最終話 未来へと続く思い……
シンちゃんが、両手(前足)を広げた。
その瞬間、俺たちを中心にして、半球状の巨大な結界が一気に広がる。
淡い光を放つその壁は、砂漠の空気さえ震わせながら、外界と俺たちを切り離した。
「全員で、とりあえずこの中に入るぞ!!!」
シンちゃんの叫びに、俺たちは慌てて結界の内側へ駆け込んだ。
ラスト・ルートは、少し離れた場所で俺たちを見ながら、静かに口元を緩めた。
「ラスト・ルート!すまんが、少し作戦会議じゃ!」
シンちゃんが怒鳴るように言う。
ラスト・ルートは、気を悪くした様子もなく、右手を高く掲げた。
その手には、あの黒く、青い縁取りを持つ剣が握られていた。
「別に、構いませんが……」
その声は相変わらず落ち着いていた。
「僕が、その結界を破壊するまでの間で、お願いします」
その言葉と同時に、剣先から黒い波動が放たれ、シンちゃんの結界に叩きつけられる。
ゴォォォンッ!!!
凄まじい衝撃音。
結界全体が鈍く震えた。
「くっ……!」
シンちゃんの顔が少しだけ歪む。
だが、まだ持ちこたえていた。
俺たちは、結界の中心に集まった。
「あんまり時間が無いから、手短に話すぞっ! よいかっ!」
シンちゃんの目が、俺たち一人ひとりを順番に見た。
「まず、リユウ!」
「は、はいっ!」
「お前は、とりあえずヤツの気を、削り取れるだけ、削れっ!」
「統切力って事ですよね?!」
「そうじゃ!とにかく、ヤツの底を削る!」
シンちゃんは、すぐに続けた。
「その後は、儂のフォローじゃ!」
「フォロー?」
「儂はこの体では、大した攻撃はできん……じゃが、結界の維持なら出来る!」
「ああっ!」
「リユウと儂で、結界を維持する! 疲れたら休みに来いっ!」
「了解!」
「後は……」
シンちゃんの視線が、エチカと深代さんへ向く。
「すまんが、エチカと深代で攻撃してくれ!」
エチカは腕を組んだまま、ふっとため息を吐いた。
「まぁ、結局そこなのね」
深代さんは無言でうなずく。
だが、その青白い顔には、すでに決意が固まっていた。
「十分から十五分もたせてくれたら、助っ人が来る!」
その言葉に、エチカの眉がぴくりと動いた。
「助っ人って?! 誰よそれ!」
「今のところ、ネック・ロストに対して、一番強力な攻撃ができるヤツらじゃ!」
外から再び衝撃音が響いた。
ゴバァァンッ!!!
結界が、さっきより大きく歪む。
「この分だと、長くは持たん!」
シンちゃんが歯を食いしばる。
「もしヤツらでも通用しなかったら……今後、ネック・ロストに対して有効な攻撃力は無い、という事じゃ!」
それはつまり――
この助っ人が、最後の切り札という事だ。
「ここは、ヤツらに賭けるしかないの~~っ!」
シンちゃんの言葉に、しばし沈黙が落ちた。
だが、その沈黙を切ったのはエチカだった。
「とりあえず、わかったわ!」
エチカは、あっさりと言った。
「その計画でやりましょう!」
深代さんも、短く答えた。
「異存ありません」
俺も、うなずいた。
「やるしかない、か……」
「そういう事じゃ!」
シンちゃんが叫ぶ。
「行けっ!」
次の瞬間、俺とエチカ、深代さんは結界の外へ飛び出した。
⸻
「お待たせっ!」
エチカが、わざと明るい声を上げる。
ラスト・ルートは、剣を肩に担いだまま俺たちを見た。
「話は、まとまりましたか?」
「ぼちぼち……と、いうところかしら?」
「それは何よりです」
「とりあえず……」
エチカは笑った。
「貴方には、消えてもらうわ」
ラスト・ルートは、少しだけ首を傾げた。
「それは……ちょっと、無理かもしれませんね」
「それ、私も思う」
と、エチカが即答する。
「でも、やるのよ」
……エチカ、それ俺の役目じゃないか。
「さあ~て、じゃ~削るか……」
俺は、一歩前へ出た。
両手を胸の前で合わせ、呼吸を整える。
指先に気を集め、印を結ぶ。
ラスト・ルートの視線が、まっすぐこちらへ向いた。
「まずは、そこからですか」
「統切力! はぁぁぁぁぁぁっ!」
俺の気が、一条の衝撃となってラスト・ルートへ走る。
見えない刃が、ヤツの気を内側から削り取っていく。
ラスト・ルートの表情が、ほんのわずかに曇った。
「……ふっ」
「思ったより、取られましたね~っ!」
その声はまだ余裕を残していた。
「でも……困るほどではありませんね!」
やっぱりか!
