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199話 甘いお菓子には甘い言葉で

前回のあらすじ「ちなみにす〇家です」

―「イスペリアル国・ニトリル山脈 グリフォン仮拠点」―


「ごちそうさまでした………」


「お腹が幸せ〜……明日、ドラゴン退治があるのに気が抜けるわ……」


 僕と泉以外の皆が温かい緑茶を飲みながら、ゆっくりしている。僕はそんな中で食器の片づけをしている。


「はい。これ食後のデザート」


 泉は食後のデザートを皆に出している。秋という事でスイートポテトを皆に出す。


「ありがとう泉!!さっそく……!」


 サキが一早くスイートポテトに手を付ける。


「美味しい……♪」


「うちらもッス!」


 フィーロとレイスも続けてスイートポテトを食べ始める。今さらだが、よく食べる精霊達である。普通だったら衣服の上でもお腹が膨らんでいるのが分かるはずな量なのに、それが全く無いとは不思議だ。


「ほら。カーターも」


「ああ。いただく」


 僕が促すと、カーターもスイートポテトを持ち、手の平サイズのスイートポテトを一口入れる。


「美味しいな……薫は色んな物を作れるんだな」


「まあ、それも作れるけど……作ったのは僕じゃないよ」


「え?」


 僕は驚くカーターに指で、スイートポテトを作ったパティシエを教える。


「泉が作ったのか?」


「はい……」


「カーターと一緒に調査するって聞いて、作ったんだよね」


 僕は顔をにやつかせながら、作った経緯を話す。


「ちょ!!言わないでよ!!」


「ほらほら~♪彼女が作った料理に対して彼氏は何と言うのかな~?」


 僕がそう言うと、二人は顔を赤くして黙ってしまう。よく女とからかわれる僕が、今回は逆の立場で二人をからかう。決して日頃の鬱憤を晴らしてるわけじゃない。決して……。


「泉……」


 カーターが泉に呼び掛けて何かを言おうとする。何と返事を返すのかな。


「君が俺の為に作ってくれる料理……俺にとっては一番の宝物だ……」


 優しそうで温かみのある笑顔でサラッと感想を述べるカーター。僕がそのまま隣を見ると、ポンッ!!と音を立てたんじゃないかと思うくらいに泉の顔がより真っ赤になる。というより、何故か聞いていた僕も頬が赤くなるほどのセリフだった。まさか、泉との不意のキスで気絶したり、泉が頬を赤くして見つめて来た時は視線を逸らして僕を見るとかしていたのに……。


「勉強して女性が喜ぶ言葉とか色々考えたんだが……変な事を言ったか?」


「いえ!?全然!!あ、私!片付けしないと!」


 泉が顔面を真っ赤化のまま食器を洗いだすが、その手はどこかぎこちない。


「勉強って……誰がそんな言葉を?」


「ああ。姫様が本を……」


カシャン!!


 音に驚いてそちらを見ると、泉が皿を落として割っていた。


「……泉が貸した少女漫画のセリフか。どうだった主人公になった気分は?」


「言わないで!!恥ずかしいから~!!」


 さらにさらに顔を赤くする泉。ユノは頻繁に泉の家にお泊りしている。当然、少女漫画を読んで、好きな男性にこんなことを言われてみたいとか、こうして欲しいとか話したこともあるだろう。つまり、カーターが勉強した女性が喜ぶセリフというのは、泉がピンポイントで喜ぶ……というより恥ずかしくなるセリフなのだろう。


「カーター……これからも勉強を頑張ってね」


「うん?ああ……でも、あれは……」


「大丈夫だよ。あれは恥ずかしいけど喜んでいるだけだから」


 僕は笑顔でカーターにさらに勉強に励むことを推奨する。泉はこちらに睨みつけてくるが、日頃のお返し……コホン。お世話になっているお礼である。


「後で覚えててよね~~!」


 ……やり過ぎたかもしれない。まあ、それはともかく。そろそろ僕たちの会話が終わるのを待って下さる目の前の方の話を聞くとしよう。


(和んでる所で申し訳ないんだが……明日の事を相談してもいいか?)


 ということで、グリフォンの長が来たので明日の……。


「涎が凄いですけど……食べます?」


(いや。辞めとこう……収拾がつかなくなる)


 グリフォンの長の後ろにいる他のグリフォンが鋭い目つきで、まるでこれから狩りでもするのかと思うくらいの迫力でこちらを見ている。


「匂いが漏れないように魔道具使ってたけど……そっちにもいっちゃった?」


(いや。ここからは匂いはしていない……先ほどの子供からだ)


「なるほど……」


 そこまでは気が回らなかった。子供に付いた香りに反応していたとは……。


「それでグリフォンの長よ。今回の作戦にどれだけの数が参加する?」


(10だ。まだ、戦える者もいるのだが……それ以外はここの守りもあるからな。他の魔獣なら問題無いが他のドラゴンがいたとなるとな……)


