八回目
(こうなる予感はしてたな……)
起き抜けの有利がもう目覚ましのアラームを止める気力を失くす程に、今回は八回目の有休だ。
結局、アラームは止めた。止めないとうるさいからだ。
有利は前回と同じく、朝からまた初回と同じ行動を取った。ただ区役所へ行き、戸籍謄本と印鑑証明を手に入れ、ただオーライへ行き、買うべき物だけを買った。
次に、前回とは違う事をした。思いついた事を行動に移したりはせずに、家に戻り、昼食を作って食べた。初回の再現だ。
(俺ごときが何やったって時間は進まないもんな。それなら、ののたちの邪魔にならないように、俺は初回をなぞればいい)
それは確信ではなく、諦めに近いものだ。
(今回もののに会えなかったな)
洗い物をしている有利の頭の中に、またののの事が浮かんだ。
「いや、会ってどうするんだよ。俺は関係ない部外者なんだからそれでいいんだよ。『緑の飲み物の人』はののが見つけるんだよ。それが仕事なんだよ。どんな仕事なんだよ。偉いな、ありがとう」
それを払うように、自分自身に分からせるように、有利は声に出した。
それからは初回と同じように扇風機の前にいたが、
(さあ、寝落ちしろ、俺!)
と気合いを入れ過ぎたためなのか、全く寝られなかった。そのせいで水をこまめに飲んでしまい、結果的に、今回は二回目の再現となった。初回とはここくらいしか差がないので仕方ない。体調を崩さなかったのはいい事ではあるし、加減を間違えて救急車を呼ばなくてはいけなくなったり、救急車を呼べなくなるほどに症状が進んでしまう事の方が良くない。包丁で胸を執拗に刺されたりしなくても、人間は不注意によって命を落とすものなのだ。
その夜、寝る前に有利はちょっと後悔していた。具体的には、
(LiNK交換すればよかった)
と前回と同じ事を考えながら後悔していた。
(俺には関係ないとは言え、解決したのかどうかくらいは知りたい。もちろん、明日が来たら「そっかぁ、解決したのかぁ」って分かるんだけど、それでも事前に知っておきたい。知った上で明日の朝を迎えたい)
後悔しつつも、有利はベッドに腰かけてからスマホを手に取った。寝る前は電源を切らないと、たまに夜中に母親と妹から鬼電が来るからだ。これも初回と二回目の再現であるし、何なら毎日毎回こうしている。
なのに、考え事をしていたせいか、もう結構眠いからなのか、メッセージのやり取りや通話ができるコミュニケーションアプリ、LiNKを起動してしまった。これはこの巻き戻りにおいて初の行動だ。
「そんなに残念だったのかよ、俺」
そんな初行動に呆れてノリツッコミの有利はLiNKを終了させようとした。しかし、「LiNK NEWS」のアイコンに指が当たり、画面が切り替わった。そこには各種WEBニュースサイトから収集されたニュースの一覧が表示されている。
「え?」
その一覧の中に、有利はおかしなものを見つけた。まだタイトルしか読んでいないにも関わらず、タイトルだけでも「おかしい」と感じた。
そのタイトルの部分をタップすると、表示されたのはあの大通りで通り魔事件が発生したという内容のニュースだった。そのままそれを読んでみたが、まだアウトラインしか判然としないようだ。それは起こったばかりの事件についてなので仕方がないと言える。
記事からは「本日九月三日、午前十一時頃」に通り魔事件が発生した事と、「犯人は四十代くらいの男性」で「男女計五人が殺傷された」事しか分からない。犯人が身分証明書を所持していなかったり、黙秘し続けていたりすれば、まだ十二時間程度しか経過していない現段階では捜査が進んでおらず、「四十代くらいの男性」としか判明していなくてもおかしくない。被害者の方は身元が判明していたとしても、本人や家族が情報開示を拒否すれば報道されない。
それでも、有利は「四十代くらいの男性」があの髭もじゃ男であると確信した。それしかない。あの大通りに刃物を持ち込んでいた「おっさん」を実際に目の当たりにしたし、そいつはある時間軸では「男女計二人を殺した」。「五人」ではなかったが、知らないところで「計五人」になったかもしれないし、更に「大通りで男女計五人」になったかもしれないし、そうではなかったかもしれない。だが、とにかくそれができたであろう人物を知っている。もし、他に通り魔たり得る人物がこの近所をウロウロしていたのだとしたら、そちらの方が意外で、そちらの方に恐怖するだろう。
その後はWEBブラウザに切り替え、有利が必死になってニュースサイトを片っ端から読んでいるうちに、日付が変わった。