「では、お返しです!」
ラスト・ルートが片手を軽く振る。
すると、俺の周囲に黒い光が立ち上がり、一瞬で箱のような結界を形成した。
「うわっ!!!」
俺は咄嗟に跳び退こうとしたが、遅かった。
すでに四方は完全に塞がれている。
「どうせ、あなたはもう大した事は出来ないのでしょう?」
ラスト・ルートは、まるで道端の小石でも片づけるかのように言った。
「その中で、大人しくしていて下さい」
「リユウ!!!」
「遠間さんっ!!!」
エチカと深代さんの声が重なる。
俺は結界を両手で押した。
だが、びくともしない。
「くそっ!!!」
統切力で削ったはずなのに、まだこれだけの結界を張れるのか!
「すまん!!! みんな!!!」
「まぁ、いいわっ!」
エチカが振り返る。
「リユウは、そこで大人しくしてなさい!」
「お、おいっ!」
「その代わり……」
エチカの目が鋭くなる。
「あとは、私がやる!」
深代さんも、一歩前に出た。
「はい」
二人は目を合わせ、無言でうなずく。
そして、ラスト・ルートへ駆けた。
⸻
エチカの手には、なぜかイスルギが握られていた。
金剛力やスメラギではない。
(なんでイスルギなんだ……?)
一瞬そう思ったが、今は考える余裕がない。
深代さんの手には、いつもの青白いブレード――青月。
ガッキィィィンッ!
二つの刃が、ラスト・ルートの剣にぶつかった。
「はぁぁぁぁぁっ!」
だが、押し返される。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
エチカが弾かれ、砂の上を滑る。
「ぐわっ!」
深代さんも、踏みとどまれず後退する。
ラスト・ルートは、淡々としていた。
「予想通り……あまり大した事はありませんね」
くそっ!
ラスト・ルートは、倒れているエチカへ歩み寄る。
その背後から、深代さんが斬りかかった。
「まだですっ!」
青月の一撃。
ラスト・ルートはそれを、振り向きざまに剣で受け流す。
その間に、俺は結界の中から再び統切力を叩き込んだ。
「統切力! はぁぁぁぁぁぁっ!」
ラスト・ルートの肩が、少しだけ揺れた。
「……ふっ」
「思ったより取られましたね~っ!」
またか。
「でも……困るほどではありませんね!」
おっしゃる通りだよ、ちくしょう!
「では、お返しです!」
今度は空へ向かって剣を掲げる。
青黒い光が天へ走った。
次の瞬間――
上空から、針のような光の雨 が降り注いだ。
「なっ!」
「結界にっ!」
エチカと深代さんは、咄嗟にシンちゃんの結界へ飛び込む。
ガガガガガガガガガッ!!!
光針の雨が結界表面を削る。
「間一髪、だったわね……!」
エチカが珍しく冷や汗を流す。
「危なかったです……!」
深代さんも、息が荒い。
「シンにゃん!助っ人はまだなの!」
エチカが叫ぶ。
「もう、あんまり隠し球もないけど!」
「うむ……そろそろだとは思うがの~っ?!」
シンちゃんの返事も、どこか歯切れが悪い。
ハァァァァァッ!
