第百一話 『美味しいご飯が食べたい!!』
「レイジにぃ~、お腹空いた~」
王都を出発してから約6時間程が経過し、今はだいたい午前11時頃だろうか。
朝食は軽めだったし、確かに皆お腹が空いてきた頃だろう。
俺は腹があまり空かないから、どうも忘れがちになってイカンな。
街の外は、中より魔素が濃くて腹が減らないので、意識していないとマジで忘れる。
フィルスはそういう主張あんましないし、はっきり言ってくれる香奈がいてくれて助かったかも。
「そうだな。それに、もう少ししたら森に入ることになるし、タイミング的にも丁度いいかも」
俺たちが歩いているのは、王都からルジェメド山脈に添って、東北東に向かって伸びる街道で、商業大国であるサルマリア王国へと続いている。
だが、俺達が今目指しているのはスレブメリナ王国だ。
なので、途中で北に向かって森へと入り、直線でスレブメリナへと向かうつもりだ。
森に入る予定地点はもうすぐなので、休憩はそこでとることにしよう。
普通に歩いていくなら、サルマリアを経由してスレブメリナへ行くのが普通……というか、他の国へ向かうには、その中心にあるサルマリア王国を通らなければならない。
一応スレブメリナと接している国境も結構広いのだが、危険過ぎて普通は通り抜けられないのだ。
俺たちの場合は、そこだけ飛んで越えられるからそうでもないが。
まあ、それ故にサルマリアには各国から様々な物が集まり、商業が盛んなのだが……っと、話が逸れたな。
そんなことより、今は飯の話だ。
魔導コンロやその他魔導調理器具は、そのほとんどが未完成だし、材料も足りてない。
なので、調理をするなら普通に薪に火をつけてになるのだが……そもそも食材が無い。
というわけで、普通に考えれば干し肉とか黒くて硬いパンとかになるのだが……香奈たちは今まで城の飯しか食ってこなかったんだよな……
一食くらいなら、「旅っぽい!」とか、「これぞ異世界飯」とか言って食いそうだけど、着くまでずっとそれでは、流石に嫌だろうし、栄養バランス的にもよろしくない。
というかそもそもそう思って、俺以外の各人一日分くらいしか食料を持ってきていない。
なので、基本は現地調達になる。
非常用に残すことも考えると――――
「――――と、言うわけで、今回は普通に持ってきた物を食うが、今後の飯は現地調達になる」
「んぇ~……ふぁ~い」
「わかりました!」
「お任せください!」
(食べるための苦労は厭わない)
……若干一名例外がいるものの、だいたい皆やる気があるようで良かった。
休憩中の、イマイチ美味しくない携帯食を食った直後に言ったのが良かったのかもしれない。
皆、イマイチ美味しくないって顔してたし。フィルスはそうでもなかったけど。
というか白雪は食事の必要ないのに、なんでそんなにマジ声なんだ? そんなに食べるの好きなのか? まあ、俺もあまり人のことは言えんが……
いや~、風呂と飯は人生に潤いを与えてくれる最強のアイテムですからな! それを、"必要ないから"なんて理由で切り捨てるなんてとんでもない!
まあ、調理器具をいくら揃えても、こっちの食材全然わからんから、食が潤うのには時間がかかりそうだが。
今回のサバイバル飯は、そのための第一歩というわけだ。
まずは手軽……かどうかはわからないが、まあ手に入れようと思えば手に入れられる食材のレパートリーを増やすことこそが重要なのである。
生活基盤が殆どなく、旅で収入もあまりない俺たちに必要な、上手い飯にありつくためには、なるべく金をかけず、手軽に手に入る食材を知っているというのは、旅をするにおいて、かな~り大事なことだと思う。
それに、いつ何があるかわからない異世界旅だ。
食えるものを知っているというのは、結構重要なことだったりする……俺には必要ないが。
そんなわけで、食事を終え、早々に出発する俺達。
暗くなる前に飯を調達しなければならないので、急がねばならない。
流石に、こんな人の出入りが多い森の、入ってすぐの所で良いものが手に入るなんて思えないし。
それに、山手前の森は魔素が薄く、山の麓まで行かなければ、あまり強い魔獣は居ない。
ウルフ肉はイマイチだったし、ゴブリンは食える気がしない。
普通の動物はあまりおらず、居ても美味いのはだいたい初心者に狩りつくされてる。
それに、異世界飯っつったら、強いのが美味いと、相場が決まっている!!
