表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/152

第百十五話 『邪神教徒は、やっぱりクソみたいなやつらのようだ』

 「俺を殺しに来ただと? ならばなぜ、彼女らを襲った!」

 「ん? だって勇者も悪神の使徒だし、それにこいつらは君と関係の深いレイジって冒険者の仲間でしょ? なら、救済を与えるべき対象だし、もしかしたら君も釣れるかなって」

 「ほう……それで? まんまとおびき寄せられてやったわけだが、それでどうする?」


 相手の思惑次第では、こっちはかなり不利だな……長期戦を考慮して準備しておくか。


 そう考えた俺は、両手にそれぞれ別の魔法陣と口を作り出して、小声で詠唱を始める。

 これは意外と難しいのだが、喋らずに集中できれば、2つ同時くらいはいける。


 「ん~、どうもしないかな? 今日は別に、君と戦う準備をしてきたわけではないから、挨拶したら退散しようと思ってるよ。でもせっかくだし、ちょっとくらい戦ってみるのもいいかもね。僕も一応幹部だし、どれくらい戦えるのか試してみたいからね」

 「そうか。なら、先手を打たせてもらおうか!」


 俺はそう叫ぶと、ルヴェインは咄嗟に両腕を交差させ、攻撃に備える。

 だが――――


 「クロノジエイル!」


 俺は敵にではなく、倒れた香奈たちに向けて、最近覚えたばかりの魔法を発動させる。

 発動した魔法の効果は、『対象を構成する物質の変化を停止させる』というもの。

 まあつまり、簡単に言えば時間停止みたいなものだ。

 長期戦になれば、倒れている3人はいろんな意味で危ないからな。

 ちなみにこの魔法、生きている相手に使う場合、相手の意識が無いことが条件なので、敵には使えなかったりする。残念。


 「……何をしたんだい?」


 相手は、俺の魔法により起きた変化を認識できず、訝しげな視線を向けてくる。

 まあ、先手を打つと言ったのはただのフェイクだが、相手からしたら何されたかわからんのは怖いわな。

 時間停止なんて、ぱっと見じゃわからんし。


 「さて、なんだと思う?」

 「チッ! まあいいさ。今度はこちらから行くよ!!」


 ルヴェインはそう言うと、地を蹴り、一瞬でこちらの懐まで飛び込み、掌底を放ってくる。

 それを俺は、身体を一瞬魔素化させて回避し、少し右にずれた場所で再度体を構築し直す。

 小さな魔核さえ認識されなければ、テレポートでもしたように見えるかもな。


 「なっ!!」


 案の定、相手は驚きの表情を浮かべ、とっさに左に跳ぶ。

 その顔には、既に先ほどまでの余裕は無い。


 「どうした? 先ほどまでは随分楽しそうだったではないか」

 「ふっ……そうだね。でもまぁ、君が思った以上に厄介そうだということはわかったし、僕はそろそろ引かせてもらおうかな?」

 「それは少し早いんじゃないか? まだ一撃しか放っていないではないか。こちらは攻撃すらしていない。もう少し付き合ってくれよ!!」


 俺はそう言って、ルヴェインの方向に、空属性のブレスを、散弾のように放つ。

 空属性のブレスの特性は、『空間断絶』。

 空間を割くように進んで行くため、通過した場所にあったものは、どんなに硬かろうが関係なく抉られる。


 ルヴェインも、その効果は知らぬものの、本能的にヤバいと感じたらしく、凄まじいスピードで教会の床を抜き、上へと逃れる。

 もちろん、俺も床をぶっ壊してその後を追う。

 フィルスたちは最悪、魔法の効果時間さえ切れなければ、瓦礫が落ちてきても傷つくことは無いので大丈夫だ。


 上に出ると、ルヴェインが教会の床に膝をついてこちらを睨んでいた。

 よく見れば、右足の足首から下が無い。

 どうやら避けきれなかったようだ。


 「……今の一撃、六大属性とは違った感じがしたね。神代に存在したという、失われし属性を使っているのかな?」

