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夜な夜な魔法少女に襲われてます  作者: 重土 浄
第十五話(最終話)「キミでも進める道」
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第十五話の2



 半死の俺の前で魔物は吐息を飲み込もうとしていた。俺は体を引きずろうとしたが、すでに体は言うことを聞かない。痛みと恐怖で混濁した脳は何も元に戻せない。魔物から追い出された俺に、もう何の力もないのか?


 その時、裂けたおれの腹部から光が生まれた。明滅する光がやがて、あのアビスの赤い光に変わる。


 「アビスの門?」


 馬鹿な、魔物が全て退治された後に現れるはずのアビスの門が、すでに俺の中に生まれ始めている。ダイナーで会った、あの顔のない男の声が響く。


 「魔物が残り一体、門が一つ、だが契約者が二名もいる。これがどのような結果になるか、ワレワレにも解らない」


 「わからないじゃねぇ!」


 俺は怒りの声を上げるが、赤い光はどんどん強くなり、俺の体内を全て照らし、穴という穴を赤く照らす。世界を破滅へとつなげる門が開こうとしている。


 俺は魔物の方を見る。吐息の生命の純潔はすでに絶体絶命だった。


 俺は体内の光を見る。覚悟はある。決まっている。彼女のために命を賭けよう。


 「それが俺の世界だからだ」


 俺は自らの腹部に手を突っ込み、すでに質量を持ち始めていた光を掴む。抵抗する光を握りしめ。命じる。俺の力にする。お前を奪い取る。アビスの門を俺のものとする。不可能だって可能にしてみせる。どうせ誰にも、答えなんてわからないんだから。


 握られ抵抗していた赤い光が、白い光の爆発となり、柱になった。




挿絵(By みてみん)


 俺は奴の前に立ち、構える。光はニンゲンの形になりコントロール可能である。俺の精神の形に沿っているのだ。だが、内部で爆発生成されるエネルギーは莫大で、安々と肉体の形を砕く奔流となる。俺はそれを押さえつけ、俺のコントロール下に抑え込み続けた。


 魔物の無機質な顔に、俺の顔を見る。世界を恨んで自死した男の亡霊だ。だが、それは変えることの出来ない俺の過去そのものでもある。殴ってくる、巨大な力で。俺の体の一部が砕けるがすぐに再生する。俺も殴り返す、拳からのエネルギーが奴の肩を砕き、そのまま地面を削ってえぐりかえす。


 奴の悲鳴と怨嗟が届く。そして、新たに生まれた俺自身に対する恨みが聞こえる。


 奴はついに俺を恨み始めた。


 女に囲まれ、目的があり、努力もでき、生きていることが辛くない、俺に対する恨みを感じた。


 俺の目から涙がこぼれて、それが光の流れの中に消えていった。


 「お前を苦しめているのは、お前だけだ!」


 俺の一撃で魔物の半身が消し飛んだ。


 その肉体の傷口に片腕を失った俺がいた。


 痛みに泣き叫び、俺を罵る俺が見えた。


 「俺はお前を殺す」


 俺は断言した。


 「俺は生まれきてから今日までの全ての夢を殺す。俺は昨日まで持っていた全ての望みを殺す。過去をすべて殺さなければ、俺は過去に殺される


 俺が作ってきた価値観も、俺が育て上げたあるべき自分も、全て破壊する


 俺が今を生きるために、俺は過去の俺を殺す!」


 半身だけ見える奴の顔が恐怖にゆがむ。「生きる事を諦めていない自分」こそが奴の最大の恐怖の対象だった。自らの命乞いの表情を俺は見させられる。だが容赦はない。


 過去の自分こそ、自らを殺す殺人者にほかならない。


 俺の最期の一撃は、魔物の頭部を頭上から貫き、地面に当たった瞬間に巨大な光の柱となった。消え去る魔物の中から、


 奴の恨み言と俺に対する呪詛が聞こえた。




 俺は神経を集中し、自分の体を思い浮かべる。もう一度人間の体で修復を始める。光の巨人の体を人間の皮膚で包み抑え込む。巨大すぎるエネルギーを人間サイズにまで縮小させる。


 成功した。人間の、元の姿に戻った俺は地面に倒れ込む。体内に荒れ狂う門のエネルギーを感じる。もう精神がクタクタだ。だが気を緩めれば門が開き俺の体を引き裂くだろう。


 俺の視線の端にあの男の足が見えた。


 ダイナーにいた顔のない美少年の足だ。


 「キミはアビスの門と一体化している。今は抑え込んでいるが、キミの精神が門のエネルギーに負けて消え去るまで……ざっと十二時間といったところだね」


 そう告げた。俺が目線を上げると、そこには誰もいなかった。


 ようやく立ち上がったが、それだけで体の中に充満しているエネルギーが溢れだしそうになった。エネルギーが吹き出した箇所の皮膚を再生しながら俺は


 「これは長くないな」


と実感した。命がもうほんの僅かしかないと。


 戦いが終わって、三人とも大丈夫なようだ。立ち上がってこちらを見ているが、いつものように駆け込んでは来ない。おそらくトーテムたちが説明したのだろう、俺の状態を。見る者が見ればわかることだ。


 俺はよろよろと彼女たちの方に寄っていく。彼女達は止まったままだ。ようやく彼女たちと会話できる距離まで近づいた。彼女たちの表情が見えた。俺を心配しているが、それ以上に困惑している。俺はいつものように挨拶した。


 「ああ、俺はみんなの最後の敵、この世界の破壊者だ」


 残念ながら、それが事実だ。


 競馬場はその殆どが破壊され、今も燃え続けていた。


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