあまりよろしくないのである。
とはいえ、それは最悪を想定しての話。
香奈たちが学院に通いたいのであれば、別に残っても構わないとは思っている。
「そっか……なら、私は冒険でいいかな?」
「私も、それでいいです」
「私は、レイジ様が望むようにするだけですので……」
あれ? 学院、行ってみたいんじゃなかったのか?
「……いいのか? 別に俺は、お前たちが行きたいって言うなら――――」
「いいの! それに、後から行くつもりなんでしょ? なら、私もそれでいいよ。それに、学院に行きたい理由の半分は、レイジにぃと一緒に行きたかったってだけだし、もう半分も戦い方を勉強してみたいってだけだったから。それなら、レイジにぃに教えてもらえばいいかなって」
「私も、似たようなものです。香奈が心配だから一緒にって思ってましたけど、香奈が行かなくていいなら、私も行く必要ないですし、戦い方は香奈と一緒に教えてもらえればと……ご迷惑でしょうか?」
「いや、そんなことは無いが……俺は人相手の戦い方しか知らんぞ? まあ、狼や熊くらいなら相手にしたことは何度もあったが……」
「全然オッケー、モーマンタイでしょ! だって、相手は邪神教徒なんでしょ? なら、ほぼ人間じゃん?」
む? まあ、確かに。
「確かにそうだが……しかし、俺の技術はあくまで向こうの物だ。魔法などに対する対策は、完璧にとは行かぬぞ?」
「わかってるよ。でも、魔法なんてぶっちゃけ、凄いの以外は飛ばすか切るか殴るかみたいな感じで、地球の兵器と大して変わらないじゃん? なら、役には立つでしょ? それに、学院に行ったからって、レイジにぃから教わる以上の技術を得られる保障なんか無いし。それとも、居た? そんな凄い人」
むぅ……そう言われると、確かにそんな規格外に強い者は居なそうだったが……そもそもあそこは、基本的に基礎を習得するための場所で、凄腕になるための養成所では無いからなぁ……
「わかった。確かに、香奈の言うとおりだ」
俺は両手を上げて降参のポーズをとる。
しかし、香奈に言い負かされるとは、なんだか癪だが、嬉しくもあるな。
「レイジにぃ、なんでニヤニヤしてるの?」
む? また顔に出てしまっていたか。
これは……重要な交渉ごとの際は、仮面をつけるか、表情筋が動かぬように体を作り変えておいた方が良いかもな。
「いやまぁ、なんだ。香奈の成長が感じられて、嬉しかっただけさ」
「ええ!? な、なにそれ……もう……」
満更でもないという顔でモジモジする香奈。
そんな香奈を見て、微笑む梨華ちゃんとフィルス。
そして、そんなみんなの作り出す、温かで優しい雰囲気に浸りながら、目を瞑って居眠りをし始める俺。
願わくば、この平穏な日々を、いつまでも――――
も、もう少し……あと少しで解放される……
そしたら執筆の時間がとりやすくなる……(※書くとは言っていない←)




