第百六話 『やっぱり知識って大事だなと思った』
「それでは早速ですが、学園の説明と、飛空艇についての詳細、それから問題のアーティファクトを見せていただきたいのですが」
「あ、はい。では、そうですね……移動しながら説明しましょうか。こちらへどうぞ」
俺は言われるがまま、ランデルさんの後をついて行く。
「え~と、それではまず、学園についてですが……う~ん、何を話せば良いか……」
「なら、こちらから質問しても?」
「え? ええ、どうぞ。そちらの方が、私も助かります」
「ではさっそく。学園のカリキュラムや授業の内容というのは、どういった感じになっているのでしょうか」
「そうですね……ではまずカリキュラムですが、朝4刻半登校。昼を挟んで授業は一日合計4コマ。授業時間はそれぞれ1刻となっています。授業は希望したものを受けられますが、いくつか必修のものもあります。登校日は週5で、合計6コマ以上になるように、授業を受けなければなりません。卒業は、条件さえ満たしていれば、いつでもできます」
はーん。
ちょっと違うが、大学みたいな感じか。
朝9時登校で、休み時間もあるだろうから、帰りはだいたい午後6時半くらいだろうか。
フルで授業をとらなければ、それも違ってくるが。
卒業要項は若干気になるが、別にもういいと思ったら自主退学してもいいし、あまり気にしなくてもいいのかな?
「そして授業の内容ですが、あくまで魔法を学ぶのがメインの学園ではありますが、魔法は才能によって色々得意分野が変わってきますから、選択必修になっています。必修になっているのは、主に一般教養ですね。大陸共用語の読み書きや、算術などでしょうか。まあ、必修でやるのは初歩的なことばかりで、それ以上は希望する者だけになりますが。ちなみに、必修科目は、必要のない者のためにテストがありまして、それに合格すれば出席は免除されます。その他にも、いくつか変わった授業もありますが、これ以上は学園の方から直接説明を受けた方が早いでしょう」
ふむ……ますます大学っぽいな。
でも、基礎的な算術や読み書きが必修、ね……
それって――――
「ちなみに、学生の平均年齢って、どれくらいですかね?」
「基本的に、入学してくるのは成人して間もない貴族の御子息や御息女が多いですから、一年生は15~17くらいでしょうかね。卒業にかかる日数はまちまちなので、全体でとなるとわかりかねますが、卒業までにかかる期間の平均は、だいたい3年ほどだとか」
あ、普通に成人してからなのか。
なら、一般教養が必修になっているのは、それができないとほとんどの授業について行けないからとかかな?
それなら、免除制度があるのも納得だ。
う~ん……聞いた感じでは悪くなさそうだし、小学校低学年までしか学校に通ってなかった俺としては、通うこと自体にも興味はある。
ただ、あまりにレベルが低かったりしたら意味が無いんだよなぁ……
まあでも、俺の知識は結構偏ってそうだし、基礎から見直すのも良いのかもしれないな。
となると、後は――――
「我儘を言っている自覚はあるのですが、俺の仲間も通わせることはできないでしょうか? せっかくの機会ですし、長期での滞在となると、俺が学園へ行っている間、退屈させてしまいそうで……」
「う~ん、そうですね……その方たちに、編入を許されるだけの才能があるのであれば、紹介くらいはこちらでどうにかできますが……学費は流石に負担できないかもしれません。一応予算もありますから」
……才能、ね。
まあ、勇者二人は大丈夫だろうが、問題はフィルスか。
差別の対象である亜人種で、なおかつ実力は普通……かどうかはわからないが、少なくとも他のメンバーよりは下だろう。
学費については、学園で詳しい話を聞いてから検討してみよう。
「あ、亜人種の入学を拒否しているとかは……」
「ありませんが、生徒の多くが貴族である以上、普通以上に辛い思いをするかもしれませんね」
まあ、そうだよな……
一応本人に確認してみて、行きたいという事であれば頼むとするかな。
「学園のことは、だいたいわかりました。仲間の入学については、とりあえずは学費を確認してから決めます。後は、本人の意思確認ですかね」
「わかりました――――っと、ちょうど飛空艇の設計図の置いてある部屋に着きました。こちらです」
そう言ってランデルさんが、扉に手の平を押し当てると、扉が上下に割れて、ひとりでに開いていく。
え? 何今の!? カッケェ!! 俺も欲しい!!
まあ、今はしゃぐとかっこ悪いから、また今度さり気なく聞いてみよう。
「それでは用意をしますので、少々お待ちください」
部屋に入ると、ランデルさんはそのままさらに奥の扉の向こうへと消えていく。
おそらく、物置きか何かなのだろう。
しかし……割と近代的な印象を受ける建物とは裏腹に、ここに置いてある道具などは、昔のものって感じだな。
魔法による発展というのは、やはり偏りが出るのだろうか?
