186話 貝の雷焼き……なお、食べられない模様
前回のあらすじ「ちなみにうさ耳フードパジャマは泉が制作」
―今より一月ほど前「アオライ王国・王都ダゴン 冒険者ギルド」―
「か、貝の大型魔獣ですか?」
「うん。そんな魔獣がいるって聞いたんだけど?」
「アレが現れたら大変な事になります!!」
クラックウルフの討伐から数日後。カーターとの農業の話をした際に、こちらで石灰を用意できないか話し合っていると貝の大型魔獣がこのアオライ王国にいると聞いてやってきて……ただいまアオライ王国のギルドマスターと話をしている。
「ギガントオーガシェルフィッシュ……通称、悪魔の島!アレが現れたとしたら王宮に救援をすぐに求めないといけない災害クラスです!今、王都がこんな状態なのにそんなのが現れたら大変です!!」
「島なのです?」
「それを知らないで来たんですか!!」
おそらくタコであろう魚人のギルドマスターが吸盤の付いた6本の腕で机をバンバンと叩きながら怒っている。
「え、ええ。実は食料生産向上のために貝殻が欲しくて……それで大量となるとそのギガントオーガが使えるかな……って」
「はあ~……なるほど。それでどんな魔獣か訊きに来たと」
「そうなのです」
「確かにいます。ただ、そんな魔獣がそんな簡単に……」
「し、失礼します!!」
すると、いきなりギルド職員が部屋に入って来る。その表情はかなり焦っているようだ。
「どうしたんだ?来客中だぞ?」
「は、はい。分かっています。ただ……悪魔の島がこちらへと向かってるそうなんです!!」
「へ……?」
一言だけ発して、ギルドマスターの表情が固まる。
「悪魔の島……それって」
「ギガントオーガシェルフィッシュ?」
「……嘘でしょ~~!!まだこの町は復興中なんですよ!?この前の戦闘で大砲の弾も無いのに~~!!」
ギルドマスターが頭を押さえて絶叫する。そのギルドマスターの姿を見たギルド職員がこの世の終わりのような表情になってしまう。
「くそ!!アレを倒す戦力……って」
ギルドギルドマスターが何かに気付いてこちらを見てくる。
「……何か?」
「薫さん。レイスさん。お願いが……」
「討伐なのですね」
「礼は弾みます!!どうか!!」
「よし!分かりました!……ってなるか!!いやいや!?僕たちだけで島を落とせと!?」
「頑張って何とかして下さい!」
「投げやり過ぎる!?」
「それなら大きな鉄球を用意するのです!彗星で風穴を開けてやるのです!」
「そうだね……今、周辺に人とか船がありますか?」
僕は入って来たギルド職員に尋ねる。人がいなければある程度、周辺を気にせずに大技を使うことが出来るんだけど……。
「はい!周辺の船はすでに悪魔の島の情報を聞いて港に戻ってます!」
それなら何とかなるかな?いや、ここで僕たちがやらないとここが大変な事になるのだ。もはや倒すしかない。
「分かりました。ただし鉄球を大至急お願いします」
「はい!すぐに用意します!」
そう言ってギルドマスターが職員を連れて準備をするために部屋を後にするのだった。
―クエスト「その殻を幻想ごとぶち壊せ!!」―
内容:再びアオライ王国の王都であるダゴンに危機が迫ってます!その殻を壊されるなどと思っていない貝の魔獣の幻想を殻ごと粉々にしましょう!
「都合が良すぎる……」
「それは……私も思うのです」
しかしだ。これで目的の貝殻が手に入るのだ。ここはありがたく、この状況を受け入れるとしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―1時間後「アオライ王国・ダゴン付近の海の上」―
巫女服に着替え終わり、ギガントオーガシェルフィッシュの近くにやってきた僕たち。
(デカいね~!!)
「うん……大型魔獣クラスだね」
飛翔を使って上空……ユニコーンのシエナに騎乗した状態で僕たちがその下を見ると、大きな貝が海面を港町ダゴン方面へと進んでいる。このままだと直撃は免れないだろう。ちなみについ先日、僕と契約してるユニコーンにシエルと名付けた。というのも指示する際にユニコーンと呼ぶのも前々から変な感じがしたのでシエルと相談のうえでこの名前になった。
「それじゃあ……ここは一撃必殺!」
僕はアイテムボックスから、貰って来た鉄球を取り出す。
「彗星!!」
上空から加速させた鉄の塊を貝に向けて撃ち込む。これで…………へ?
「……止まったのです」
(へこんだだけだね……)
大きな衝突音はした。しかし、その巨体を貫くことなく、貝殻の表面に窪みを作っただけで鉄球は止まってしまった。
「まさか……」
鵺を籠手にして、拳をぶっつけ合わせて殴る準備をする。
「獣王撃なのです?」
「試しに……ね。シエナ!」
(はいよ!)
シエナがギガントオーガシェルフィッシュに向けて移動してくれる。そのままシエルが上に着地。僕はシエルから飛び降りて獣王撃で、その貝殻をぶん殴った。
「うわ!?」
獣王撃の衝撃がこちらへと返ってきて、僕はその場で尻もちを付いてしまった。
「薫!?」
「大丈夫。ミスリルよりは柔らかい……けど、厚いねこの貝」
「重力を増加した鉄球を受け止めてしまうくらいなのです。並大抵の攻撃は効かないと思うのです」
(ねえねえ?スイハザンは?)
