第百十七話 『みんなで買い物に行こう』
例の事件から一週間(六日)が経ち、ようやく色々落ち着きを取り戻してきた。
俺もベルマドの件の事情聴取やら、今後のことについて、正式な書類での契約やらをしていて、結構忙しかった。
お陰で学院はおサボしてしまったのだが、そこは国からきちんと説明してあるらしく、大丈夫とのことだ。
もちろん、色々事実をぼかしてはあるが。
んでまぁ、今はもうお昼なわけだが、学院は今から行ってもあれだし、明日明後日は週末で学院は休み。
ってことで、今日は学院に入ってから、何かと別行動が多かった皆と一緒に、王都観光をすることになった。
なんだかんだ言って、休日も勉強してたり、ランデルさんのとこでアーティファクトを見せてもらってたりと、あまりゆっくりできる時間が無かったから、良い機会なのかもしれない。
「レイジにぃ~。こっちは準備終わってるよ~! 早く早く~」
「へいへい。今行きますよ~」
っと、服をどうするか迷っていたが、玄関で待ちきれなくなった香奈が叫んでいるので急ぐとしよう。
俺は結局、普通の駆け出し冒険者が良く着ている、Tシャツに革鎧にズボンという、無難な服装でカバンを肩にかける。
そういえば、このカバンも結局良い素材では作れてないし、考えておかないとな。
せっかくいろんな分野の研究が盛んなスレブメリナにいるんだ。
何か良いものがあれば、手に入れておきたい。
まあでも、焦ることも無いか。
卒業まで学院にいるつもりもないが、今月末くらいまでは残るつもりだからな。
少なくとも、後50日あると考えると、もう少しゆっくり過ごす時間があってもいいかもしれない。
思えば今日まで、随分急いで行動し過ぎていたのかもしれないな。
まあ、仲間の安全を確保するって意味では悪いことではなかったのだが、俺も色々アーティファクト見せてもらったり、魔法の基礎を学んだりしで、かなりできることも増えた。
そろそろ流石に、大抵のことはどうにかなるだろう。
心配なのは邪神教徒だが、これはもう警戒しておくしかないな。
まあ、色々皆に持たせるための魔導具は用意しておくつもりだが。
実は今日の観光は、そのための買い物を兼ねてたりもする。
「さて、それじゃあどこか行きたい場所はあるか?」
屋敷を出た俺たちは、貴族街を歩きながらこの後の予定を決めておく。
別行動は無しにしたいので、先に皆の希望を聞いておいて、なるべくそれに沿えるように効率よく動きたい。
「ん~、そういえばこっちに来てから、あんまり甘いお菓子って食べれてないんだよね~。王城ではたま~に出たけど、それもイマイチだったし……だから~……お菓子屋さん?」
「そんなのあるのか? こっちじゃ砂糖は高級品だし、お菓子専門の店は少なそうだけどな……まあ、それなら食材を見に行くか。何か良いのがあれば、俺が作るよ」
「ホント!? 流石レイジにぃ!」
「梨華ちゃんは?」
「えっと……私は~そうですね……武器屋とか? できればなるべくファンタジー感あるのが置いてあるところで」
「ファンタジー感て……まあ良いけど。入ってみないとわからないから、希望に沿えるかは運しだいかな?」
「あはは……了解です。まあどっちにしろ武器は欲しいので、大丈夫です」
「……フィルスは?」
「私は、特に――――「それは無しで」」
絶対そう言うと思った。
だが、それは許さん!
フィルスは遠慮癖がついているだろうから、少し無理やりにでも自分の意見を言わせる。
仮に本当に何もないのだとしても、何かしらの意見を言って欲しい。
そうしていくうちに、きっと自然に発言できるようになるはずだ。
「えっと、それでは……服を、見に行ければと」
「ふむ……確かにな。俺は最近もう自分で生成してたから気にしてなかったけど、皆はもう少しあった方が良いよな。幸いいくらあってもかさばらないし。焼けたり切れたり破けたりも、冒険者稼業してりゃ日常茶飯事だもんな。うん、良い意見だ」
そして、発言を肯定する。
そうすれば"自分の発言で迷惑を掛けてしまうのではないか"という不安が、いくらか拭えるだろう。
……まあ、俺は専門家ではないので、これで合ってるかはわからんが。
でも、俺が同じ立場なら、そうしてもらえると嬉しいし、自身にも繋がると思う。
「で、俺が魔導具の本体用の鋼材っと。んじゃまあ、食材は一番近いけど、痛んだりしたら嫌だから最後にするとして……服、武具・鋼材、食材の順で見ていくんでいいかな?」
「おっけ~」
「「はい」」
(……わたしには聞かないの?)
「ん? あ~そうだな。スマン。てっきり美味い物食いたいって言うと思ってたから……ってか、実体化するか?」
(……する)
俺は魔素を白雪に流し込んで、白雪を実体化させる。
すると、白雪はいつもの着物ではなく、白いワンピースに麦藁帽という夏スタイルで現れた。
似合ってはいるし、可愛らしいとも思うが……寒くないのか?
この辺は北寄りだからか、気温は15度くらいで、割と涼しげなのだが……
「大丈夫、寒くない。元々属性が氷だから、気温変化には強め。特に寒いのには」
「む、そうか。ってか、心読んだのか?」
「顔見てればわかる」
「……そうか」
俺らのやり取りを聞いて、香奈が笑ってやがる。
チクショウ……わかりやすくて悪かったな!
「で、何か行きたいところとかあるのか?」
「ううん。あるじの予想通りだから大丈夫」
「さいですか」
そうして貴族街を抜け、前に泊まっていた宿の前を通り過ぎ、食材を売ってる区画を横切ると、ようやく服や革防具を売っている区画に到着する。
「さて、んじゃ着いたわけだが……知っての通り、俺は学院行ってばっかだったから、ほとんど街には出ておらず、店とかは全く分からん。てなわけで、誰かわかるヤツいないか?」
「私達、常設依頼しか無かったから、採取と討伐ばっかりで、街中はあんまり見に来てないんだよね。夕方にはレイジにぃが帰ってくるから、納品後はまっすぐ帰って来てたし」
「あ~……ならまぁ、適当に入ってみるか。別に急ぎの買い物でもないし、良いのが無ければまた後日来ればいいしな」
「それじゃあ~……あの店!!」
香奈が早速といった感じで、遠くの、視界の端の方にしか映っていないような店を指差す。
「いや、何でまた……近くから入って行けばいいんじゃないか?」
どうせわからんなら、適当に近くの人が入っている店から入って行けばいいだろうに、なんであんな区画の端の方の、人がほとんどいなそうな店を……
「ん~、びびっと来たから?」
「はぁ……さいですかい。まあ、別にいいけどな。見たいって言ったのはフィルスだし、フィルスが良いならだけど」
「へ? あ、私はどこでも……」
「それじゃ、決まりね!」