156話 探求者と振り回される者達
前回のあらすじ「何でそうなるの!」
―「???」ある幹部の視点―
「ソフィアは上手くやってるのか?」
「はい。すでに日本の首相とアメリカの大統領へコンタクトをつけています」
「一番重要な人物は?」
「成島 薫と良好な関係を得られてるとのことです」
「そうか……」
会議が進んでいく。私もこの会議に参加しているが場所は自社の社長室。この場には私一人しかいない。他のメンバーもそうだ。この会議は組織の中でも選ばれた者だけが参加できる特別な会議……この特別なVRゴーグルをつけなければ参加できない。そしてこれが我々メンバーの中でもVIPの証ともいえる。
「また、あのラエティティアの情報も来ています」
「ラエティティアってあの宗教組織の?」
表向きは怪しい宗教団体。裏では優秀な技術力を持つ怪しい連中。その組織の情報だと?
「ラエティティアの正体はグージャンパマの一国であるレルンティシア国の住人だそうです。すでにグージャンパマでの国の復興に向けて行動をしているとのこと。そちらにもコンタクトを取ってるようです」
「マズいんじゃないかね?日本にアメリカ……それにラエティティア……我々も行動を取るべきじゃないかね?」
「夫人の言う通りですね。あまり遅いと我々の利益が少なくなる」
「魔石の利権では有利にしときたいな……」
「日本とアメリカ以外の国の動きは?」
「ヨーロッパは各員の働きのお陰ですでに協力態勢を得られた。ただ他の国はまだまだだな」
「大国は早めに抑えとかないとな。ダメそうなら政権自体を変えても構わない」
「だな。成島 薫とその関係者に危害を加える奴らにはご退場願わないとな」
中々、物騒な話が出てきたが、これはしょうがない話である。それだけにあちらの世界…グージャンパマの価値は高い。
「日本にアメリカがどれだけ行動を起こしているか把握したいな……ソフィアに確認してもらうか」
「すでに確認している。アメリカはカナダに……日本はアジア圏にある幾つかの国に働きかけているそうだ。ちなみにこれがリストだ」
「早くて助かる。なら俺は手の周っていない所を抑えとくか」
「慎重に行動しろよ?絶対に口に堅い奴のみにしろ。決して無能な権力者に情報を流すな。ヘルメスにもな」
「それは誰もが承知してますよ。特にヘルメスには泣かされてますのでね」
「これからはより慎重に行動を……」
「それはいいけど……出資はどうする?ってか、ここにいる奴らどれだけ出せる?」
その発言を受けて全員が黙って考える。当然出資する。しかし大企業の社長である私は当然そちらの運営も考えないといけないのだ。ここにいる大勢のメンバーの中で私と同じような境遇を持つ者も少なくない。まったく約半年でここまでやっかいな議題になるとは……。
事の始まりは日本で起きたある事件。完全武装した盗賊団ヘルメスの一部隊を一人の妖怪が取り押さえたという情報が入ってきたことから始まる。
最初は日本政府のくだらない隠蔽工作だと思っていた。完全武装とはいえ中身は素人だ。きちんとした軍の部隊がいけば何とかなるはず……きっとその取り押さえる際に何か軍事機密に触れることが起きたのだろうと思っていた。そんなのはどこの大国にもあるくらいだ。国家間では大きな問題に発展するだろうが我々にはあまり興味のない物だった。むしろ我々にとって害である盗賊団ヘルメスにダメージを与えてくれて感謝するくらいだった。
しかし、我々の考えが浅はかだったと後悔するのはこの後の事件だった。彼らはカメラが回っている中でどうどうと現れて、その力を行使した。手を触れずに車を倒し、自由に空を飛び、強烈な爆風で火を消す。それだけではなく精霊といわれる者を連れている。これらの情報から彼らを最重要課題としてすぐに我々組織の一員であるソフィアをリーダーに調査を始めるのだった。
彼女は我々が満足する情報を持ち帰って来てくれた。ただし、その情報が世界のバランスを完全に崩すと理解するのにたった1分で分かってしまうぐらいなのは勘弁して欲しかったのだが。ほぼ無限のエネルギー資源である魔石に材料として使える魔獣、ケガをたちまちに治してしまうポーション……そして魔法。特に我々の中ではポーションは大人気だった。ここにいる奴らはその地位の為に狙われる可能性が無きにしも非ずなのだ。その予防策の一つとして致命傷を治せるポーションは喉から手が出るほどの品だった。
「俺は500万ドルだ」
「私は100万ドルだな」
「こちらは400万ユーロよ」
