23,自家製サプリの作り方
9時を過ぎて、のんびり散歩に出るように脱出船の捜索チームは出発した。
テレビの音を大きくしてジリジリしながら待機していたモデルたちの所へ、9時50分、カノンが呼びに来た。
「みんなー。じゃあサプリ作り始めるからお風呂場に来てくださいって」
いよいよかと、モデルたちは危険と期待に目をギラギラ光らせた。
風呂場に行くとユイがポンプの口からじゃばじゃば溢れる水を桶に取り、ざあっと浴槽を流した。掃除をしていたらしい。
「はい、準備完了。美容品は清潔が第一だものね」
「そこで作るの?」
「そうですよー」
材料やまな板やボールなんかはいらないのだろうか?と眺めても特別の道具は準備されていない。
「ふわ〜〜あ…。まだ眠いよお〜」
目をこすりながらマミと、キョウカがやってきた。講習を受けるゲストの5人と、既に美白を極めてユイの助手を気取っているカノンは脱衣所でぎゅうぎゅうになって風呂場を覗いていたが、
「狭い」
と文句を言って風呂場に入り、Tシャツを脱ぎ、スカートと下着も脱いでユイに渡し、二人とも全裸になってしまった。
男子禁制、女しかいない島で羞恥心というものを脱ぎ捨ててしまったみたいに真っ白な裸体を晒す姉妹にゲストたちの方が真っ赤になってしまった。きっと作業で汚れるからなのだろうと思いながら、全然消化しきれずに妊婦のように丸く飛び出たお腹が妙にエロチックで妖しい雰囲気を発散していた。
ユイは預けられた二人の衣服を脱衣かごに置き、
「どうぞ。中に入って見学してください?」
と皆に勧めた。裸足のモデルたちは遠慮がちに洗い場に入り、入り口付近に横に広がって姉妹を眺めた。
二人はいっしょに浴槽に下りると、桶に水を汲み、
「きゃー、冷たーい!」
とはしゃいだ悲鳴を上げながら体を流した。底の排水口に栓をして、更に2杯ずつ水を体に掛けた。
「じゃ、始めよっか?」
こちらは多少恥ずかしそうに頬を染める姉キョウカに、妹マミは見学者たちに妖しい視線を投げかけながらキョウカの濡れた肌に触れ、体を寄せ、ぴったりくっついた。んまっ、とモデルたちは口を押さえて真っ赤になった。キョウカもマミのうなじに手を巻き付け、二人で浴槽の底に沈んでいった。
「どうぞ。ご覧になってください?」
ユイに手で示され、モデルたちはこわごわ周りに集まって浴槽を覗き込んだ。
横に抱き合ったキョウカとマミが、底に溜まった水をぴちゃぴちゃ言わせながら互いの肌を撫で合い、体をこすり合い、脚を互い違いに絡め合って、うねうね、うごめいていた。濡れた白い肌がなおいっそう艶めかしく光り輝いている。
「なななななななななな、」
ウララが泡を食いまくってユイに訴えた。
「なに見せてんのよお〜〜っ!!?? わ、わ、わたし、こ、こ、こ、こういう趣味ないからあっ!!!!」
「あら? 趣味じゃありません?」
ユイがわざとらしく首をかしげてニヤニヤ笑った。
「ま、よおく見てください? 二人が何してるか?」
「な、なに?…」
恥ずかしくてしょうがないウララは顔いっぱいに汗をかいて逃げ腰になりながらちらちら横目で覗いた。
二人は特に丸々膨れたお腹をくっつけてまさぐりあっていた。食べ過ぎたお腹が苦しそうに(?)息を漏らし、狭いところに二人お互い乗り上げるように体をくっつけて暑そうに白い肌全体に油が浮くようにぬらぬらした光沢の汗を浮き上がらせていた。
その汗の量が、尋常でなくなってきた。目に見えて肌から浮き上がり、肌が溶け出たような白い濁りが混じりだし、ぬるぬるした濃い質感を持ったまま、周りの浅い水に垂れ落ち、水かさを増していった。まさか……という思いが見守るモデルたちの顔に現れてきた。
まさぐりあっていたお腹が、まるで油を搾り取ったみたいにだんだん小さくなってきた。胃袋に詰まった大量の生肉が、物凄い勢いで消化され、それが皮下脂肪に蓄積されることなく、汗と共に皮膚の外に排出されていく。どろっ、どろっ、と、皮膚に浮き上がった、ほとんどゼラチンのような濃い汗が、どぷり、どぷり、と、溜まっていき、二人の体をまさぐる全身運動にぷるぷる揺れた。二人の体はもう半分くらい自らが排出したグリセリンの池に浸っている。湯船からはもわあっと甘ったるい脂肪臭さと、花の蜜のようなつーんとしたきつい匂いが湯気のように立ち上っていた。
どぷり、どぷり、と肌から波打つように溢れてくる。いったいどういう肌をしているのだ?と眉をひそめてびっくり人間大集合を見る目で見ていると、本当に波紋を描くようにわき上がっている。白く濁った粘液の下に、赤いカーブの重なった模様が見えた。赤が濃くなり、どぷっ、と、カーブの重なった模様で新たな粘液が吐き出されている。魚のえら呼吸のようだ。
