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79話 雷霆・麒麟

前回のあらすじ「お前は俺を怒らせた!」

―「聖カシミートゥ教会・会談の間」―


 僕は魔法陣の中に入り、いつの間にかブレスレット状態に戻っていた鵺を籠手にする。


「レイス……ここに魔石を置いて」


「はいなのです」


 レイスが籠手を装着した状態の手の平に乗せる。僕はそのまま指を組み、そしてそのまま祈りを捧げるような姿勢を取る。


「レイス、いくよ」


「……はい」


 目を瞑り集中する……。そして、より集中力を上げるために思いついたままとゲーム内でのセリフを合わせた物を呪文として唱え始める。


「獣類の長にて、殺生を嫌い、あらゆる者に慈悲与える優しき聖獣よ…」


 両手で包んでいる魔石が暖かくなっていく。それを感じつつ、今から放つ呪文をもっと強くイメージしていく。


「この声が聞こえているなら我が呼びかけに応えよ……」


 目を瞑っているのに、うっすらと光が入ってくる……。それに魔石もどんどん暖かくなっていく。


「我、この地の平穏を望むものなり。我、この地に住む者たちの幸福を望む者なり……」


 僕はこの呪文にどんな行動を取らせるかを指定していく。呪文の詠唱、そしてイメージが強くなっていくほどに魔石が熱くなっていく。籠手を装備してなかったら熱くて持てないかもしれない。


「それを拒み、打ち壊し、破壊を望む者へ抵抗するために汝の力を貸し与えたまえ……」


 イメージの固定が終わった僕は目を開き……一気に最後まで呪文を唱え切る。


「汝にそなわりし(いかずち)の力を持って!悪しき者を祓え!雷霆・麒麟!!」


 その瞬間、魔石が僕の両手をはじき、そしてそのまま空へと昇っていった。


「上手く……いった…?」


 直後に眩暈に吐き気……あまりの辛さにその場に倒れる。


「薫!」


 レイスが急いでこっちに飛んでくるのが見えた……でも、体力を使い切った僕はそのまま……この後の顛末を見ることなく眠りに就くのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「聖カシミートゥ教会・上空」泉視点―


 教会から飛んでいった光が黒い雲を発生させる。それは轟音と稲光を起こす。


「なんだ……あれは」


 カーターさんがそう言うが、私も答えられない。何故なら私も分からないのだから。そして、その暗雲から光る何かが降りてくる。


「何?あれは?」


 龍の頭、馬に似た体とそれらを覆う黒い鱗。そして金色の毛並みとふさふさの尾をした四足歩行の生物。それは全身に電気を帯びていた。


「嘘……麒麟?」


「麒麟?」


「伝説の生き物……神獣、麒麟。まさか薫兄、召喚魔法なんて作ってたの!?」


「え?それってゲームの話ッスよね?」


「でも、あれ。それにしか見えないんだよね……って待って!あれが私の知るあの麒麟なら……」


 そしてそれは空を飛んだまま、その場で両足を持ち上げ、鳴き声の替わりなのだろう雷の轟音が響き渡る。この仕草……間違いない!あの麒麟だ!


「三人とも!すぐ避難!ここにいると巻き添えくらっちゃう!」


 私の慌てぶりを見て分かってくれたのだろう。私達は急いでその場から離れる。麒麟という存在にあっけに取られている悪魔を置いて。


「……バカナ。ナンナンダアレハ……アレハ一体ナンナンダ!!」


 悪魔が攻撃を仕掛けようと、両手に極大のファイヤーボールを発生させる。しかし麒麟がその場で首を振るうと暗雲から何十発にも及ぶ雷が悪魔に降り注ぎそのファイヤーボールも瞬時に打ち消す。それは、まさに雷の雨。もはや一組の魔法使いが起こしてるとは思えない攻撃だった。


「ガ、ガハ…!ガ……!!」


 もはや災害といっても過言ではない攻撃を喰らい続ける悪魔。その攻撃は今までの攻撃とは比較にならないほどに強い。そして麒麟はその雷の雨を潜り抜けながら素早く敵に近づいていき、別の攻撃パターンを見せる。


「な、な……」


「あれは槍?」


 サキは言葉を失い。カーターさんは見たままの感想を言う。そう。あれは槍。雷槍という専用スキル。敵の防御無視の貫通攻撃を持つ雷なのに無属性というヘンテコなスキル。ただ威力は高く、しかも一度の攻撃で数回ヒットする鬼畜使用。そしてそれが見事に再現されているようで、それらを連続で発射。悪魔も避けようと行動を取るが……光の速度の攻撃を避けられるはずが無い。そのままあっちこっちを貫いていく。


「コ……コノーー!!!!」


 悪魔は急いで麒麟を倒そうと猛スピードで近づき殴りかかる。しかし、麒麟に攻撃が当たる瞬間に麒麟がその場から消える。そして、いつの間にか悪魔の背後。かなり離れた場所にいて、また首を振り雷の雨を降らす。まさか神速も再現するとは……。


「な、な、なんなのよ!あれは!!泉!分かるなら説明しなさい!!」


 遂にサキが言いたかったセリフを言う。分かる。どういう仕組みかは知らないけどあれが何なのかは分かる。


「ああー……あれって薫兄が良くやっていたゲームで陰陽師「四神の乱」っていうゲームに出て来るキャラなんだけどさ……」


「えーと。つまり物語の中の登場する動物ってこと?」


「うん。大体合ってるかな?で、あれって隠しボス……その物語では最強の神獣なんだよね。それで倒したら仲間になってくれるの。さっきから物語に書いてあるのと類似した姿だし同じ行動をしてる。遠距離は轟雷っていう雷の雨を降らす攻撃、中距離だと雷槍、近距離は攻撃をせずに相手から距離を取りすぐさまカウンター攻撃に入る神速……」


