188話 明日の予定は?
前回のあらすじ「薫の職業:小説家、ウエイター、魔法使い、農家(初級)、料理の講師(中級)、冒険者……のはず」
―「薫宅 居間」―
「凄かったです……」
「盗賊のお宝部屋ってあんな感じなんですね……」
二人があの部屋を見たショックで呆然としてしまっている。
「二人も頑張れば出来るよ……きっと」
「そうですね……あっちの料理事情は大分遅れてますから、上手くやればすぐにでも……」
「いやしないですから。ねえ雪野ちゃん」
「だね!宝の持ち腐れだもんね」
「それ僕だよね……」
2階に大量の金貨を余らせてますが……何か?
「ふふ♪あっちの生活は安泰ですね♪」
そう言ってユノが僕の腕に抱き付いてくる。僕はそのお返しに黙って頭を撫でる。ユノが僕の行動に少し驚いていたが目を細めてネコみたいに甘えてくる。
「ほほえましいですな~……そういえば泉さんとカーターさんの……」
「ねえねえ!それよりさ。これだけ大人数なんだしこれやらない?」
泉がそう言って、パーティーゲームが可能なソフトを取り出す。
「え?次は泉さんの恋バナを……」
「さあ!やろう!すぐにでもやろう!いますぐやろう!!」
泉が押し切ってソフトを素早く起動させる。強引にでも話を逸らしたいようだ。
「しょうがないッスね。レイスやるッスよ!」
「負けないのです!」
「ダメか……」
「諦めて混ざろうよ?」
「だね。じゃあ私が最初にやるよ!このゲーム得意なんだから!」
雪野ちゃんが袖を捲りつつ意気込む。
「ユノは参加しないの?」
「アレは初めてなので最初は見学です」
「そうか……」
♪~♪~~
キャラクター選択が終わって、いよいよスタート!っていうタイミングで僕のスマホが部屋に突如鳴り響く。皆がそれに反応して静かになったところで僕はスマホを取る。番号は……知らない番号。
「もしもし……」
「ミスター薫かしら?」
「ショルディア夫人ですか……こんな夜更けに何か?」
「お休みのところ申し訳ないわね。実は明日、お茶会を開くのでそのご招待を」
「急ですね……それで本音は?」
「ふふ!実はこちらの代表だけが集まって話したいことがあるの。それで魔法使いであるあなた達にぜひ出ていただきたいの。いかがかしら?」
「それはここにいる泉たちも誘って、ってことですね?」
「ええそうよ。あ、それと安心して頂戴?見張ってるわけでは無いから」
「泉たちがいるのが分かってる時点で似たような物ですよ……で、時間と場所は?」
「明日の午後3時よ。場所はアザワールドリィの隣にある私の家よ」
「え?午後3時ですか?」
「あら。詳しいのね?」
「アフタヌーンティーの始まる時間はそこから1時間後の午後4時ですよね」
「そうよ。ただその前にお仕事があるからね。それを済ましてからとなるとちょうどいいのよ」
「なるほど。分かりました……少し待ってて下さい」
僕はスマホの送話口を押さえて、泉たちに明日の予定を訊くため顔を向ける。
「泉。明日、3時からショルディア夫人とお茶会するんだけど、二人にも参加して欲しいって」
「え?いいけど。私、マナーとか知らないよ?」
「うちもッス」
「となると、私も参加なのです?」
「うん。何か話したいこともあるようだしね」
「私もよろしいですか?」
ユノがお茶会への参加を希望する。どうなんだろう?
「チョット待って……ショルディア夫人いいですか?」
「何かしら?」
「ユノも参加したいと……」
「うーん……いいのだけれど……」
「何か?」
「……あなたが良ければよ」
その言葉に、僕は少しだけ表情をゆがめる。
「それはどういう意味ですか?」
「今回の会議はあなたの隠し事よ。その情報をあちらに漏らしたくはないんじゃないかしら?」
「……どこまでご存じで?」
「全然よ?あなたたちがサンプルを送ってそれを調べてもらってる事しか知らないわ」
「はあーー……いいですよ。ただユノには他言無用を強要しますけど」
「あなたがそれでいいなら」
「分かりました」
再び、送話口を押えて泉たちの方を向く。
「薫?今の言葉の意味って?」
「何したんッスか?」
「明日、その場で話すよ。けど二人共……これだけは約束して欲しいんだけど」
「なんッスか?」
「明日、話したことはグージャンパマの皆には内緒。いいかな?それが出来ないなら……」
「何かやましい事を?」
ユノに訊かれて、僕は少しだけ困る。
「やましい……か。そうかもね」
「なら行きます♪ヒミツにするかは……話を聞いてからです」
「というより……私はいいの?レイスは?」
「私は既に知ってるのです。それと泉たちには話した方がいい内容だと思うのです」
「何か気になるけど、ここでは話せないんだよね?」
「うん」
僕は真剣な表情で返事をする。少なくともここにいるあみちゃんたちには聞かせない方がまだいいと思ったからだ。
「……分かった。いくよ」
「それじゃあ、5人参加って伝えるね」
「本当にいいのですか薫?」
「構わないよ。どうせ……長くは隠せないと思ってたから」
その後、ショルディア夫人に僕たちの参加の意思を伝えて電話を切る。
「終わったね!よしやろう!!」
「切り替え早いですよ!?」
「いいんだって!ほら!ゲームスタート!」
泉の掛け声と共にゲームが始まり、キャラクターたちの白熱した戦いが始まる。