「すれ違いになるかもしれないものね。それはしょうがないわ」


 いつの間にか、スイートポテトに夢中になっていた精霊三人娘が近くに来て話し合いに参加している。


「いや。泉が辱めを受けてる最中から近くにいたッスよ?」


「(フィーローー!!)」


 僕の考えを読んだフィーロに対して、泉が既に寝ている子供のグリフォンのために小声で叫ぶ。そろそろ、精霊には人の思考を常に読めると考えた方がいいのだろうか……。


「それで作戦は?」


(一度に二体を相手に戦うのは得策じゃない。それで半分を陽動に回して、別々になった所を我らの本隊で叩く。というのが作戦だが)


「そうだな……。陽動組はかなり負担になるが火力は集中させた方がいいだろう」


「ええ。私もそう思うわ。魔法使い三組でドラゴン一体ずつ倒すのがいいはずよ」


(それでは、明日はその作戦で。時間は早朝でいいか?)


「ああ。問題無い」


「相手の寝起きを叩くのは常套手段ね……って薫もいいよね?」


「薫?皆の話を聞いてるのです?」


「え?あ、うん。聞いてるよ?」


「疑問形じゃないのよ!相手はドラゴン!!分かってるの!!」


「うん……分かってる」


「薫……どうかしたのか?」


「……ねえ。グリフォンさん」


(なんだ?)


「最初の襲撃以外に襲われたかな?例えばドラゴンが自分たちの近くを飛んできたとか……」


(いや?そんな話は聞いていない)


「もしかして……最初の襲撃でも大ケガを負ったグリフォンはいなかったりする?」


(え?……そうだな。多少のケガはしたが……支障をきたすほどではないな)


 そうか……先ほどからの不自然さはこれか。


「どうした薫?」


「ドラゴンが何故グリフォンを襲わないか気になっていたんだ」


「襲ってるじゃないのよ?」


「それは最初だけ。それにこちらの偵察に気付いていたあのドラゴンは威嚇もせずにただ見ていただけってのも気になるからさ……」


「クェーー!!クェクェクェーー!!」


 きっと、あの襲ってきたグリフォンだろう。そのグリフォンが何かを言っている。


「何て?」


(アイツがいつもあの場所にいることに関係無いだろう?アイツがいると巣に戻れない!俺達にとって死活問題だ!と)


「待って!いつもあの場所ってどういう意味?」


「クェ?クークェクエエ!」


(定期的に偵察してるけど、アイツ常に見張っていて……)


「定期的ってどれくらい?」


(クェ!)


(頻繁にいっている!って、貴様……我は作戦を決行するまではそれとなく監視しろと言ったはずだが?)


「……クェ」


 えーと……アハハ。とか言ってるのかな?ああ、グリフォンの長が風魔法を使って近くの木に叩きつけた……まあ、それは置いといて……。


「妙だね」


「何がだ?」


「あれほどの巨体が飛んでいる所を見ていないなんてさ。それにグリフォンが襲われていないのも不自然だよ」


(我々を襲わないのが不自然とは?)


「ご飯だよ。あれだけの巨体が満足するにはそれなりの量が必要だと思うんだ。けど、この周辺にはドラゴンを恐れて魔獣は逃げ出してしまった。ご飯を得るには空を飛んで遠くへいかないといけない……近くにいて満足するご飯となればグリフォンだよね?」


「しかし、グリフォンは襲われず、しかもドラゴンが狩りをしている所を誰も見ていない……ってことか」


「あれ?確か10日程って言ってたわよね?その間、ずっっっと!食べて無いって事?」


「うん。となると……」


 ご飯を食べずに、あの場所に引きこもるという行為。考えられることは……。


「クェエエエエエエーーーー!!!!!!!」


 すると、悲鳴に近いグリフォンの鳴き声が周囲に木霊する。


(マズい!!奴が来たぞ!!)


 グリフォンの長が言う奴。夜の闇で何も見えないが、上空に来ているのだろう。他のグリフォンが次々と上空へ威嚇の為の威嚇音を出す。


バキバキ!!!!


 近くの木々が押しつぶされるような音。グリフォンの威嚇音など全く気にしないと言わんばかりの行動。


「グギャアアアアアアーーーー!!!!」


 そして何かの咆哮。その咆哮を聞いただけで自然と鳥肌が立つ。それは木々を倒しつつ、その一歩を確実にこちらへと踏み出している。


(戦える者は前に!!子供は下げろ!!)


「カーター!!」


「分かってる!!」


「来るの?」


「ここまで来て帰るなんて選択しがあるッスか?」


「……ないのです」


「僕もその意見に賛成だよ……」


 急いで戦闘態勢を整えた僕たち。そして……それは僕たちに一番近い木々をへし折る。そして僕たちがキャンプ用に点けていた灯りに照らされ、暗闇からその姿の一部が見えるようになった。


「グギャアアアアアアーーーー!!!!」


 より、大きく強い咆哮をこちらへと向ける最強の聖獣であるドラゴン。それが僕たちの前に現れるのだった。

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