第百二話 『異世界の森でBBQとか最高過ぎる』
「レイジにぃ~! これ! これ食べれるかな!?」
森の奥から香奈が両手で三メートルくらいある魔獣を掲げて走ってくる。
全く……元気なのはいいんだが――――
「あんまはしゃいでると危ないぞー! 気をつけろよ~」
「はーい!!」
香奈は俺に獲物を預けると、早々に森の中へと消えていった――――
現在俺たちは、山の麓にあった小さな洞窟を仮拠点として、夕飯の支度をしている。
俺は洞窟で魔導具製作と魔獣の解体。
フィルスと白雪は周囲を探索して、山菜や果実、香辛料などを探しに行ってもらっている。
岩塩くらいなら手元にあるが、やっぱりもう少し色々味が欲しいから、香辛料が手に入ると嬉しいのだが、まあないだろうな。
山を越えればワンチャンあるかもだけど、こっち側であるとすれば、まだ使われてない未発見の香辛料とかかな? ……うん、無さそう。
そんでもって、勇者組は二人そろって魔獣狩りだ。
何故かどっちがより美味い肉を獲ってこれるかの勝負をはじめて、イマイチ狩りに乗り気でなかった香奈も、このはしゃぎ様である。
確か、勝負を言い出したのはリカちゃんだったか。
イマイチキャラのイメージと違うし、香奈のやる気を出させるためにわざわざ言ってくれたのかな?
まったく、良い友達じゃないか。
「しかしまぁ……これはちょっと獲り過ぎかな」
俺は、目の前に山のように積まれた肉を見て、呆れ声でつぶやく。
これ、何人前だよ……
一応、食えなそうなものや、筋が硬すぎてマズそうな肉は避けたんだが、それでも軽く五十人前くらいはありそうだ。
まあ、魔獣約15匹分だからなぁ……
俺はそれを眺めながら、作っていた小型魔導コンロの製作を中止し、後回しにするつもりだったBBQ用魔導コンロの製作を始める。
まだ五時頃だし、絶対もっと肉は増える。
ならまあ……絶対こっちが必要になりそうだ。
一応街で、鉄製の網やパイプ、鉄板などは沢山仕入れているので、余裕で人数分は作れる。
白雪用のは、少し背を低くしておくかな。
あ、そうそう。
魔導具製作用の魔石粉だが、一応自力生産ができるようになった。
と言っても、魔力用のは無理で、魔素用の物だけなので、実質俺専用だが。
アレに混ぜる不純物はそもそも、魔素を流し込む用の魔石の外殻を、魔力に適応させるための処理で合って、魔素で動かす俺には、必要のない処理なのだ。
まあ、粘性を持たせる必要はあるので、その為の材料は大量に買ってあるが。
更に、俺は自身の支配下にある魔素から魔核を生成し、それの支配を解き、切り離すことに成功した。
これで俺は、自身のとれる属性の魔石は作り放題というわけだ。
これは、香奈たちを助けに行った時、魔法陣を自分で作って魔法を使ったが、あれがキッカケで思いついた。
あの時はかなりの痛みが伴ったが、細かい形を作らず、普通の核と同じ球体を作り出す分には、もう痛みなど感じないくらいには慣れた。
まだ魔法陣を作るのは大変だが、この調子ならそれもそのうちさらっとできるようになるだろう。
「レイジ様、ただいま戻りました」
「……肉、凄い。期待」
おっと、作業をしているうちに、フィルスたちが戻ってきたようだ。
背の籠だけでは入りきらなかったのか、両手いっぱいに沢山の山菜らしき植物を抱えている。
小さい体でえっちらおっちらしてる白雪は、やっぱり可愛いなぁ……
「それじゃあ、そっちの布の上に置いておいてくれ。処理が必要なものがあれば頼む。白雪は、飲料水生成水筒から、水をこっちの瓶に移しておいてくれ」
「畏まりました」
「ん……余裕」
さて、そんなこんなで陽は沈み、時刻はだいたい夜八時ごろ。
洞窟の前には、焼けた肉のいい匂いが立ち込めていた。
「ん~! 美味しい!! 塩だけなのに、なんでこんなに美味しいんだろう……やっぱあれかな? 獲りたて新鮮だからかな? それとも、自分で獲ってきたからかな!?」
「あはは……まあ、外でバーベキューっていう特別感のせいって言うのもあるんじゃない?」
「それだ! あ~バーベキュー最高……またやりたいな~」
「いや、たぶん明日もやるでしょ」
「はっ!? そうだった!! 天国か!!」
「お気に召したようで何よりだ。ほれ、追加のサラダとスープ」
「おー! 待ってました!!」
とまあ、俺は調理係で、勇者二人は仲良く食事。
フィルスはちらちらこちらを遠慮がちに見ながらも、静かに食べている。
白雪は……違う意味でこちらをちらちら見ながら、これまた別の意味で一言も発することなく食べている。
お前の食ったものは、一体どこに行っているんだ白雪よ。
というかお前、他の三人全員のを合わせたより食ってるぞ?
いやまあ、沢山あるからいいんだけどさ。
さて、そろそろ俺も食べようかな?
一応味見はしているから、上手いのも不味いのもわかってるが――――
「フィルス。一緒していいかな?」
俺は、ちょっとゆっくりしたかったので、にぎやかな勇者組は避け、フィルスの所へやってきた。
白雪の所も静かだが……あれは邪魔してはいけない気がするので、そっとしておこう。
「あ、はいっ! どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい。肉は私が焼きますので」
「いやいや、いいよ別に」
「いえ、私はもう結構満腹でして、後は先ほどいただいたスープを飲んだら終わりでいいかなと思っていましたので、どうかお気になさらず」
「……まあ、そういう事ならお言葉に甘えようかな」
「はい」
そうして俺たちは、楽しく美味しいひと時を過ごすのであった――――
ちなみにこれは余談だが、白雪は、俺達が食い終わり、デザート代わりに果実水を飲み、食休みをし、風呂に入り、さて寝るかという時まで、ずっーと肉を無言で食い続けていた。
白雪さんマジパネェ……




