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206話 クエスト完了報告

前回のあらすじ「それは例えるなら東京に空飛ぶゴジラが来るようなもの」

―「とあるVR空間」ある幹部の視点―


「お疲れだったな……どうだった?猛毒の味は?」


「気になるなら自分で飲んでみろ……」


「それなら、お断りだよ……死にたくないからな」


 私がそう言うと、目の前の男が舌打ちする。彼はつい先日、猛毒を飲まされて死にかけたのだが、グージャンパマで使われている浄化の魔石といわれる物を細かく砕いて、粉上にした解毒剤を飲んだことで一命を取り留めたのだった。


「ほら。そこ。我々はくだらない話をするために集まったのではないぞ?」


「俺が襲われたのはくだらないってか!!」


「何だ?お前に毒を飲ませた奴らが誰か知りたくないのか?」


「……ああ。そういうことか。で、どこのヘルメスの奴らなんかね?」


 先ほどの態度を変えて、VIPの一人に白々しく訊いてくる。


「ご想像通りのヘルメスだよ。ちなみに手荒な奴らだったのでね……始末させてもらったよ。頭に徹甲弾を喰らわしてな」


「それなら、多少は俺の気も済むというものだな」


 満足そうな笑みを浮かべて、椅子に座る彼。このメンバーの中で一番若い彼にとってはいい経験になっただろう。


「しかし……グージャンパマの解毒薬は恐ろしいな……毒の種類関係なく解毒可能とは。毒でボロボロになった体もポーションで完治。どれだけの毒に対応できるか知りたいところだな」


「自分で試せよ?俺はもういいぜ。体内が焼けるような痛みで懲り懲りだ!」


「はははは!そうか焼けるような痛みか!それはお断りだな!!」


「ちっ!本当にお前も一遍飲んでみろ!」


 そう言って彼はこちらに目線を合わせなくなる。少々、からかい過ぎたか……。


「すまんすまん……お詫びに私の分のポーションを一つ譲ろう。情報に対しての見返りだ」


「それなら、ありがたくいただく……しっかし、ヘルメスの奴らの様子がおかしいしな……」


「そこには我々も同意だ……どうも焦ってる感がある」


 今回の件以外にも、我々がそれぞれ運営している子会社に被害が出ている。しかも、ここ最近はより酷い。


「しょうがないだろう。何せ妖狸達にボコボコにされて信用ガタ落ちらしいからな」


「そして、今回の毒殺も妖狸達のせいで失敗……ざまあみやがれ」


「それと先月のビシャータテア王国でのバケモノの大量ハントを詳細にまとめたおかげで、バケモノの対処が簡単になったわ。初期費用は掛かったけど」


「ああ……お陰様で、今までの被害と比較して半分以下の損害に抑えられてるしな。そういえば黒い液体のサンプルは手に入ったのか?」


「使われてしまって、ダメだったそうだ。そっちはどうだ?」


「こっちもだ。ただ、あの飛行型は回収できたぞ。その死体を調べた結果……」


 すると、テーブルの上に情報ファイルが置かれる。それぞれがその中身を見ていく。


「……このリストは」


「学会や医学会から追放された奴らだ……その後、消息を絶っている」


「なるほど。こいつらも関わっていると」


「ああ。何か情報があればすぐに提供してくれ。すみやかな排除が必要だ」


「もちろんだ」


「こちらも断る理由は無いな」


 ここにいる全員がその提案に対して容認する。我々に不利益をもたらす者など、どんな事情があろうが知った事では無い。


「それより、彼らはどうしたのかしら?今日で3日経ったでしょ?」


「まだだ。ショルディアから連絡は無い」


「あら?ちょうど良かったかしら?」


 すると、この仮想空間に一人のアバターが入室してくる。


「ああ……ちょうど彼らの話をするところだったよ。それで成果はどうだ?」


「ふふ!やっぱり彼らは面白いわよ?グリフォンの涙を無事に回収。そして……ドラゴンも倒したそうよ」


「……は?」


「どうしてそうなる!!」


 ショルディアの報告を受けて、全員の思考が停止する。彼らの今回の目的はグリフォンから取れる体液の回収だったはずだ。それなのに何故、ドラゴンを倒すことになったのだ?


「……待てよ!?となると、あのオリハルコンを作れるのか?」


「そうなるな……アクションは?」


「もう取ってるわよ。ソフィアが対処に当たってるわ。それと日本とアメリカにも情報が言ってるわね」


「それはしょうがないだろう……それより」


 今日の進行役を務めていた彼が、ここにいる全員を見渡す。


「彼らの追加報酬……分かってるな」


 全員が黙って頷く。半ば諦めていたオリハルコンの開発をこれで進めることができる……。


「それでは、近いうちに開くとしよう……では」


 この部屋から次々と消えていく中、私は残っていた。最後にこの部屋に残ったのは私とショルディアの二人。


「あら?どうかしたのかしら?」


「他にあるのではないか?報告することが……」


「まだ確実じゃないのだけど……世界地図を見つけたそうよ。グージャンパマのね」


「なんだと!?何で報告しなか……いや、我々には不要なのか」


「ええ。我々にはあっちの地図情報は無意味でしょ?それに検証中なの。確定したら報告するわ」


 彼女の言う通りで、我々には地図情報は不要だ。何せあちらに行く事が出来ず、仮にあちらに行けたとしても、自由に行き来する乗り物が無いのだから。


「ただ、その地図の書き方がこちらの書き方らしいわよ」


「誰が残したかは分かってるのか?」


「彼らの祖母であるアンジェよ。証言者もいるわ」


「そうか……まあ、我々がそれを知ったとしても、今はどうしようもないしな。ただ報告を忘れるなよ?」


「分かってるわ……それじゃ」


 ショルディアもこの場から消えていった。彼女はこのメンバーの中で自身の会社代表を降りて隠居した身だが、相変わらずの秘密主義者である。他にも何か掴んでいるのだろうが……。


