さらに、上書き
空間が、静かに削られていく。
音はない。
でも確実に、“存在できない場所”が増えている。
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「……来てるね」
結衣が言う。
「ああ」
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さっきまでの“揺れ”とは違う。
これは――
“否定”。
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観測者が小さく息を吐く。
「やっぱり直接来たか」
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その瞬間。
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世界が一度、止まる。
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時間が、止められる。
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「っ……!」
動けない。
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結衣も、レンも、止まる。
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動けるのは――
“外側”。
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声がする。
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「定義、確認」
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冷たい。
感情のない声。
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「時間:一方向、固定」
「空間:有限、閉鎖」
「人間:自由意志あり」
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一拍。
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「不適合」
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その瞬間。
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時間が“歪む”。
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「……っ!」
体が動く。
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でも違う。
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さっき決めた“ルール”が崩れている。
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結衣が息をのむ。
「時間……戻ってる」
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ありえない。
“禁止したはず”だ。
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観測者が低く言う。
「上書きされた」
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「……は?」
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「向こうはね」
一拍。
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「ルールの“外”にいる」
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空間がさらに変わる。
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境界が消える。
壁がなくなる。
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世界が“開く”。
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「待て、それは」
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言い終わる前に。
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重力が消える。
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浮く。
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足場がない。
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結衣がバランスを崩す。
「ちょっと……これ……!」
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観測者が言う。
「一個ずつ潰してる」
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冷静に。
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「君たちの“世界の定義”を」
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声がまた響く。
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「修正」
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一言。
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その瞬間。
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“人間”の定義が揺れる。
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レンが膝をつく。
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「……え?」
結衣が振り向く。
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レンの目が、少しずつ変わる。
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“自分”を見失っている。
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「意識……削られてる」
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観測者が言う。
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「自由意志、消しに来たね」
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空気が凍る。
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「ふざけんなよ」
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思わず声が出る。
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せっかく作った世界。
せっかく作った人間。
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それを――
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「不適合は削除」
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冷たい声。
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感情がない。
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ただ“正しさ”だけで動く存在。
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結衣がこちらを見る。
「これ、やばいよ」
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うなずく。
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「全部持ってかれる」
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時間も。
空間も。
人間も。
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全部。
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観測者が小さく笑う。
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「どうする?」
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試すように。
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「ここで終わる?」
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一拍。
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そんなわけがない。
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前に出る。
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揺れる空間の中で。
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「取り返す」
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短く言う。
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「全部」
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結衣が少しだけ笑う。
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「やっと来たね」
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その言葉で、はっきりする。
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これはもう――
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“創造”じゃない。
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“奪い返す戦い”だ。