 「さてな。そういうのは詳しくないんだ。まあ、六大属性では無いというのは認めるが」

 「くっくっく……流石は古龍というべきか。ちょっと舐めてたかもね」

 「そうか。それはこちらとしては僥倖。貴様を始末できれば、少しは世界も平和になるだろう」

 「ふふっ……世界平和、ね。そんな夢は、この世には存在しないんだよ。あるのは不平等な理不尽か、平等な理不尽だけ。そして不平等な理不尽を被った僕たちは、世界に平等な理不尽を振り撒くのさ。全ては邪神様のために」

 「貴様の言う事は理解できん。が、完全な平和など無いというのは正直同感だ。だがそれでも、それを求めること自体は、決して無意味なことではないとも思っている」

 「ハッ! 得られぬものを追い求めて何の意味があるんだい? 理解できないね。ま、悪神の使徒とわかり合えるなんて、最初から思ってないけど」

 「そうだな。では、人ですらない貴様は、ここで消えるが良い」


 俺はそう言って、再びルヴェインへと空ブレスの散弾を放つ。


 だがその瞬間、ルヴェインの姿が掻き消え、ブレスは教会の椅子や床を破壊して霧散する。

 直前に懐から魔素の気配を感じたことから、おそらく何かアーティファクトを所持していたのだろう。

 一応、周囲を探ってみるが、ルヴェインの気配は既に感じられなかった。


 「……逃がしたか」


 俺はそうつぶやくと、下の階へと降り、3人を担ぐ。

 そうしてそのまま、急いで王城へと飛んで行くのであった。

 こんなことをしでかした犯人を逃がしたのは悔しいが、今は仲間が無事であったことを喜ぶとしよう。


 














 俺は、さっき飛び去った王様の部屋の窓から王城に入る。

 するとそこには王様とランデルさんの姿があり、担いだ3人の怪我を見て、王様が直ぐにポーションを用意、使用してくれた。

 もちろん、ポーションを使う直前に、時間停止の魔法は解除してある。

 でないと、せっかくのポーションが無駄になってしまうかもしれんからな。

 というか、今更だけどポーションって何でできてるんだろ?

 街中では見かけなかったから、それなりに貴重なものではありそうだけど……


 「――――皆の治療をしてくれたこと、感謝する」


 俺は、事のあらましを説明した後、王様に感謝の意を述べる。


 「いえいえ! 元はといえばこちらの不手際が原因ですし、これくらいはさせて下さい。しかし、邪神の信奉者ですか……大会でレイジ殿と戦ったのも、そうだと聞きましたが、厄介ですね」

 「ああ。奴らは何かしらの方法で、自身を強化しているからな。奴らの言い分では、邪神の力を分け与えられている、という事だったが、それも真実かはわからん」

 「そうですね。あるいは、彼らの存在こそが、勇者様方を召喚した理由なのかもしれません。アストレアだけでなく、サルマリアとザストールにも警戒を呼び掛けなくては……」

 「まあ、そういうまつりごとに関しては、よくわからんし任せる。では、我はそろそろ失礼するとしよう。後のことは、レイジに王城へと行くよう言っておくから、そちらと話して決めてくれ」


 そうして俺は、一旦王城を去るのであった。無論、再び窓から。





 王城から少し離れた俺は、空中で魔素化し、目立たぬ路地に落下、人の姿となり、王城へと戻る。

 すでに話は通っていたらしく、俺は丁寧な対応で門から先ほどの部屋まで案内された。

 さて、それじゃあ、仲間が無事だったことを喜ぶ演技をしなくてはな。

 レイジとしては、仲間の無事は古龍から聞いて知っていても、自分で目にするのは初めてのはずなのだから。

 そうして密かに心の準備をした俺は、部屋へと入って行くのであった――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