キョウカ、マミ姉妹の全身の肌に赤いうろこ模様が浮いて、それは、肌の下から粘液と脂肪を吐き出し、生きていた。
ひいー…………っと、息を飲み、モデルたちは震え上がった。
人間じゃ、ない。
うろこの、化け物だ。
白い肌の、へび。
「ふーー…」
マミが息をついて体を起き上がらせた。ぬちゃあー…っとしたスライム状の白濁した塊をすくい上げ、ねばあー…っと指の間から垂れ下がらせながら差し出し、
「ほら、たくさん作ってあげたわよ? 出来立てほやほや、どうぞ?」
と、火照った顔でニイッと笑った。キョウカもほうっと放心したような顔で起き上がって、思い出したようにモデルたち、特にアイリを見て、
「来て? 綺麗にしてあげるよ?」
と微笑んだ。
「きゃああああっ!!!」
ウララが一番に悲鳴を上げて、全身を掻きむしった。全身の肌に赤い鳥肌がブツブツブツブツ立っていた。ウララは顔を真っ赤にして半分泣きながら痒がって肌をぼりぼり爪で掻いた。他のモデルたちもブルッと震え上がり、体がむず痒いように腕を抱いて体をよじった。
アイリも青い顔で唇を歪めながら後ずさった。その背中がドンと誰かにぶつかり、両肩を掴まれた。ヒッと伸び上がりながら視線を後ろに向けると、ニタニタ、カノンが笑っていたが、その顔を見てアイリは、
「きゃーーーーーっ!!」
とありったけの声量で悲鳴を上げた。
カノンの顔に赤いうろこの模様が浮き上がって、は虫類人間になっていた。
「アイリさん。わたし、綺麗でしょう?」
「きゃーっ、嫌ーっ、化け物ーっ!!」
「そんなこと言って、本当は羨ましいくせに。仲間にしてあげてもいいんですよ?」
「嫌ーっ、放せ、このは虫類!」
アイリはドン!とカノンの胸を突き飛ばした。
「おいでー、アイリちゃーん!」
「アイリちゃん、いっしょにお風呂入ろう?」
姉妹が浴槽から手を伸ばし、ヒイッとアイリは食いしばった歯をむき出したすごい顔をした。
「アイリ! みんな!」
ウララがお尻のポケットに入れてTシャツの裾で隠していた「サンダーアウチ」を取り出し、紐を引っ張った。
「 ピ! ピ! ピ! ピ! ピ! ピ! ピ! ピ! ピ! 」
甲高い電子音がけたたましい音量で鳴りだした。みんな思わず肩をすぼめ、耳に手をやった。
「アイリ! 逃げるのよ!」
ウララは大声を上げてアイリの腕を取り、風呂場から逃げ出そうとした。
「待て! アイリさん! ウララさん!」
カノンがうるささに顔をしかめながら通せんぼするのを、ウララはサンダーアウチのスイッチを押して腹に押しつけた。
バチッと電撃に貫かれ、「ギャッ」とカノンは万歳した。
「ごめん!」
ウララはカノンをドン!と横に突き飛ばし、アイリを連れて脱出した。
「行くわよ!」
シズカもすっかり頭の中身がどこかに飛んでしまったように立ち尽くす瀬合編集員の腕を掴んで出口に向かった。
「待て!」
大したダメージもなく掴みかかってくるカノンを
「どけっ!」
と思い切り腹を蹴り飛ばした。
「ユーノ! 行くよ!」
出口から飛び出ようとしたシズカは振り返った。
「何してんの!? 行くよ!」
ユーノはニヤッと笑った顔でシズカを見た。シズカはギョッとした。
「ユーノ、あんた、まさか……」
ユーノは浴槽に寄って、こちらを向いた。
「わたしこの人たちの仲間にしてもらう。なんかこっちの方が有利そうだもんねー」
シズカは眉間にきつい縦皺を刻み、
「馬鹿っ!」
と怒鳴った。
「そいつらまともじゃないよ!?」
ユーノはアッカンベーとやった。
「わたし、凡人は嫌なの。個性的な方がかっこいいじゃーん?」
マミとキョウカがぬらぬらの裸身で立ち上がり、ユーノを抱き寄せた。
「じゃあユーノちゃん、もーらった」
「シズカさんはいらないから、アイリちゃんとウララちゃんに考え直すように伝えてね?」
ユーノは姉妹に服をめくり上げられ、浴槽の中へ引きずり込まれていった。ユーノに化け物の仲間にされる悲壮感はなく、得意そうに笑っていた。
「うう、シズカ…、よくも……」
腹を押さえてしゃがみ込んでいたカノンが恨めしそうに上げる顔を、シズカはまた思い切り足蹴にした。
「ユイ…」
シズカは端に立って面白そうな傍観者面をしているユイをギリッと睨み、瀬合を引っ張って出ていった。
浴槽からぴちゃぴちゃねちゃねちゃと粘っこい音が上がっている。
甲高い電子音が山に響き、セミは鳴き止み、シャモたちは怒りの声でクェークェー大騒ぎした。
ユイは浴槽を覗いて舌なめずりし、
「じゃあ、わたしもお食事にしようかしら?」
と、ニイーッと口の端を上げて笑った。