エチカが、盛大なため息をついた。
そして、ちらりと深代さんを見る。
「深代さん」
「はい?」
「そろそろ、奥の手を出します。」
「奥の手?」
「もしかしたら、助っ人が必要なくなるかも!」
エチカが笑った。
「うまくいけばですけど!」
その言葉に、深代さんの目がわずかに見開く。
「何をなさるつもりです?」
「すみませんが、一~二分だけあいつを引きつけてくれませんか?」
「……わかりました!」
深代さんは、それ以上何も聞かなかった。
結界の外へ飛び出す。
ガッキィィィンッ!
青月が、ラスト・ルートの剣を受ける。
だが、明らかに押されている。
「そろそろ……飽きてきましたね~っ!」
ラスト・ルートが言った。
「あなたは、もう次の手をお持ちじゃ無いのですか?」
「ご想像に、お任せします!」
深代さんは、斬り結びながら答える。
だが、その足取りはすでに重い。
「では……そろそろ、終わりにしましょうか」
ラスト・ルートの目が、怪しく光った。
やがて、手にした剣が青黒く輝き始める。
次の瞬間、その剣圧が一気に増した。
「フンッ!」
キィィィィンッ!
ただの一撃で、深代さんの体が大きく吹き飛ぶ。
「うっ!」
深代さんはなんとか立ったが、もはや全身ぼろぼろだった。
肩で息をし、足元さえふらついている。
そこへ、エチカが飛び込んだ。
ガッキィィィンッ!
「深代さん!大丈夫ですかっ!」
「ご覧の通りです……」
「変わります!結界へっ!」
深代さんは、よろよろと結界へ戻っていく。
エチカは、ラスト・ルートを睨みつけた。
「あなた!ちょっと、やり過ぎだわっ!」
「すみませんが……そろそろ、飽きてきました……」
ラスト・ルートは、少しだけ肩をすくめる。
「わたしも……少々、飽きっぽいところがある様ですね……」
「じゃ~っ!」
エチカの目が鋭く光る。
「私が、面白くしてあげるわっ!」
その瞬間、エチカの全身から金色の気が立ち上った。
「金剛力!」
さらに、手には――聖剣スメラギ。
俺は思わず目を見開いた。
(それを、今出すのか?)
エチカのスメラギが、最大出力で金色に輝いた。
ガッキィィィンッ!
スメラギとラストルートの剣がぶつかり合う。
ラスト・ルートの目が、初めてほんの少しだけ細められた。
「……ほう」
そして、その時だった。
二人の頭上に、巨大な神槍 が出現した。
「ソルト・ロンギヌス!」
俺は、息を呑んだ。
そうか――!
エチカは最初から、イスルギで本体の消耗を抑え、余った力で別空間にあの槍を錬成していたのか!
「フンッ!」
エチカが気合いを込める。
スメラギでラスト・ルートの刀を弾き返し、二人の間に距離を作った。
その瞬間、神槍ロンギヌスが一直線に飛ぶ。
「っ!」
ラスト・ルートは素早く身をかわし、黒い結界を張った。
だが、ロンギヌスは速度を落とさない。
そのまま、結界へ突っ込む。
そして――触れた瞬間!
槍の内部から、金色の光が爆ぜた。
「なにっ!」
そうだ。
エチカは、ロンギヌスの内部に金剛力 を練り込んでいたんだ!
チュドォォォォォォォンッ!!