「試しにやってみようか……」
僕たちは水破斬を発動させて貝殻を切りかかる……が。表面が少しずつ削れていくだけだった。
「徐々に削れてるのです」
(でも……これだと間に合わなそうだよね?)
レイスとシエナの言う通りで、こんなちんたらやっていたら港に着いてしまう。
「どうするのです薫?」
ギガントオーガシェルフィッシュの上で考える僕。唯一、これの救いは攻撃パターンが突進のみ。僕たちみたいに上に乗られてしまうと何も出来ないことぐらいだ。
「麒麟にお願いしようか」
「りょーかいなのです!……それで魔法陣は?」
僕は二つのアイテムボックスから手帳と魔石が先端に付いたペンを取り出す。
「描く!」
僕は急いで、手帳を見ながら貝殻の上で魔法陣を描き始める。
「大丈夫なのです?」
「……多分」
魔法陣をキレイに描けるかといわれるとかなり心配ではあるがやるしかない。僕は慎重にそれでいて素早く魔法陣を描いていく。いくつか模様が複雑なのがあるのでそこになると丁寧に描くためにどうしてもゆっくりになってしまう。
「上手いのです!」
「ありがとう……」
僕は軽くお礼を言って、そちらへ目線を逸らさずにどんどん描いていく。この貝、静かに進んでいるため線が乱れることなく描けて助かる。
「よし!」
その場に立ち上がって、完成した魔法陣を確認する。まあまあかな?
「お見事なのです!」
「初めてだけど……上手く描けて良かったかな。やっぱりエンチャントリング……グリモアが欲しかったな……」
「今度のユノのお手伝い前には手に入るのです。描くのもこれが最後なのですよ」
「だね。さてと後は……」
僕は雷属性の白い魔石をアイテムボックスから取り出す。
「久しぶりなのです!」
「でも……今回はあの時より強化されたのが出て来るんだよね……」
前回のロロックを倒す際に使用した魔法陣は属性関係なしの強化魔法陣であり、つい最近できた雷属性専用の魔法陣と比べた場合、その強さは別格……のはず。
「カーンラモニタでの試し撃ちでは雷撃が強くなってたから……恐らく強化されているはずなのです」
「だよね……」
僕とレイスはそこで黙ってしまう。前回のアレだけで悪魔を屠るだけの攻撃なのだ。それの強化となると……。
(二人共?早くやらなくていいの?)
シエルの言葉に急かされた僕たちは麒麟を呼ぶために魔法陣の中に入る。
「いくよ……」
「はいなのです……」
僕たちは覚悟を決める。そうだ。どうせ周りには迷惑になる人はいないのだ。ここは思いっきりやろう。
「獣類の長にて、殺生を嫌い、あらゆる者に慈悲与える優しき聖獣よ!汝にそなわりし雷の力を持って悪しき者を祓え!雷霆・麒麟!!」
呪文を唱えると、レイスの持っていた魔石が強い光を放ちながら空へと昇っていく。そして突如、雷雲が発生しそこから麒麟が降りてくる。
「……何か大きい?」
あの時は倒れていたため直に見ることが出来ず、映像で見たのだが……。
「確かに、あの時より大きいのです……それより早くここから離れるのです!」
「そうだね。ここだと麒麟の攻撃の巻き添えになりそうだしね……」
僕たちはシエルに再び乗ってギガントオーガシェルフィッシュから離れる。すると、それを待っていたかのように麒麟の攻撃が始まった。
首を大きく振って轟雷を発動。雷雲から無数の雷を落としていく。攻撃を受けたギガントオーガシェルフィッシュが初めてその動きを止める。
「効いているのです!いけーーなのです!!」
麒麟はそのまま今度は雷槍で攻撃を仕掛けていく。
(うわ……凄い勢いで貝殻にダメージを与えてるよ……)
雷槍が当たると貝殻がどんどん削れていく。それでもその厚い貝殻に守られている本体にダメージを与えられていない。
「麒麟!一点集中!雷霆万鈞!!」
僕が大声で麒麟に指示を出すと、麒麟が自身に雷を受けて充電を開始、それが終わると黄金の玉となって必殺技を放つ準備が出来る。
「いけーー!!」
そして極太の雷がギガントオーガシェルフィッシュに落ちた。すると、当たってすぐに大きな爆発音が発生。ギガントオーガシェルフィッシュと海が接してる場所から大きな波が起きる。
「雷の音に負けないくらいの大きな爆発音がしたのですが……」
「……多分、貫いたんだろうね。それで雷が海水に触れて水蒸気爆発を……いや、化学反応による爆発……?どっちだろう?」
確か昔の映画で伝説の3匹の鳥がそれぞれの技を放ったことによって、氷が電気分解を起こして、そこに火が加わって爆発なんてあったような……。
「ということは倒せたのです?」
「流石に貫かれたら……ね」
そして雷霆万鈞が止む。麒麟は鳴き声代わりに雷鳴を轟かせた後、雷雲と共に消えてしまった。僕たちは再びギガントオーガシェルフィッシュへと近づいていく。
「見事に風穴を開けたのです……」
ギガントオーガシェルフィッシュの貝殻には大きな穴が空いていてそこから海が見えている。そして先ほどから動きを止めている以上、倒せたのだろう。
「流石、伝説の神獣……」
その後、冒険者ギルドに戻ってギルドマスターに連絡。ギガントオーガシェルフィッシュの後始末をお願いするのだった。




