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33,モデルたちの行方

 白輝島。

 宮澤葵マネージャーを食ったユイ、

 瀬合美津江編集員を食ったキョウカ、

 ウララを食ったマミ、

 シズカを食ったカノンは、

 巨大に膨らんだ腹を抱えて山道をドスドスお屋敷に帰ってくると、奥の、5本のトンネルの中央、黄金のピラミッドの間にやってきた。

 ピラミッド内は外の洞窟の明かりがガラス窓から入って多少明るく、彼女たちは赤外線で暗闇でも物が見えるのだが、せっかくの黄金の間だからユイはLEDのランタンを床に置いた。

 黄金のお堂の前にお社様が座っていた。硬い金の床に直はさすがに脚が痛くなってしまうので黄金に相応しく紫色の座布団にお行儀よく正座している。お社様は昔の慎ましやかな女性なのだ。が、床のランタンに黄金の反射と共に照らし出された顔は、不気味な物だった。

 半分蛇になっている。

 うろこがくっきり浮き出しているばかりでなく、顔が前に伸びて恐竜のようになり、目玉が白目をなくしてまん丸い巨大な黒目だけになっている。

 この顔になるのはご免ね、とユイは横目で薄ら寒く笑って、

「ただ今帰りました。失礼しますね?」

 と、うんぐええっ、と喉を膨らませ、再び化け物の巨大なあごを開き、


「げろおおっ」


 と、胃袋を吐き出した。

 と、見える。白い膜の袋に、手足を縮めた宮澤葵マネージャーがそっくり入っている。

 キョウカ、マミもそれぞれ、


「げろおおっ」

「げろおおっ」


 と、生々しく濡れた袋に入った瀬合美津江編集員とウララを、こちらはスッポンポンの全裸を、吐き出した。自分たちも真っ白な全裸だ。


「うぐっ、げろげろげろおおお……」


 まだ吐き慣れないカノンは途中つっかえて苦しそうに涙を流しながら袋に入った全裸のシズカを吐き出した。

 4つの袋詰めの女たちが転がり、お堂の脇に、先にもう一つ、天宮絵美カメラマンの入った袋も転がっていた。

 へび女たちは丸飲みした獲物をこうして脱皮した胃袋と共に吐き出すことが出来るのだった。

 ゲホゲホ咳き込んでいる新入りのカノンにユイが説明してやった。

「こうして仮死状態にしておけば肉を生のまま新鮮に保存しておけるわ」

 涙を拭きながらカノンが不満そうに言った。

「自分が食べられるんじゃなかったの?」

 ユイは小狡く笑って教えた。

「わたしたちがいただけるのは白樹様のおこぼれよ。一人か二人食べて満足されたら、後はわたしたちがお残りを分けていただけるわ」

「ああ、それで……」

 一番のご馳走のアイリを逃がしてやったのか……。もしかしたらユイ自身の一番の狙いはナユハなのではないか?