「なるほど。それだから、すぐさま離れて!って言えたのね」


「……違うの。この後の必殺技がヤバイから逃げたの!」


「え?」


「どういう事ッスか?」


「召喚獣は一定時間経過したら消えるんだけど、その際に敵が生きていたら必殺技を喰らわせる仕様になってるの!!その名も雷霆万鈞(らいていばんきん)!!」


「え?今までの攻撃より強い?え?あれよりも?」


 雷の雨を指差してカーターさんが驚いている。でも、今までその通りの行動を取っている事から間違いない。そう。超広範囲の防御無視かつ超高威力スキル。仮にそれで倒せなくても雷による継続ダメージと状態異常の麻痺が入るというゲームバランス崩壊技……すると先ほどから悪魔に攻撃をしていた雷の雨が麒麟に降り注ぐ。


「え?自身に攻撃してる……?」


「あ、雷霆万鈞だ……カーターさん!防御魔法!フレイムシールドを早く!!」


 麒麟が雷を吸収し続けて、その身が黄金色に輝き、帯電している。来る……来ちゃう!あの攻撃が!


「分かった!サキ全力で防御だ!」


「ええ!」


 カーターさんがフレイムシールドを展開する。私たちもその盾の後ろに入る。その直後に麒麟が神速を使って相手の頭上へ瞬時に移動する。そして、その身が黄金色の球体になる。


「皆!来るよ!!」


 その声を合図にしたんじゃないかと思うくらいのタイミングで極太の雷が悪魔に落ちる。それはアニメの極太レーザー砲みたいに出力を維持したまま放電し続ける。


「……!!!!」


 悪魔が何か叫んでいるように聞こえるが、雷の音で何も聞こえない。十秒程度続いたそれが徐々に細くなって消えていく。消えた後には悪魔が全身真っ黒こげの姿になっていて、その身から煙を立たせたまま地面へと落ちていった。そして小さくなった黄金色の球体が再び麒麟の姿になる。その場に留まっている麒麟の姿はまるで地面に倒れた悪魔を確認しているようにも見えた。そして確認を終えたのだろう。そのまま暗雲へと走り去っていって暗雲と共に消えていった。


「うわ~……。薫兄……流石……」


「いや。どうするんだあれは……」


 皆して横たわる悪魔を見下ろしながら、さっきまでの事を思い返す。もはや神の化身を呼んだとも言われかねない……。


「恐ろしい技ね……。」


「姉御の言う通りッス……」


「……ゴメン。最後の必殺技……あれ地面を捲り上げるって演出があるから、完全では無いと思うんだけど……」


 え?と皆が私を見る。あれゲーム内の演出だともっと派手な演出がされていて、今回はその一部しか再現されていない。まあ、その演出が無くて助かったんだけど……。


「しなくていい!今ので十分だ!!とにかく薫にこれ以上のアレの強化は……」


「二人共!無事ですか!!」


 シーエさ達が教会からこちらへ猛スピードでやってくる。


「あ!シーエさん!なんとか……」


「よかった……それと、すいません。薫さんが倒れました」


「え!?」


 その後、シーエさんからボロボロの状態で先ほどの呪文を撃った事を知って、私達は一直線に薫兄たちがいる教会へと飛んでいくのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「イスペリアル国・聖カシミートゥ教会から少し離れた避難場所より」直哉視点―


「な、なんなんですか……さっきのあれは?」


 先ほどの一部始終を撮影していた榊から感想が漏れる。


「恐らく薫だな。まさか麒麟をぶっ放すとはな」


「社長?あれをご存じで?」


「遠くからだったが、なんとなくあいつが一時、大ハマりしたゲームのキャラそっくりだったからな……」


「ああ。陰陽師「四神の乱」ね。薫ちゃん良くやってたわ」


「おい!まてまて!!薫はどうやってあんな呪文を!?」


「そう私に言われても困るんだが……直接本人に聞いてくれ。他の代表もだぞ」


「あ、ああ。そうだな」


「いやいや。ローグ王!雷を撃ったりとか、なんか神々しい生物を出したりって……魔法の範疇を超えてるからな!?」


「しかし、あれは……」


「……となるとレイスも絡んでくるということですね。あの子ったら……魔法が使えるよになって戻ってきたと思ったら。神を呼び出せるようになるなんて」


「私……もはやついていけないのですが……」


「安心してください~。私もですから~」


「全くだ……とにかく悪魔は倒された。この後どうするのだ?」


「そうだな。とにかくコンジャク大司教も交えて……」


「サルディア王!」


 声のする方を見るとシーエという騎士が大急ぎで飛んでくる。


「飛んでる事にツッコミたいんだけど……俺」


「ここは抑えて下さい」


 獣人の長とエルフの女王がそんなやり取りをしてるのが聞こえたが……まあいい。


「どうしたんだ?何かあったのか?」


「薫さんが倒れました!」


 周りからどよめきの声が聞こえる。あいつ無茶したな……。


「……サルディア王!」


「な、なんだ直哉よ」


「こちらの知り合いの医者を呼びたい。シーエ殿達をお借りしたい。よろしいか?」


 サルディア王とシーエが顔を合わせてお互い確認する。


「いいだろう!頼む!」


「それじゃあ!急いでいくぜ!!」


「社長!私も行きます!」


「分かった!榊!こっちは任せたぞ!」


「了解です!」


 医者になんと説明して呼ぶか考えながら、元の世界へ一度戻るのだった。


―クエスト「聖都にはびこる悪魔を倒せ!」クリア!―

報酬:金貨×たっぷり、黒い魔石、悪魔の角や羽など

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