大爆音。
砂煙が、空一面に巻き上がる。
結界の中から見ていても、衝撃が伝わってきた。
やがて煙が晴れる。
そこには――
左腕を失ったラスト・ルートが、無表情のまま立っていた。
「うぐっ!」
エチカが、わずかに息を漏らす。
だが、ラスト・ルートはまだ終わらない。
右手の剣を頭上に掲げる。
すると、その剣が黒く光り、ゆっくりと形を変えていった。
長く、重く、禍々しい――
巨大な半月刀へ。
さらに、血溜まりの中に落ちていた左腕が、自ら飛び上がった。
元の場所へぴたりと収まる。
次の瞬間、ラスト・ルートの全身が黒く輝き、気配が一気に膨れ上がった。
「なっ……」
俺の背筋に、冷たいものが走った。
さっきまでとは、比べものにならない。
「なるほど……」
ラスト・ルートが静かに言う。
「なかなか、面白かったですよ」
「それ相応の、お返しをしないといけませんねっ!」
エチカの額を、一筋の汗が流れた。
あのエチカが――寒気を感じている。
ラスト・ルートが半月刀を振りかぶる。
エチカは、渾身の力でスメラギを構えた。
「くっ……!!!」
次の瞬間――
バキィィィンッ!!!
「えっ……」
エチカの最上位の剣、スメラギが真っ二つに砕け散った。
折れた刃が、砂の上に突き刺さる。
無言で目を見開くエチカ。
その胸元へ、ラスト・ルートは半月刀の切っ先を突き付けた。
「エチカ!!!」
俺は叫んだ。
そして、その瞬間。
俺を閉じ込めていた結界が、音もなく消えた。
ラスト・ルートは、俺の方へ顔を向ける。
「遠間君……」
「この状況を、どう処理しますか?」
俺は、一歩前へ出ようとした。
だが、足が止まる。
ラスト・ルートは続けた。
「わたしは……もう、そろそろ引き上げたいと思います……」
「先ほどの申し出のNo.3です」
「わたしと同行してもらえませんか?!」
「そうすれば、この刀は引きましょう」
その時、深代さんが再び飛び込んだ。
「まだですっ!!!」
だが――
「邪魔です」
ラスト・ルートが半月刀を一振りするだけで、深代さんの体は大きく弾き飛ばされた。
そのまま転がり、動かなくなる。
「深代さんっ!!!」
ラスト・ルートは何事もなかったかのように、再びエチカへ刀の切っ先を向けた。
「で、どうします……?」
エチカの頬を、一筋の涙が流れた。
「リユウ!」
その声は、震えていた。
「あなたは、私の“しもべ”だからね!」
「しもべは、ご主人様の近くでつかえるものよ!!!」
俺の胸が、ぎゅっと締めつけられた。
俺は、ゆっくりと口を開く。
「……ごめん、エチカ」
「そろそろ、“しもべ”は卒業させてくれ……?」
その瞬間、エチカの目が大きく揺れた。
ラスト・ルートは、静かに半月刀を宙へ放った。
刀は一回転した後、闇の中へ消えていく。
「では……参りましょうか」
ラスト・ルートが踵を返した。
俺は、エチカに手を差し伸べた。
エチカは、その手を強く握る。
そして立ち上がった。
だが、その手は離れない。
「必ず……」
俺は、エチカの目を見た。
「帰って来るから……約束だっ!!!」
そう言って、俺はにこっと笑った。
エチカは、じっと俺を見つめた。
それから――
握っていた手を、ゆっくりと離した。
俺は、その光景をしっかりと目に焼き付ける。
そして――振り切るように踵を返した。
その時だった。
「待てぇぇぇっ!!! リユウ!!!」
時を止めたのは、シンちゃんの声だった。
「遅れに遅れたが……どうやら、待ち人来たるのようじゃ!!!」
俺は振り向いた。
次の瞬間。
ドドドドォォォォォンッ!!!
雷鳴のような音とともに、空間に大きな裂け目が現れた!!!