というわけで、山菜や果物などはまだしも、肉は奥へ行ってから調達したいのだ。
現在の時刻は正午。
皆の歩く速さ的に、狩猟予定のエリアに入るまで、早くても二時間以上はかかるだろう。慣れない森と考えると、もっとかも。
そして、今の時期……だからかどうかはわからんが、陽が落ちるのはだいたい19時過ぎくらい。
調理用の物を中心に魔導具を製作をする俺や、こっちの世界の野草の知識を唯一持ってるフィルスが狩りにあまり参加できないことや、どの魔獣が食えるかわからないこと。更には、解体する時間なども考えると、意外と時間はありそうで無い……と思う。
香奈たちの実力もわからないし、白雪は……そもそも戦えるのかもわからん。まあ、ダメならフィルスや俺の手伝いをしてくれればそれで良いけど。
まあ、今回はまだ初回だし、慎重すぎるくらいでいながら、失敗してもドンマイくらいの気軽さでできれば良いと思う。
楽しいのが一番だし、最悪経験を積ませるという目的を無視するなら、俺がパッと山の向こうで適当に狩ってくればいい。
あるいは、大量にある例の死骸の山から、まだ食えるものを探すか……いや、それは無いな。流石に無い。
「というか、皆は何が食べたいとかあるのか?」
希望によっては獲物も変わるだろうし、一応聞いておかなければな。
「いえ、食べられればそれで十分です」
(美味いの)
「ん~、お米かな?」
「あー確かに。お米食べたいなぁ……」
あ~米なぁ……俺も食いてぇよ。
だがな、香奈。それは言わない約束だろう。言ったら食いたくなるじゃないか。
「米は後々見つかればいいなってことで。というか、王様に聞いてみればよかったんじゃないか? アストレアは、食が豊かな国なのだし」
「あーうん。それはね、もう聞いたの。でも、イマイチ心当たりがないみたい。本当に無いのか、ただそれを食べる文化が無いのかはわからないけど」
ふむ……となると、やはり偶然の出会いを積極的に求めていくくらいしか、できることは無さそうだな。
「そうか……まあでも、とりあえずは、特に希望はないってことで良いのかな? そうなると、適当にとった山菜や肉で、簡単お試し料理になるけど」
「いいよ~」
「それで大丈夫です」
「レイジ様がよろしければそれで」
(……わたしの舌を満足させられる?)
……白雪よ。何故そんなに挑発的なのだ? いやまあ、別にいいけど。
「あー、それからもう一つ。この中で料理できる人~」
「ん~、一応? でも、こんなサバイバル飯は経験ないなぁ……」
「すみませんお兄さん。私はできないです」
「私はまあ、動物なら。魔獣はあまり経験がありませんが」
(……食べ専。でも、好きに食べれるなら、覚えてもいいかも)
ふむ。とりあえず、香奈とフィルスは行けそうかな。
あーでも、味見はまず俺がしないと、毒とか怖いか。
う~ん……
「まあ、とりあえず今日は俺がするよ。大丈夫って分かってる食材なら、別に任せてもいいんだけどな」
「ああ、確かに。でも、レイジにぃは大丈夫なの?」
「俺はほら、毒が入ったら一旦魔素化すればいいから」
「……魔素化? レイジにぃってドラゴンだよね? そんな能力あるの? でも、そういえば大会の時に……」
ん? あ、そうか。二人には、まだ説明してなかったわ。
「あーまあ、うん。何から話すかな……えっと――――」
それから俺は、狩猟予定エリアに到着するまでずっと、説明に追われるのであった――――