「なら……」
メンバーの中から金額を提示して協力をする旨を伝える者が出て来た。すでに多くの者が出資を希望している。当然だろうここでの出し惜しみは他の者達に多大な利益を譲るようなものなのだから。
「我が社も450万ユーロだ」
とりあえず、他の者に追随しておく。一番高い金額を出すのも得策ではない。あちらへの扉がいつ行き来出来なくなるというリスクもあるのだから。
「た、大変だ!!」
我々の会議に遅れたメンバーが入ってくる。
「どうした?というより遅刻とは感心しないが?」
「ソフィアから追加報告だ!あの野郎またやりやがった!!」
「落ち着け……どうした?」
「成島 薫があちらの古代の研究施設を発見して、さらにその施設の管理者として選ばれた!」
「「「「は?」」」」
「さらにアダマンタイトの入手と製造方法もだ!!」
「「「「…………」」」」
「さらに巨大な二足歩行型ロボットも入手したそうだ!」
「「「「……………………」」」」
なんだそれは?いや、あのアダマンタイトを入手?伝説ならオリハルコンのように堅い金属とのことだが……それに魔法を使った巨大ロボット?いや。それよりも色々気になる事が多すぎる!
「すまない。さっきのは嘘だ。1000万ユーロの出資をする」
「私も!」
「俺もだ!!」
「私も出そう。それと確か笹木クリエイティブカンパニーの近くに広くて買い手の無い土地がありましたね……私の方でそこを抑えときましょう」
「それは不公平を生むだろう!ここは……!」
会議が白熱する。く、くっははは……!!どうやら我々が世界を動かしていると自負していたが……それは浅はかな考えだったようだ!!私は内心で大笑いをしつつ、平然とした顔のまま会議で発言をしていくのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―アリッシュ領から帰ったその日の夜「薫宅・居間」―
「……という事で薫君」
「何ですか総理?」
「アダマンタイトと製造方法を売ってくれ!研究用として!なっ!」
「早すぎです!!こちらに帰って来て笹木クリエイティブカンパニーに連絡して10分って早すぎですよ!!」
「君が悪いんだぞ!そんな発見を次から次へと!!大手の企業と研究所からすぐにでも買い取る意思がこっちに来たんだからな!」
「そこまで?」
「もしそれがあのアダマンタイトなら、それで戦車を作ってみろ。ありとあらゆる攻撃を無効にする戦車の完成だぞ?施設の壁や骨組みに使用できれば核シェルターにもなりかねないんだぞ?」
「ああ~~……なるほど」
「なるほど……じゃなーーい!!」
「ははは……どこぞのゲームの大佐みたいなマネをするんですね」
「リアルに文句を言ってるだけだ!」
「って言われても、僕自身も色々あってすぐには……」
「ああ。分かってる。今回はとりあえずこちらの意思を伝えといた。だから内調から一人そちらに行かせるからよろしくな」
「いや!?分かってないですよね!?」
「明日すぐ来ることはない。一週間以内にアメリカの諜報員やソフィアの所属する組織のメンバーと協議してからそちらに来ることになるだろうからな……たぶん」
「は、はあ……」
「とりあえず頼んだ。それとこちらからも君の施設の調査に人員を出す。人手が多い事には越したことが無いだろう?」
「はい」
「君の家に迷惑をかけるだろうが……」
「あ、それ解決しそうです」
「何?」
「その研究所で異世界の門が開発・研究されていて、研究内容のまとめられた本を見つけたので他にも設置できるかもしれません」
「……それ竜也の報告で聞いていないんだが?」
「言ってないですから!」
総理に言われて、今になって思い出した。あの施設の資料室に禁書保管庫があり所長の権限が無いと読めないようになっている。そしてそこに異世界の門も入っているとセラさんから教えてもらっていた。
「報・連・相は大事だからな!」
「だから!色々あり過ぎて困ってるって言ったじゃないですかーー!!」
「……はあ。とりあえず分かった。とりあえずまとまったら一度しっかり竜也の方に報告しといてくれ」
「分かりました」
「それではお休み。くれぐれも無茶をしないように」
「分かりました」
総理はそう言って電話を切った。
「やっぱり大変な事になりそうなのです」
「まあ、分かっていたけどね」
今回の発見はそれだけの価値がある。こうなってもしょうがないだろう。
♪~♪~~
また、電話が鳴る。今度は……何?この番号は?