その裂け目から、三つの人影が飛び出してくる。
皆、一様に大振りの刀を持ち、鎧のようなものを身につけている。
だが、そのデザインは三人とも違っていた。
二人は大柄。
一人は小柄。
小柄な人影の声が響く。
「お屋形様! すみません! 大変遅れてしまって……途中、クルマの調子が悪くなって」
「できたら、そろそろ新しいクルマを……」
「おぬしら!!! その話は後でいいか?!」
シンちゃんが、珍しく本気で切れた。
「先にやる事を、済ませてくれ!!!」
「もちろん、わかっております!」
小柄な影――どうやら女性らしい――が慌てて答える。
「でっ……相手は、どこなんですか?」
ラスト・ルートが、ゆっくり歩いてきた。
「話の流れとして……私の事でしょうか?」
大柄な男の一人が、刀を肩に担ぐ。
「遅れた分、きっちり仕事はしますよ!」
「お任せ下さい!」
「うむ!」
シンちゃんがうなずく。
「ラスト・ルート!!! 待たせたの!!! 本日のメイン・イベントだぞ!!!」
ラスト・ルートの目が細められた。
「そうですか……まぁ、いいでしょう」
「私も、少し物足りない気がしてました」
大柄な男が、にやりと笑う。
「少し、食い過ぎる事になるぞっ!」
「食は、太いほうかな?!」
「ご心配には及びません」
ラスト・ルートは、静かに答える。
「私は、食べ残しはしない主義です」
「あと、前もって言っとくが……」
男が言う。
「途中で逃げるのは勝手だが、その少年は置いていってもらうぞ」
「お屋形様のご要望だからな!」
俺はとうとう賞品になったのかいっ!
「なるほど……」
ラスト・ルートは、少しだけ口元を緩めた。
「遠間隆君は……勝者の賞品という訳ですねっ!」
「別に、構いませんよ……同じ事ですから……」
「よぉ~~しっ!!!」
大柄な男が前へ出る。
「話が決まった所で、さっさとやろうか!!!」
「まずは、俺がいくぞ~~っ!」
すると女性らしき影が、すぐ文句を言った。
「あなた、ズルいわよ!」
「何、勝手に話を仕切ってるのよ!バカのくせに!」
「いやっ! バカなのは今は関係ないだろっ!」
別の男も割って入る。
「いやいや、ここまで運転して来たのは私ですよ?!」
「ここは、私に花を持たせるべきでしょ!」
……三馬鹿だっ!
「いいから!さっさとやるのじゃ……」
シンちゃんが、どっと疲れたような声で言う。
「ジャンケンでもしろっ!」
「いや、お屋形様、鎧の時にジャンケンはしづらいのですよ」
「ここは、アミダくじでやります!」ニコッ
「私は、別に三人一緒でも構いませんが……」
ラスト・ルートが冷静に言った。
「いやっ!負けた時の言い訳にされてはかなわんからな!」
……どいつもこいつも、何なんだこの空気は!
結局。
「またせたな!」
大柄な男が前へ出た。
「予定通り、俺がやらせてもらう!」
「では……始めましょう……」
ラスト・ルートが、青黒い半月刀を構えた。
そして、まず強力な波動を放つ。
黒い衝撃波が一直線に走る。
だが、鎧の男は避けない。
そのまま真正面から受け止めた。
次の波動。
さらに強力なそれを、今度は右手で叩き落とす。
「なっ……」
俺は息を呑んだ。
今の一撃、俺たちなら下手をすれば即死だったぞ!?