「まあ、いいでしょう……」


 そうして、私もログアウトしてこの誰もいない空間から去るのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―帰って来たその日の夜「薫宅・居間」―


「それでグリーンドラゴンの親子は君たちが持つイスペリアル国の土地に滞在してもらってると」


「はい。それと……」


「これが異世界の文化なのですね……実に面白いです。この魔道具のお陰で何を話してるか分かるのもいいですね……」


「シルバードラゴンのハクさんを自宅に招待しました」


「彼女の声が聞こえてるよ……」


 電話越しから菱川総理の大きな溜息が聞こえる。あの後、代表達と相談してグリーンドラゴンの親子を僕たちがイスペリアル国に持つ土地。ギガントオーガシェルを貝殻を置く為の置き場に滞在してもらってる。そしてハクさんが持ってきたレッドドラゴンの死骸は冒険者ギルドの演習場に置かれて、夜通しで解体するということだった。本当はハクさんはここで帰る予定だったが、僕たちが異世界から来たのを知って、一日だけでもいいのでこちらに来てみたいということなので、自宅にご招待した。


「自分たちの件もあるので明日には帰るそうです。橘さんには連絡済みです」


「分かった。グリフォンの涙の回収ご苦労だった。それとドラゴン退治もな。まさかこんな早くにドラゴンの鱗が手に入るとは……これも、さっき言った君の祖母の策略なのかね?」


「分かりません。グリフォンの巣にあった世界地図があったことを考えると……」


「見させてもらったよ……色々、気になる点があるな。それで何か必要な物があるか?調査に必要な機材があれば知り合いを通して頼めるが?」


「今の所は大丈夫です。あちらも支援してくれますから」


「そうか……本当に何か必要なら言ってくれよ。それと話が変わるのだが……新たなヘルメスの情報が手に入った」


「どんな情報が?」


「送り込まれた奴が何者かが分かった。要人殺害を専門とするスパイダーと呼ばれる者らしい。対象を始末するためなら人質や脅迫もいとわない奴だ。君たちがいない間に強盗を起こしたのだが、その防犯カメラに映っていた。そして……目的は君達だろう」


「……」


 僕はそれを聞いて黙ってしまう。僕が狙われるならともかく無関係の人が襲われる……正直、被害に遭った人たちに対して申し訳ない気持ちになる。


「スパイダーに関してはこっちが対処する。そちらはグージャンパマでの活動を優先してくれ……ただし……」


「分かってますよ。襲ってきたら返り討ちにします」


「……すまない。本来は一般人の君達にさせる事では無いはずなんだが」


「気にしないで下さい」


「……では、何か他に分かったらこちらからも連絡する。君達も十分に気を付けてくれ。それじゃ」


「はい。少し早いですけどお休みなさい」


 僕はそう言って電話を切る。


「よし!少し寝てスッキリしたし!ハクさんお風呂行きましょう!二人も一緒に!」


「ういッス!」


「はいなのです!」


 仮眠を取ってスッキリした泉がハクさんを連れてお風呂にいこうとする。多分、あれはハクさんの背中の翼とお尻の尻尾がどうなっているのか確認したいんだろうな……。


「お風呂ですか……そうですね。それじゃあ……」


「待って!ここで服を解かないで!!」


 ハクさんが竜人に変身する際に服も生成していたので、それを注意して辞めさせようとする……が。


「え?」


 ハクさんの間の抜けた声を聞き終える前に、慌てて僕は目線をハクさんから逸らす。キレイな肌に出る所は出ていて均衡の取れたナイスプロポーションだったのは気のせいだろう。あ、尾はお尻の上付近についてました。


「こっちなのです」


「はい」


 レイスに連れられてハクさんが部屋を後にした。


「薫兄……いいスタイルだったね」


「男の僕にそれ訊かないでよ」


「ユノちゃんに言ったら、何て反応するかな~~?」


 にやにやと笑顔で訊いてくる泉。カーターとのやり取りをからかったのを根に持っているみたいだ。


「泉……それやったら、カーターにアレを教えるよ?」


「へ……?アレ……?」


 首を傾げる泉。本人は覚えていないようだが、僕は覚えている。


「子供の頃に素敵な彼氏が出来たらアレをしてもらいたい♪って、話してたじゃないか」


 笑顔で僕は答える。泉は最初は何か分からないでいたが、ふと、その何かを思い出したようで急に顔が青ざめる。


「……薫兄。いや……あれは…ね?そう!子供の頃の夢だから……!」


「ふーん……じゃあ言っていいの?」


「ダメ!!それは絶対に!!」


 泉が僕の胸倉を掴んで体を揺らす。


「それじゃあ……いいよね?」


「くぅ~~……覚えててよね~~」


 恨めしそうに僕を睨みつけながらお風呂場へと行く泉。僕はそれを見送ってから今日の夕食の準備をするために台所へと向かうのだった。


―クエスト「空の王者を求めて」クリア!―

報酬:グリフォンの羽、グリフォンの涙、レッドドラゴンの各種素材、グージャンパマの世界地図

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