38,帰路
10日間の予定が終わり、わたしたちは東京に帰ることになった。
連絡船に乗ってまずは福栄港へ向かう。
『株式会社 真珠輝』と『株式会社 栄美丸本舗』は具体的なことはこれからだがパートナーシップを結ぶことで合意した。栄美丸本舗は辺干島の観光開発にも協力し、東京始め全国への宣伝活動にも協力してくれることになった。
ミセス・ビッキーは『エクストラ・パールホワイト・コラーゲンシリーズ』の実現に意欲的で、ユイたちへび女たちに協力を求め、まずは自分が被験者になって試すのを楽しみにしている。あれの正体を知ってなお積極的に求める美への姿勢に畏敬の念を感じますです。このシリーズも原材料名は秘密だろうなあ……。ミセスは白輝島の凶暴シャモにも興味津々で、ブッチーはまた白樹様がお腹を空かしてお目覚めになる日に備えてゲテモノ料理への精進の誓いを新たにしているとか。おえっ。
島は結果的に勧めていた事業が上手く行きそうで、生け贄もなくなって、喜んでいる。聞けばわたしたちをヘビ様に食べさせちゃったり、鮫のエサにしちゃったりと、ひどいことを目論んでいたようで、現金なものだ。うんとサービスしてもらったから、ま、いいけどさ。
わたしたちにとっては、なんだかんだで、いい旅行だった。
この南の海と空ともお別れかと思うと寂しい。
ユリエママは島のごたごたが片づいたら東京に遊びに来ると約束した。アリサママと三人で会って、いろいろ、親子水入らずで楽しむんだ。
ユイもこの船には乗っていない。でも『真珠輝』と『辺干島リゾートアイランド』の広告塔としてモデルの仕事は続けると言い、近くまた上京するはずだ。どうやってかわいがってやろうか楽しみだ。48歳なんだけどね。島を出るとき、長太郎爺ちゃんにはずいぶん感謝されたなあ。
モデルたちの空気感はだいぶ変わった。元気をなくしている者もいるけれど、全体的に絆が深まって仲良くなったと思う。
ユーノに噛まれたユウミはすっかり元気回復しているが、この二人姉妹は元々悪かった仲がますます悪くなったようだ。ま、世の中全て丸く収まるとはいかないようだ。わたしにヘビを取り上げられたユーノはプンプン怒っているが、みんなのひんしゅくの目に晒されてちょっとは反省……してくれるといいな。でも自分の大粒真珠=『ヘビの玉』は見せびらかして自慢しているから、たいして根深くもないんだな、元は単純な奴だ。
単純と言えばすっかり二人仲良くなったムツミとカグヤも自分たちのピンクの真珠を見せ合って喜んでいる。たいていのメンバーが知っているその正体を自分たちは知らないんだな。ま、この二人はこれでいいや。
カノンは、かなり元気をなくしている。やっぱり馴染んでしまったヘビを抜いたのは心と体に大きな負担になってしまったようだ。わたしとママでずいぶんていねいに優しくしてあげたんだけれどねえ……。そんなカノンに親身になって優しくしてやっているのが意外なことにシズカだ。そんなシズカの優しさにカノンも素直に甘えている。……けっこうこの二人、わたしたちに近い趣味してるんじゃない? 今後の展開にワクワク期待。カノンもピンクパールを持っているから、これが幸運のアイテムになるといいね?
アイリとウララさんは相変わらずだけど、この二人もいつも通りの方が落ち着いていいな。やっぱりわたし、集団の中では主役キャラじゃないものね。
もう一人、今回の騒動にほとんどノータッチで、まったく変わってない人がいる。
海を眺め感慨に耽っているわたしに、ナユハさんが話しかけてきた。まったく珍しいことだ。
「ねえマイちゃん。ムツミちゃんたちが持っている大きな真珠、マイちゃんがあげたんだって? 知ってるかなあ?今度フランスから有名な、真珠が大好きな宝石デザイナーが来日するんだけど、実はわたし、ライバルと広告モデルを競っているのよ。あの真珠があったら、彼にすごくいいアピールになるんだけどなあ………」
この人ってば本当に自己中心的なんだね。ま、美しいから許すけれど。
ナユハさんはじいっと熱心に、色目を使うようにわたしを見つめている。わたしは…かなり気持ちいいぞ?
「欲しいですか、あの真珠? でもあれ、特別な物で、その人専用に一つだけしか持てない物なんですけど……」
「本当? 自分専用の真珠なの? それ、すごいわね? ねえ、どうやったら手に入るの?」
この人もいい加減わたしの趣味を知っていて、熱く手を握ってきて至近距離から目を覗き込んでくる。上手だなあ、こういう顔。誰に使ってるんだろう?
ムフフ、とわたしは思いっきり桃色の下心をムラムラさせる。
「教えてあげてもいいですけれど、二人っきりじゃないと教えられません。あの、分かっていただけます?」
「そうなの? ええ、いいわ。帰ったら……、疲れを取るためにいっしょにホテルに泊まりましょうか? それなら……教えてくれるわよね?」
わたしは恥ずかしそうなふりをして、顔がにやけてしょうがない。
あ、そうそう、ユイが戸惑ったわたしの『ヘビの玉』の在りかだけど………それは、ひ・み・つ。
じゃあねー。
おしまい