「もしもし?」
「ああ!薫か!シャルスだ!実は君が手に入れたアダマンタイトを……!」
「あなたもですか大統領!!」
その後、ソフィアさんからも電話が掛かって来て同じようなツッコミを僕は入れるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―さらに数時間後「薫宅・居間」レイス視点―
「う、うーーん……!」
私が目を覚ますとそこは居間のテーブルの上……どうやら疲れて眠ってしまっていたようだ。私の体にタオルが掛けられている。薫にお世話になってばっかりだな……?
「そういえば薫はどこに?」
居間には誰もいない。
「……!!」
「…!……?」
上で誰かが話している。その声が気になって二階に昇る。
「薫の書斎から……?」
声からして直哉さんもいるみたいですね……私はその扉を開けようと両手でノブに手を取る。
「これアリッシュ領で取ったサンプルだよ」
「すまないな。それとお前の持ってきたサンプル全てが予想通りの結果を出しているぞ」
私は咄嗟に扉を開けるのを躊躇った。二人は何の話をしてるのだろう?
「しっかし、かなりややこしい話になってきたな」
「ララノア神とお婆ちゃん……きっとその二人はグージャンパマが何なのかを知ってたと思うんだよね」
「だが、その二人はすでに死亡。唯一の手掛かりは魔導研究所クロノスか」
「うん。となると地球かグージャンパマのどっちかが大きな……」
「悪い言い方だとそうなるな……しかし、そうなると管理者はマクベスという奴か?」
「コーラル帝国かユグラシル連邦の生き残りっていう可能性も……ちょっとしたSFチックな展開だね」
「だな。小説のネタには最高だろう?」
「まあね」
二人は何を話してるのだろう?二人は何を調べてるの?
「とりあえずこちらも調査を進める」
「僕も……レイス?そこにいるでしょ?」
私は思わず扉から離れる。扉越しなのに私の気配を!?
「お前って人間離れ……いや、魔物の血を引いてるんだから当然なのか」
「橘さんならこの位普通にやってたよ?」
「それはお前と同じニューハーフ……ぐふぁ!」
中からもの凄い音がする。きっと顔面パンチが決まったんだと思う。
「……ふう~!レイス?」
「は、はい!」
私は恐る恐る扉を開けて、そおっと中に入っていく。
「さっきの会話を聞いちゃった?」
「ご、ごめんなさい!その……」
「怪しい会話に聞こえた?」
「う……!」
「ゴメンね。黙ってて……他の調査とあまり関係のない事だったからさ」
「何を調べてたのですか?」
「実は……」
薫から調査している内容を聞かされる。
「そんな……」
「でも、そうなると納得いく理由でしょ?」
「……はい。薫の言う通り、考えたらありえないですもんね」
「私も薫に言われてまさかと思ったが全てがヒットしてるからな……」
「レイス。とりあえずこの事は僕たちの秘密にしてくれないかな?話すのは魔族との一件が片付いてからでもいいと思うんだ」
「分かりました。変な混乱をさせるべきじゃないですもんね」
「そう言う事だ。くれぐれも頼む……じゃあ、明日の朝ここに来るからな。そうしたら施設に直行するぞ?」
「うん。準備しとく」
直哉さんは明日の約束をして帰っていった。
「薫……」
「どうしたのレイス?」
私は窓から酷く澄みきった夜空を眺めつつ、思ったことを薫に訊く。
「私達はどうして生まれたのでしょう?」
「……ゴメン。それは僕にも分からないかな」
薫も私と同じように夜空を眺める。この謎が解き明かされた時にどんな真実が待ち受けているのか……私達は二人して考えるのだった。




