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第百四話 『何事もなく、なんてことを考えてる時点できっと手遅れ』

 降り立った森で一夜を明かした翌日の10時過ぎ。

 王都の門が開き、十分に人が行き来し始めたであろうそのタイミングで、俺達は王都へと入るための列に並んでいた。

 早くに来ることもできたが、それでは目立ってしまう可能性があるので、一応念のための措置だ。

 それに、普通に起きて朝食をゆっくり食べていれば、どうせ到着はこのくらいの時間になるしな。


 勇者を連れてたら関係ないんじゃないか? と思うかもしれないが、写真もネットも無いこの世界では、勇者が召喚された! 女の子だった! くらいの情報ならそれなりに出回るが、細かい外見の情報まで正確に伝わることはないだろう。

 ましてや、俺達は正規ルートよりもかなり早いルートで、更にはかなりズルい移動手段でここまで来ている。

 仮にあの大会を見ていた者が、そのままこの国へとんぼ返りをしていたとしても、俺達より早く到着している可能性は極めて低いだろう。

 なので、そんな心配は無用なのである。


 フィルスもきちんとフードを被っているし、俺達は目立つ心配など特には――――


 「!? ……ギルド『クリスタリア』のレイジ様でいらっしゃいますね。貴方様がこの国を訪れた際には、丁重にもてなすようにと、陛下より御下命を賜っております。宿へとご案内いたしますので、どうぞこちらへ。無論、お仲間の方々もご一緒に。それから、宿代やお食事代などは、全て国が負担しますので、ご安心下さい」


 …………ホワイ!?

 どうしてこうなった!?

 というか、名指しされたの俺だったよな?

 勇者二人をならまだわかるんだが……なんで俺なんだ?

 しかし、王様直々の命令か……

 とりあえずもてなしてくれてるっぽいし、あちらさんには無理にどうこうするつもりは無さそうだ。

 ここは、一旦従っておいて、マズそうなら逃げるなりなんなりすればいいかな。


 「……わかりました。よろしくお願いします」


 「と、言うわけだ。理由はよくわからんが、ひとまず皆、そういう事で頼む」

 「「「了解(しました)」」」


 俺が振り向いて、一緒に聞いていた皆に事後承諾を求めると、皆二つ返事で了承してくれた。

 まあ、予定とは少し違うが、上の人間と接触できるのは悪くはない。

 貴重なものを見させてもらうためには、どっちにしろ接触は必要なのだし。





 兵隊さんの後にしばらくついて行くと、あからさまに高そうな宿の前で立ち止まった。

 ……ここが俺達の宿泊先なのかな?


 「こちらにお部屋をご用意させていただきます。部屋割りのご希望はございますか?」

 「あ、それなら一人部屋がひt――――」

 「五人部屋一つで!」

 「? かしこまりました。それでは、そのように伝えてきますね」

 「は!? ちょっ!!? ……っと、まって…………」


 突然の香奈の割り込みで、五人部屋になってしまった……

 というか、なぜそんなこと言った?

 そして、なぜそんなに満足げなんだ?

 フィルスもリカちゃんも、なんで仕方ないなぁみたいな顔してんの!?

 ……俺以外この状況に疑問を抱いていないようだ……解せぬ。


 「……白雪はこれで良いのか?」

 (ん……わたしも人数に入ってた。香奈はいい子)

 「いや、そこじゃないんだが……まあ、いいか……」


 別に、俺の方は同じ部屋であることにそこまで抵抗はないし。

 他の皆……特にリカちゃんが抵抗あるんじゃないかと思っただけで。

 でも、皆これで良いみたいだし、一緒の方がいざって時動きやすい。

 今は、相手の思惑がわかっていない状態だし、一緒にいた方が良いかもな。

 ……まあ、様子からして、香奈はそういう理由で一部屋にしたわけではなさそうだが。




 「部屋のご用意ができましたので、後は宿の者に任せ、私は一度王城まで行って、皆さまのご到着をお伝えしてきます。それでは、失礼いたします!」


 入って一分も経たないうちに出てきた兵隊さんは、それだけ言うと小走りで街の奥へと消えていった。

 この国は大きな建造物も多く、レムサムのように丘状になっていないから、城は見えないが、彼の言葉を信じるなら城へと向かったのだろう。

 しかし……このあたりまでは、ギリギリ普通の街って感じだが、もう少し奥まで行くと、真っ白で大きく無機質な建物がいくつも並んでいるようだ。

 道から見える分にはってだけだから、その一角だけなのかもしれないが、いかにも研究所っぽくて、なんかワクワクするな!

 ……いや、実はただ少し変わってるだけの貴族の屋敷って可能性もあるんだけどさ。

 っと、イカンイカン。今はさっさと宿へ入ってしまうとしよう。


 「我が『古龍の涙亭』へ、ようこそおいでくださいました」


 扉を開け、中に入ると、そこにはズラリとホテルマンが並んでお辞儀をしていた。

 今発言していたのは、一番奥にいる支配人らしき初老の男性か。


 「私、この宿の副支配人のバルツと申す者でございます。総支配人は、現在所用で留守にしておりまして、僭越ながら私がお出迎えさせていただきました」

 「あ、はい。えと、冒険者のレイジです。よろしくお願いします」


 あまりの丁寧な対応に、ついついこちら腰が低くなってしまう。


 「はい、よろしくお願いいたします。お部屋の用意はできておりますので、よろしければ、さっそくご案内させていただきますが――――」

 「あ、はい。お願いします」


 俺達は、バルツさんの案内で、部屋へと向かう。

 しかし……『古龍の涙亭』、ねぇ……

 どんな意図があってつけた名前かは知らないが、なんだか自分の名前が使われてるみたいでむず痒いな……

 ギルドやら宿やら……なんで行く先々でこんな気持ちにならにゃいかんのか……


 「こちらでございます。どうぞ、お入りください」


 バルツさんがドアを開けた先には、ふかふかのソファーや絨毯に、天蓋付きのベッド、ガラスのテーブルに、豪華なシャンデリアと、贅の粋を尽くしたかのような部屋が広がっていた。

 香奈やリカちゃん、フィルスは、そのあまりの豪華さに、口を大きく開け、固まってしまっている。


 (これは、食事も期待できそう)


 ……白雪は、平常運転なようだが。


 「それでは、何かありましたら、お気軽にお声がけください」






 「す、すごい!! このベッド、凄いフカフカです!! レティア様の所のも凄かったですけど、これはそれ以上かも……」

 「わぁ……いい景色。国中が見渡せるよ。あれが王城かな? あっちのおっきな建物はなんだろう?」

 「見て見てレイジにぃ!! このお風呂、龍の口からお湯が出るやつだよ!! お城のは普通だったからちょっと残念だったけど、まさかこんなところで出会えるなんて!!」

 「……お茶菓子もなかなか」


 バルツさんが去ってからしばらくして、ようやく復活した三人は、部屋中を見て回って、子供の用にはしゃぎ始めた。

 白雪は見た目子供だし、一緒に見て回るかと思いきや……実体化させたら一目散にテーブルへと向かい、お菓子を食べ始めた。

 流石白雪。ブレないぜ。


 俺はそんな皆を見守りながら、魔素と気配を探る。

 一応相手が用意した場所だし、意図も不明な以上、警戒は必要だろう。

 …………何もなさそうだな。


 「ねーレイジにぃ、聞いてるの~? ねえねえ~」

 「はいはい。どうした?」


 ま、今はひとまず大丈夫そうだし、俺も一緒に楽しむとしよう。

 気を張りっぱなしにしてても、良いことなんてありゃしないしな。

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