「やはり……その鎧は普通じゃ、ありませんね」
ラスト・ルートの声に、男が笑う。
「ふっ……自慢じゃないが、俺はバカだっ!」
「その俺にも言える事がある……」
男は、大刀を肩に担ぎ直した。
「お前達ネック・ロストは、長い時を自分達の欲望の為についやした!」
「その間、一族を壊滅させられた我らは……ひたすら、お前達に勝つ方法を探し続けたのだ!」
「その努力の結果が、この武具という訳だっ!」
ラスト・ルートの表情が、少しだけ引き締まる。
「あなた達は……何者ですか?」
「我々は――ネクト!」
「お前達を滅ぼす存在だっ!」
「またの姿は、今は亡き……安倍一族の末裔だっ!」
その後ろで、女性が悔しそうに叫ぶ。
「も~うっ!自分だけいい所総取り!バカのくせにっ!」
「なるほど……」
ラスト・ルートが、静かにうなずく。
「あなた方が、そうですか……」
「不確定な情報はいろいろ聞いていました」
「ですが、認識を改めないといけませんね」
「その通りだ!改めろ!」
「では……本気でいきます!」
ラスト・ルートは、再びあの光針の集中豪雨を放った。
広範囲に降り注ぐ、青黒い光の雨。
だが。
鎧の男は、両腕で顔を庇っただけだった。
すべてを受け切る。
雨が止む。
男は、平然とラスト・ルートへ向き直った。
「このような攻撃は……効かんぞ!」
「では……今度は、あなたの方から仕掛けて来て下さい……」
「ふっ……では……」
男が一歩踏み出しかけた、その時だった。
「……んっ?」
体が止まった。
「あれっ?!」
女性の声。
「あっ! なんか、私も……えっ! なんで!」
もう一人も、笑いながら言う。
「あっ! ははははっ!私もですよっ!なんで~っ!」
…………。
「おぬしら!!! 何を、やってる!!!」
シンちゃん、激怒。
ラスト・ルートが、静かに告げる。
「影を縫って……体を拘束させて頂きました」
「影から針を抜かない限り……体は動きません」
「外野の方は、おかしな事はしないように……死ぬ事になりますから」
フェェェェェンッ!
「あなた方三人、ここで首をはねてもいいんですが……」
鎧三人組の顔色が沈む。
「安心して下さい」
ラスト・ルートは、淡々と続ける。
「私は、そんな無粋な真似はしません」
「今日は……いささか疲れました」
「先程、血を流し過ぎたので」
「まだ、遠間君の体が手に入らない以上、この体は大切ですから……今日のところは引き上げましょう」
「あなた方三人との決着も……今日のところは引き分けとします……」
そして、俺の方を向く。
「遠間君……あなたのおかげで、今日はなかなか有意義な経験をしました」
「あなたの身柄は、しばらく……安倍の方達に預けましょう……」
俺、ただ賞品になってただけなんですけど……
まぁ、ありがとうございます
「一年間の猶予をあげます」
ラスト・ルートの声が、静かに響く。
「今後の一年間で……結論を出して下さい……」
「それより早く出してくれるのは構いません」
「結論が出ない場合は、こちらの一存でやらせてもらいます」
「あなたが……賢い選択をしてくれるのを、望みます」
そこまで言うと、ラスト・ルートはその場から静かに姿を消した。
しばらく、誰も動かなかった。
それから――
俺とエチカは、大きくため息をついた。
そして、なぜか。
「ぷっ……あははははははははっ!!!」
お互い、緊張の糸が切れて、笑い合った
⸻
その後、鎧三人組は「今から打ち上げをする!」と言って帰って行った。
シンちゃんと深代さんも、無事を喜びながらササオカへ戻っていった。
残ったのは、俺とエチカだけだった。
なんだか、長かった一日を振り返る。
感慨にふけるしかなかった。
俺は、これからどうなるのだろうか。
あんまり明るい未来は、ない気がする。
しかし――
解決しなければならない問題がある以上、後戻りは出来ない
ひたすら、前に進むだけだ
周りを見ると、もうかなり明るくなっている。
もうすぐ、日の出だろう。
なんか……この前、こんな場面があったな
あの日も、こんな晴天だった。
そして、あの日も……エチカと二人。
俺たちは、あの日と同じように、しっかりと手をつないだ。
眩しそうに、朝日を見つめる。
エチカの握った手は――
あの日と同じように、とても温かかった……
⸻
――――S・T・FIN――――