「お母さん。白樹様のご様子は? その顔だともうそろそろお目覚め?」

「そうね」

 お社様はは虫類の顔で発声しづらいのかくぐもった声でしゃべった。

「午後にはお目覚めになりそうね。外の騒がしいのにちょっと気が立っておられるわよ?」

「あらそう? ま、祭囃子とでも思って楽しんでいただきましょう?」

 うふふと笑ってユイは出口に向かった。

「島に連絡してボートの連中を保護してもらうわ。おそらく島にたどり着けないと思うから、日干しになるか鮫のエサになったのじゃもったいないわ」

「じゃああたしも〜」

 マミが顔をパタパタ手で扇ぎながらついてきた。

「食べもしない人間一人お腹に抱えて坂道登って疲れた〜、虚しい〜〜。水浴びして寝る。白樹様が起きたら起こして〜」

「わたしも。昼間は基本眠いのよね」

 ふわ〜あとあくびしてキョウカも続いた。

「若いのにだらけてるわねえ?」

 ユイは呆れ、

「あ、あのう、じゃあわたしも……」

 恐竜顔のお社様と二人きりになるのが怖くてカノンもくっついてきた。ユイは。

「しょうがないわねえ。お母さん、白樹様がお目覚めになるのは夕方涼しくなってからね?」

「そうね」

「じゃあわたしもそれまで休憩。お婆ちゃんの子守はよろしくー」

「こらっ」

 ユイはべーと舌を出して、妹たちとクスクス笑いながら通路を出ていった。



 ユイは屋根裏部屋に設置されたNTeTeのアンテナの電源を入れ直した。

 自分の携帯電話にアンテナマークが立ったのを確認してモモカの携帯にかけた。

 モモカの携帯は電源が切れているようでつながらなかった。

「何してるのかしら、ヌケ娘。三流モデルたちと遊びほうけているのかしらね?」

 フム、と腹心の古松副社長にかけた。これもつながらなかった。

「馬鹿者め。首にしてやろうかしら?」

 チッと舌打ちし、嫌な顔をしてユリエの携帯にかけた。これもつながらなかった。さすがにユイの顔色が変わった。

「おかしい……。何かあったわね?」

 自分とつながりの深い三人にかけただけだが、これは自分がやったように辺干島中のアンテナ基地をダウンさせたのかも知れない。島中といっても数は知れている。

「ユリエね? 今回ばかりはやりすぎということかしら? フン」

 ユイは残忍に笑った。

「来るならさっさと来るのね? でなきゃ、アイリたちは本当に日干しになっちゃうわよ?」

 もはや大したことでもないように携帯をしまい、屋根裏部屋から下りていった。風通しのいい部屋で自分も気持ちよく昼寝して過ごすつもりのようだった。




 アイリたちにとっては不幸だった。あのままユイの連絡が通じていればすぐに迎えが行っただろうに、救いの船がやってきたのは灼熱の炎天下の午後2時だった。

「やったー!」

 と喜び叫んで、「おーいおーい」とそれが敵かも知れないなんて思考する余裕もなく手を振って救助を求めた。

 果たして。近づいてきた漁船「海兆丸」の甲板から手を振ったのはマイだった。

「アイリさーん! 芳沢さーん! 相原さーん! ご無事ですかー?」

「マイーっ! おーいおーい!」

 三人は大喜びで呼びかけた。

「三人だけですか? ウララさんやシズカさんは……たいへん!」

 助手席に移され青黒い肌でぐったりしているユウミを見つけてマイはびっくりして叫んだ。

「そうなのよ! あの島の女たちはユイも含めてみんな蛇の化け物たちなのよ! カノンもユーノも仲間にされちゃって、ユウミはユーノに噛まれ…………」

 アイリは甲板にいっしょに立っているユリエを見てハッと警戒した。

「まあたいへん」

 ユリエは横付けされた海兆丸からひらりとボートに飛び降りた。アイリたちはわっと逃げた。

 ユリエはユウミを抱き起こすと、ニュッと牙を伸ばし、噛まれた首筋を噛んだ。アイリたちはヒッとおののいて慌てて海兆丸に渡ってこようとした。

「だいじょうぶ、ユリエさんは味方だから。わたしたちこれからユイたちを退治に行くところだから」

 マイが言っても

「で、でも、この人も蛇の仲間じゃ……」

 とにわかには信じられなかった。マイも騙されて島へ連れて行かれようとしているのではないか? いやそもそもマイもカノンやユーノのように蛇の仲間にされてしまっているのではないだろうか?……

「ううーん……」

 ユウミがうめいて薄く目を開けた。

「ユウミ! だいじょうぶ!?」

 こわごわ訊くアイリにユウミはかすかにうなずき、自分を抱くユリエを見た。ユリエは安心させるように微笑んだ。

「解毒はしたけど、既に組織がだいぶやられているから、安静にね? だいじょうぶよ、休んで栄養補給すればちゃんと治るからね?」

 ユウミはお礼を言うようにかすかに笑い返し、疲れたように目を閉じた。

「予備のガソリンはあるかしら?」

 ユリエは精鋭として連れてきた若い漁師に命じてモーターボートに給油させ、アイリたちに言った。

「ユウミちゃんをすぐに入院させなくちゃ。湾にたどり着くくらいは出来るわよね? 大声で助けを呼べば誰か来てくれるから。島はもう安全だから安心していいわ」

 アイリはうなずきながら、マイに訊いた。

「本当にユイたちを退治に行くの?」

 マイはうなずいた。

「うん。勝負は五分五分ってところだけど、勝機はあるから、まあ、期待してて?」

 笑うマイを不思議そうに見つめ、アイリは決心したようにうなずいた。

「じゃあわたしも連れていって」

 マイの方が驚いた。

「危険よ? こっちがやられてバッドエンドも大いにあり得るわよ?」

「そうしたらまた全力で逃げるわよ。なんか日干しにされてムカムカ腹が立っちゃったし、ウララは助けたいから……もう駄目かな?」

 ユリエが答えた。

「たぶんまだだいじょうぶ。夕方まではね? 本当にいっしょに来たい?」

 アイリはユリエはまだ怖そうにしながらうなずいた。

「じゃあ連れていってあげる」

「え? ちょっと、きゃっ!」

 ユリエはアイリをお姫様だっこすると、ひょいと軽々ジャンプして海兆丸に舞い戻った。甲板に下りたって下ろされるとアイリは急いでマイの背中に隠れた。

「だ、だいじょうぶなんでしょうねえ?」

「だいじょうぶよ。ねー?」

 仲良さそうに笑顔を見交わす二人にアイリは大いに不安そうな顔をした。

 モーターボートは相原が運転し、芳沢、ユウミと共に辺干島の港に向かって発進した。

 海兆丸も白輝島向けて発進した。

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