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ゴルフのそのき  作者: 園木まさ


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第1話 その日、キミが手にしたものは……

社会人になってからゴルフを始め、「100切り」を目指す父・マサ。その傍らで、2歳の息子・カズも小さなクラブを握り始める。


最初は、ただ父の真似をしていただけだった。


クラブが折れ、アプローチに悩み、たくさんの拍手に包まれて初めて成功する。

そんな小さな「その気」の積み重ねは、いつしか大きな夢へと変わり、全国大会優勝、そして世界大会へと親子を連れていく。


夢は、どの瞬間に生まれ、どうやって育っていくのか。

子どもの成長を見つめながら、父もまた、ともに悩み、ともに学び、ともに成長していく。


現在進行形でジュニアゴルファーを育てる作者が、実話をもとに綴る親子の成長連作物語。


この物語は現実(リアル)と繋がり、今もまだ続いている――。

いつか物語の世界からプロゴルファーが生まれたら?

そんなことを夢見ながら。

マサ(父) 32歳

カズ(息子) 2歳0か月




「初心者はどれ使っても一緒だよ。とりあえず安い中古のでいいんじゃない? 」

「確かにそうだけど…」

 そう言いつつも、何となくもの選びにはこだわってしまう自分がいる。今日は職場の同僚のクマダと一緒に、仕事終わりにゴルフショップに来ている。社会人になってから、ことあるごとに方々の人から勧められていたゴルフ。30歳を過ぎてからようやく借り物のクラブを使って始めるようになり、何となく練習場では当たるようになってきた。コンペに参加する度にブービー賞や敢闘賞(=ビリ)を狙うというのもそろそろ卒業したいと思い、本格的に上級者への第一歩「スコア100切り」を目指すため、自腹でマイクラブを買うと決めたのだ。さんざん迷った挙句、予算との兼ね合いで手ごろなナイキのドライバーと白いフェイスが特徴的なウッド、それにブリヂストンのアイアンとウェッジのセットを買うことにした。もちろん全部中古だ。

「へぇ。ナイキのドライバーなんて、面白いじゃん。そのウッド、”ロケットボールズ”って言って、結構名器って言われているやつだぜ」

 すでに「100切り」というアマチュアゴルファー最初の関門を突破しているクマダが何気なく選んだクラブの解説をしてくれた。

「ふーん、そうなんだ」

「ついに初のマイクラブですな」

「ああ、これでおれも1年以内に100切りするわ」

 そう言いつつ、実はこれが初めてのマイクラブではない。遡ることおそらく28年も昔のこと。実は、マイクラブを持っていた時期があったんだ。自分が幼稚園のころだっただろうか。正確な時期はもう覚えていないけれど、プラスチックでできたオモチャのクラブを振り回している時期があった。当時テレビで放送されていたとあるゴルフアニメの影響で、家の中やちょっとした公園で、ゴルフをして遊んでいたんだ。そんなある日、本格的な打ちっぱなし練習場に、父に連れられて行った。いつも打っていたプラスチックのボールではなく、本格的な練習ボール。喜び勇んでスイングすると…

 

 ポキリッ!!


 アニメの主人公みたいな一直線に飛ぶボールとは程遠く、打った打球はチョロチョロと転がり、自慢のマイクラブはへし折れていた。私のゴルフ人生は、そこで一度終わりを告げ、それ以来随分久しぶりにマイクラブを手に入れることになったというわけだ。


「合計9万8900円となります」

「おお、予算ぎりぎり…」

 久しぶりに手に入れたマイクラブは、社会人になってから、マイホーム、車、電化製品に次いで高い買い物となった。パターが足りてないけど…まあ、それは引き続き借り物を使わせて頂こう!

