第百十九話 『ゲームでは簡単でも、リアルでやると結構大変だったりする』
あれから更に1時間ほど探索し、俺は全部で32個ものヒントを見つけることができた。
ヒントの内容は、どれも他のヒントの場所……というか、物を表しており――これにはいくつかヒントを見つけた時点で気が付いた――一周して最初のヒントに戻ってきたため、おそらく見落としはないだろう。
一応、書いてあった場所と物、内容は、自分の身体を使ってメモしてある。
……自由に形を弄れる体で良かった。マジで。
例を挙げるなら、万札には、「赤くて丸い果実」と書かれており、リンゴのことを表していた。
物の名前を直接書かなかったのは、おそらく謎解きの為ではなく、それでは異世界人にはわからないからだろう。
まあ、異世界にリンゴや万札なんて無いしな。
仮に似たようなものがあっても、名前は全然違うし。
さて、そんなわけでヒントは全て集まったわけだが……これをどうしろと?
一応何かあるかもと、このアーケード街の地図を作って、全てのヒントを線で結んだりしてみたが、特に何も見えてこない。
何かの形になる訳でもないし、どこか線が集中する場所がある訳でもない。
正直、お手上げである。
少なくとも、パッと閃いてすぐに解ける、という可能性は低いだろう。
「だー! やってられん!」
頭脳労働は嫌いではないが、皆を待たせているんじゃとか、そもそもここはどこなんだとか、色々心配事があり、逸る心を抑えながらでは、楽しめるものも楽しめない。
せめて全員一緒であったなら、もう少しましだったのかもしれないが。
「は~……白雪、なんかわかったか?」
俺はこの場に唯一一緒に来てくれた白雪に声をかける。
実際解けていたら、何かしら言ってくるはずなので、別に成果を期待しての問いではない。
ただ疲れたから、話し相手が欲しかっただけだ。
(……特には。それに、異世界の物はきちんと知らないから、選択肢も狭まってくる)
「あ~ね。たぶんこれを作ったであろう勇者は、異世界人にも解けるようにしたつもりなのだろうが、謎解きってのは作っている側が思っている以上に難しいものだからなぁ……ヒントになってる物について知らない人間に解かせようっていうのは、結構無茶かもな~」
(ん……それに、思いついてもできないことも多い)
「例えば?」
(何かしらの枠組みで分けてから、それぞれを線で結ぶとか考えてみたけど、どう分けて良いのかわからないから断念した。代わりに色でやってみたけど特に何もなかったし……)
「む、それはまだやってないな。それなら俺がやってみようか」
(……あまり期待はしないでね)
「おう。どうせこんなもんは、トライ&エラーの繰り返しだし、ダメで元々だから、あんま駄目だったのを気にし過ぎない方がいい。それだけ可能性を狭められたと考えれば、無駄でもないしな」
不安そうに言ってくる白雪を励ましながら、俺は白雪のアイデアを元に謎解きを再開する。
食材やその他、それでダメなら機械やお金を使うものとそうでないものなど、様々な組み分けをしながら、そこに何か意味のある関係が無いかを考える。
そうして試行を重ねること約1時間。
俺の集中力も限界に近くなってきたその時――――
「――――これだ!!」
俺は嬉しさと開放感から、思わず大きな声を上げてしまった。
(ん? どうしたの……?)
「ふっふっふ……ついに解けたんだよ!! この謎をな!!」
俺の声に驚いた白雪の質問に、俺は上機嫌で答える。
おそらくこれで間違いないと思う。
後は、その場所に行って確認してみるだけだ。
俺はゲームセンター入り口に設置されていたベンチから腰を上げると、そのままアーケード街の端にある、和菓子屋へと向かう。
そうして和菓子屋の前へと来て、改めてそこを魔素で詳しく調べた俺は、正解を確信して、その戸に手をかけた。
(? 扉は開かないんじゃないの?)
――確かに、この空間は時が止まったかのように、全ての物が静止しており、それは扉も例外ではない。
なので、意外と入れる場所は少なく、出口にも全く見当がつかなかった。
もちろん最初に探索した時には、この扉も開かなかった。
だが――――
「ここをこうして……ほい来た!」
俺が扉に、ヒントから得た図形の通りになるように魔素を流すと、扉にかかっていた術式が解け、この静止した時から解放される。
この扉、魔素を流して初めて気が付いたが、かなり魔素や魔力の流れやすい素材が使われており、内部にはご丁寧に魔法陣まで織り込まれていた。
おそらく最初に気がつけなかったのは、上手く隠されていたのもあるのだろうが、それ以上にこの空間自体が高度な魔術結界となっていたために、そちらに気をとられてしまっていたのだと思う。
まあ、扉にかけられた魔術はかなり微弱な魔素しか放っていないので、それも仕方ないだろう。
「さて……また探索かな?」
和菓子屋に入ったら何か起こるかと期待していたが、そんな様子もなく、再び調べなくてはならないらしい。
まあ、脱出ゲームなんかでは確かにそういう方が多いと思うが、正直そろそろ疲れてきたし、開放して欲しい。
それが叶わなくても、せめてお茶くらいさせてくれ……
(……大丈夫? わたしが探そうか?)
……疲れが顔に出ていたらしく、白雪が心配そうに声をかけてくれる。
「いや、大丈夫だ。この空間はよくわからんからな。俺の身体を借りてるだけの、不安定な存在の白雪を実体化させるのは、できれば避けたい。なに、大丈夫さ。もうひと頑張りだ! ありがとな」
白雪のお陰で、少し元気が出た。
それに、さっきに比べれば、探さなきゃいけない範囲はこんなに狭いんだ。
きっとすぐに終わるさ――――
――――と、思っていた時期が、私にもありました。
「ふざっけんなぁぁああ!!」
和菓子屋の中に隠されたヒントは、直ぐに見つかったし、30分くらいで解けた。
だが、得られた成果は、肉屋の裏の倉庫の入り口の開け方。
そうしてそこへ向かい、同じように扉を開け、同じように謎を解く。
しかし、やはりその内容は別の場所の扉の開け方。
そんなこんなで15ほどの建物を巡り、今はちょうど、そこの謎解きが終わったところだ。
もちろん、それで得られたのは、また別の場所の開け方で、今度は本屋らしい。
この空間を作った野郎は、相当性格が悪いのだろうな。
もし会う事が出来たら、一発殴ってやりたい気分だ。
別に、アトラクションとして楽しむなら、これくらい何でもない。
体験型のゲームとしては、かなりよくできているとも思う。
だが……今は自分の居る場所も、離れ離れになった仲間の安否もわからない。
そんな状況では、楽しむなんて感情が湧いてくるはずもなく、ただただ焦りだけが募っていく。
だというのにこの仕打ちである。
そりゃ、怒りたくもなる。
(……やっぱり、わたしが――)
「……いや、大丈夫だ。最悪、店舗数以上は無いはずだし、もうひと頑張りするよ」
(そう……がんばって)
「ふふっ……ああ!」
はぁ……白雪がいなかったら、もっと心が荒れていたかもな。
最初の謎解きも白雪のお陰で早く解けたし、やっぱり誰かが隣にいるって言うのは、こういう危機的状況では心強いものだ。白雪には感謝しなければ。
さて、もうひと頑張りだ。
この空間を作った奴や、俺をこの空間へと閉じ込めた意図はわからないが、知ったことではない。
今度こそ、このクソみたいなゲームを終え、この空間を脱出してやる!!
ちょっと8月頭あたりまでリアルが忙しくて、投稿間隔空き気味になってます。すみません。