……いや、魔法という便利な道具があるせいで、むしろ普通の道具の発展は遅れてしまっているのかもしれないな。
う~ん……手持ちの情報が少ないと、思考も上手くいかんなぁ……
早く学園で、色々学んでみたいものだ。
「いや、お待たせして申し訳ない」
部屋を見て回っているうちに、ランデルさんが戻ってきたようだ。
その両腕には、筒状に丸められた大きな紙の束が抱えられていた。
「こちらが、私の書いた飛空艇の設計図です。初期のものから順になっておりまして、内容は船体やら動力部やら色々――――あ、わかるように番号が振ってあるので、お好きなように見て頂いて構いませんよ」
俺が順番を気にしながら丁寧に重ね始めたのに気が付いたランデルさんが、説明を中断して気を使ってくれた。
しかし……う~ん。これは……
製図に用いられる技法や記号が違い過ぎて、いまいち見づらいというか……
まあ、なんとなくならわかるけど。
「……どうですかね?」
俺が全てにざっと目を通し終えると、ずっと横に立っていたランデルさんが、心配したような、でもどこか期待したような顔で、感想を求めてくる。
まあ、このままじゃ企画自体がヤバいんだから、そりゃ期待もするか。
「えっと……正直に言っちゃっても良いですかね?」
「むしろ、是非お願いします!」
「では……コホン。単刀直入に言わせていただきますとですね……どれもイマイチですね。確かに最初のものに比べて、改善はされてますし、やりたいこともなんとなく理解はできます。ですが私としては、最初の方向性を変えて、一から設計し直すべきだと思います。このままいけば、いつかは完成もするかもしれませんが……予算打ち切りには、確実に間に合わないでしょう。まだ数年あるとかなら、結果はわかりませんが」
「……このまま結果が芳しくなければ、遅くても1年後には……」
「ならはっきり言って、奇跡でも起きて、急にアイデアが浮かぶんでもない限りは無理だと思います」
彼のやってるのは、海に浮かぶ船をそのまま空に浮かせるという、無謀極まりないものだ。
たしかに、多少の改良はされているし、色々いいアイデアも出せてはいるが……如何せん前提条件が厳しすぎる。
これでは重力でも操作しない限り、快適な空の旅は不可能だろう。
だからと言って、元の世界の技術をそのまま伝えるのは流石にな……う~ん。
そもそも、魔法ってどこまでできるんだろう?
どこからがオーバーテクノロジーなんだ?
現代の科学技術がいくら進んでいると言っても、魔法の前では霞んで見えるものも多いだろう。
しかし、俺の中途半端な知識じゃ、そこの判断がしっかりできない。
「あの、こんな偉そうに言っておいてなんなのですが……」
「はい、なんでしょうか?」
「今の俺には中途半端な魔法の知識しか無くて、きちんとした判断ができている自信がありません。ですので、今言ったことももしかしたら間違っているかもしれません」
「ふむ……つまり、本格的に協力するのは、お互いのためにも学園で学んでからが良い、という事ですかな?」
「あ、はい……」
言おうとしたことを先に言われてしまった。
流石、国に重用されるだけあって、頭の回転は速いのかな?
「わかりました。確かに、私もあなたの気持ちは理解できます。昔、人に教鞭を振るってから自らの間違いに気が付いたことがありましてね……あの時の恥ずかしさや申し訳なさと言ったらもう……」
あー……昔師匠も、俺に似たようなことをして苦虫を噛み潰したような顔で訂正してきたっけな……
しかし、そういう経験があったってことは、さっきの俺の提案は、最初から想定済みだったのかな?
「というわけで、先に学園へと話を通してしまいますね。そういう事情なら、例のアーティファクトを見るのも、今度の方がよさそうですし」
「む? ……まあ、確かに」
アーティファクトの方は今すぐでも良かったのだが、彼の言い分も一理ある。
それに、それは彼にとってもかなり思い入れのあるものみたいだからな。
あまり不用意に調べて、不測の事態に、というのはできれば避けたいところだ。
「では、私は学園の方へ向かいますので、本日は宿へと戻っていただいて大丈夫ですよ。それから宿泊先なのですが、本格的な滞在が決まった時点で、私の屋敷に移っていただくつもりでした。なので、学園への入学が決まったタイミングで移動することになると思いますが、そのつもりでよろしくお願いします」
あー、まあそうだよな。
いくら国といえど、あの宿の宿泊費は馬鹿にならないだろうし。
「わかりました。まあ、元々荷物も少ない冒険者ですから、大丈夫ですよ」
「わかりました。では、どちらも準備を進めておきます。学園側の準備が済み次第、私の使いを宿へ向かわせますので。おそらくは、明日か明後日になると思います」
「ん? 随分早いんですね。もう少しかかるかと思っていたのですが……」
「ははは……まあ、実のところ、既に手回しはしてありましてね」
そういう事か。準備の良いことで……
「納得です。流石ですね」
「いえいえ。それでは、宿まで馬車で送らせますので」
「はい。ありがとうございます」
そうしてランデルさんとの顔合わせを済ませた俺は、今後への期待を胸に、宿へと帰って行くのであった――――
さて、お次は学園編。
元々学園に通う予定なんてなかったのに……
流石私。予定になかったことを平然とやってのける。
……まあ、今回は予定なんて言えるようなしっかりとしたものは、そもそも最初からなかったのですがね(;^ω^)
別に何年も通わせるつもりはないので、そんなに長くはならないと思いますが、流石にそれなりに話数はかかると思います。
まあ、それも書いてみないとわかりませんがね←
一作目という事もあり、練習のつもりで書いてる作品なので、色々試行錯誤しながら、楽しくやらせていただいております。
後悔することも多いですが、それは次作に活かせればという事で……
温かい目で見守っていただければ幸いです。
それでは。