「お疲れさん。買い物付き合ってくれてありがとな」

「いえいえ、しっかり練習してくださいよ。園木がその気になりゃあ100切りなんて、結構簡単よ」

 クマダがつまらないダジャレを交えて応援してくれる。この苗字で生まれてから、もう何百回聞かされたダジャレだろうか。

「おお!自腹切ったし、もうやるしかないよ。その気だぜ」

 答え方も、もはや定型文だ。

「ちょっと他に寄るところあるから、行くわ」

「おお?どこに寄るんだ?」

「ちょっと100円ショップにね」

「ああ、子どもに何か買って帰るの?」

「まあ、そんなとこ」

「オッケー、じゃあまた明日な」

「おお、マジでありがとう」

 こうして、クマダとは別れ、100円ショップへと向かった。


「うーん、どれにすっかな」 

 すでに買うと決めていた綿のつまった小さなサッカーボールをかごに入れ、他に何を買うか店内をうろうろ…今日は、2歳になったばかりの息子のカズに「選び取り」というのをやらせてみようと夫婦で話していた。「選び取り」というのは、子どもの前にいくつかのアイテムを並べて、何を選ぶのかによって将来の職業や才能を占ってみる、という儀式みたいなものだ。本当は1歳の誕生日にやるのが普通らしいけど、うちはうっかりやる時期を1年以上も逸して、今になってしまった。今更やる意味があるのかどうかもわからないが、最近色々オモチャを使って遊んでいるので、何となくやってみることになったんだ。

 サッカーボールをかごに入れているは、父である自分が「選んでほしい」と思っているからだ。息子の「カズ」という名前も、昔から好きなとあるサッカー選手の名前が由来となっている。これはまあ「親のエゴ」ってやつですかね…

 色々と物色していると、ふと、プラスチックでできたゴルフのオモチャが目に留まった。

「あ、これは…」

 マイクラブがへし折れてしまった時の記憶が再び蘇る。今考えると、どうしてそんな昔のことを覚えているのだろう。弱弱しくポキリと折れてしまったクラブから伝わる手の感触すら、何となく覚えている。

「これも入れておきますか」

 全部プラスチックでできたドライバーとアイアンとパター、そしてキャディバッグ。先ほど自分が手に入れたマイクラブとは値段も重さも長さも全然違うそれを買い物かごに入れ、会計に向かった。

 その他購入したものと合わせて、セルフレジではじき出された会計金額は1100円。合計するとちょうど予算ぴったり10万円というところで、その日の買い物を全て終え、家路についた。


「おかえりなさい」

「パァパ」

 妻がカズと一緒に迎えてくれる。

「『選び取り』のグッズ、買ってきてくれた?」

「ああ、買ってきたよ」

「何か、自分の趣味のものばっかりじゃない?」

「そうかな?」

 何となく思い当たる節がないではない。早速夕食の後「選び取り」をやってみることにした。


 電卓、鉛筆、お金、本、笛、鏡、はし、定規、英語教材、そしてサッカーボールとキャディバッグ… カズの前には、自分の将来を占ういくつかの「物」が並んでいる。若干親のエゴや作意が見え隠れする中「選び取り」が始まった。

「好きなの選んでごらん」

「さぁて、どれを選ぶかなぁ」

「……」

 私としては、サッカーボールを選んでくれるのではないかと期待していた。だって、名前が「カズ」だからね!カズが選び取ったのは……

「え、ゴルフ?」

「意外だね」

「パパが新しいの買ってきて嬉しそうにしてたからじゃない?」

 ああ、私が買ってきた「目指せ100切り達成セット」を見ていたからか?確かに、自分も気合を入れたところだし、これから親子で一緒にゴルフをしていくのも面白いかもしれない。

「バックオーライ」

「え? そうやって遊ぶの?」

 真新しいクラブを手に入れて、早速ボールを打ってみるのかと思いきや、カズが始めたのは「キャディバッグを引くこと」だった。しかも後ろ向きで……そういえば、車とか電車が大好きで、タイヤに興味を示していたもんね!うんうん、キャディバックのタイヤが転がって、面白いね!

「ゴルフの才能、あるのかな?」

「キャディの方の才能かもね? でも、ちょうどおれもゴルフ頑張る気になったから、一緒にやってみるかな」


 あの日、へし折れてしまったマイクラブ。28年もの時を超え、再び手にした。どうやらその気になったどこにでもいる普通の親子は、ゴルフに打ち込む日々をスタートさせることとなった。

 この頃はまだ本格的なジュニアゴルファーになるとは思っていませんでしたねぇ。

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