「あの……薫」
ユノがさきほどとは打って変わってオドオドした話し方で僕に話しかけてくる。
「気にして無いから安心してよ。今も言ったようにいつかはバレると思ってたからさ」
「何を調べてたんですか?」
「ある疑問を……ね。それよりも今はゲームを楽しもうよ」
「……分かりました。この話題は明日のお楽しみにしますわ」
そうして、僕たちもゲームに混ざるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌朝「薫宅・居間」―
「……うん?」
目に入った光で目が覚める。少しだけ肌寒さを感じつつ体を起こして周囲を見渡す。あの後、遅くまでゲームをした僕たち眠気に耐えられなかった人から寝ていき……。
「自室で寝ないで、ここで寝ちゃったよ……」
僕も早い段階で眠気に耐えられず、いつの間にか事前に引いていた布団で寝てしまっていた。隣を見るといつものようにユノがいる。さらにその反対側を見ると、泉たちも寝ていて、2つの布団に5人で寝ている状況になっていた。レイスたちはテーブルの上で仲良く眠っている。……これを他の誰かに見られたら変な誤解を生むだろう。僕はそうならないためにもすぐに布団から出て、朝食の準備をする。
「大丈夫ッスよ~…見た目気にならないッス……zzz」
フィーロが変な寝言を言っているが気にしないでおこう……それより朝ご飯の献立はどうするか……。
「人数が多いし……おにぎりでいいかな」
僕はお米を釜に準備して、炊飯器にセット。その間にお味噌汁の準備をする。
「おはようございます……」
油揚げの油抜きをしていると、台所にユノが入ってくる。
「おはよう。朝食はまだだからテレビでも見てて」
「お手伝いは?」
「まだご飯が炊けてなくて、みそ汁もそこまでかからないから大丈夫」
「分かりました。必要なら言って下さいね?」
「分かった」
ユノが台所から出た所で、おにぎりに入れるために焼いていた、鮭とたらこを食べやすい大きさにほぐしたり、切ったりする。
それが終わった所で、あらかじめ水に和風顆粒だしを入れて煮だしていた鍋に油揚げを投入、しばらくして煮立ったら今度はワカメを入れる。最後に火を止めて味噌を溶いて、再度、煮立たせないように弱火で温めておく。
ピィー-!ピィーー!
ちょうどご飯も炊けたようだ。
「ユノー!お手伝いいい?」
居間にいるユノを呼ぶとすぐに台所へとやって来てくれた。
「おにぎりって大丈夫?」
「大丈夫ですよ。あっちにもありますから」
こっちのお米文化が根付いたグージャンパマ。その際におにぎりも伝わっていたりする。
「どっちも赤いですね……こっちはお魚みたいですけど、こっちの粒々したのはなんですか?」
「そっちはタラコ。スケトウダラっていう魚の卵なんだ」
へえー……。と言って手際よくおにぎりを握り始めるユノ。僕も一緒になって皆の分を握る。握り終わった物は大皿にまとめて置く。
「じゃあ先にそれ持ってて。寝ていたら皆を起こして欲しいんだけど」
「分かりました」
おにぎりを乗せた大皿を持ったユノが出ていったところで、温めていたみそ汁をよそって、お盆の上に置いていく。
「よいしょ……っと」
よそり終わったので、僕もお盆を持って居間へと向かう。居間に行くと既に皆が起きていた。
「おはようございます……」
「おはよう……ふぁあああ~~」
「おはよう」
皆と挨拶を済ませた所で朝食を取り始める。
「二人はひだまりに行くんだっけ?」
「はい。今日はシフトを入れてるので」
「薫さん達のことを伝えておきますね!」
「お願い。早く終われば夜の手伝いはするよ」
「大丈夫ですよ!任せて下さい!」
「頼りにしてるのです」
「それで薫さんたちは?この後、予定があるみたいな話を……?」
「ちょっと小説をまとめておきたいっていうのと、これから話をする事が本当に正しいのか……検証は出来ないけど見直す必要はあるからさ。ユノと泉たちはどうする?」
「私は一度戻ってお父様達に報告してきます。それと安心して下さい。まだ伝えませんから」
「私達は依頼されている衣服を仕上げるよ。例の衣服も完成するし」
「例の衣服って?」
「和服ゴスロリ」
「……忘れて欲しかった」
「忘れる訳ないじゃん!あ、それと今日のお茶会の後に薫兄は着てね?梢さんが写真を撮るっていってたから」
何それ?いつの間にそんな話をしてたの!?
「終わったら強制的に連行決定なのです」
「お手伝いしますわ」
「そうッスね!」
「嫌だ!断るからね!?」
「拒否するならこのうさ耳フードを被った薫兄の写真を私のSNSに載せるよ!」
「明確な脅しだからね!?犯罪だからね!?」
「身内だから問題ナシ!」
「大問題だよ!!」
「うーーん。分かったよ。だったら薫が中学生の時に来たアレの写真を、ここの二人に……」
「うわーーーー!!!!分かった!止めて!?それだけは止めて!!」
「うさ耳フードパジャマより嫌がるアレって……どんな写真なんだろう?」
あみちゃん……気にしちゃダメ。アレは思い出したくない写真ベスト5に入る超危険なんだから!
「それじゃあよろしく……ね♪」
「うぐ……」
諦めた僕は、何かを口にしようとおにぎりを口に含む。何故かその味は酷くしょっぱく感じるのだった。