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116話 異世界のプール

前回のあらすじ「薫宅の敷地はかなり広い」

―「墓場」―


 遠くからセミの声が聞こえる。


「……」


 花とお供えの団子が灰色の墓石に彩を加えてくれる。


「……」


 そして、線香の香りが周囲に漂っている中、僕たちは黙って手を合わせる。


「……よし!それじゃあ、後は提灯に火をつけて家に帰るだけだね」


「この火を頼りに、故人の魂が帰るんですね」


「うん。そして3日後にまたここに来て送り返して上げるんだ」


「そうえば坊さんは?」


「今日、午後の早い段階で来るって」


「それじゃあ、急いで帰ろうか」


 そして、父さんはお供えの団子を回収する。


「持って帰るんッスか?」


「お供えなのですよね?」


「ああ。食べたからって何かしらのご利益を得るというのはないけど、このままにすると鳥とかが唾むからね」


 父さんは目線を近くの木々に止まっていたカラスへと向ける。


「食べてみてもいいの?」


「どうぞ。粘りがあるから喉につっかえないように気を付けてね」


 父さんが団子を前に出すと、精霊三人娘がすぐさま手にして食べ始める。


「味が……」


「寂しいわね……」


「なのです」


「まあ、上新粉を団子状にして茹でただけだからね」


「そうなんですね。あっちでは個人が死んだ日や何か特別な日に花をあげにいくだけなので、何か新鮮です」


「そうですね。姫様の言う通りで、特に墓に食べ物をお供えするというのは無いですかね」


「まあ、そこは文化の違いよね」


 そう言って、泉が水がまだ少し残った桶を持とうとする。


「俺が持とう」


 そこをカーターが替わりに桶を持つ。


「これをどこに持っていけばいい?」


「あ、それなら……」


 二人は話をしながら一緒に歩いていく。


「元通りなのです」


「これからどうなるかは当人次第ですね」


「楽しみだね~!!」


 女性陣が二人の姿を見て盛り上がっている。これからのカーターの苦労を考えて……。


「……ガンバ…カーター」


 僕はそう呟くのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数時間後「薫宅・居間」―


 お坊さんの訪問が済んで、お昼も出前で済ませた所でテレビを見ながら、ゆったりとした時間を過ごす。


(明日、お天気は生憎の雨模様となるようです……)


「あちゃ……雨か」


「どうかしたの?母さん」


「うん?いや。やることも一応、済んだからさ。明日はプールにでも遊びに行こうかなって。スライダーとか久しぶりに乗りたいし。新しい水着も買ったんだ!」


 ……65歳のお婆ちゃんとは思えない言葉である。


「俺達も店を休むし……どこか行くか?」


「そうね……」


 皆がお盆の予定を考えている。そういえば夏らしいイベントを送っていないな……。


「それでしたら……ビシャータテア王国のプールに行きますか?」


「へ?あるの?」


 娯楽が少ないグージャンパマ。まさかプールがあるとは……。


「はい。こちらのエアコンや扇風機に似た魔道具があるので暑い夏でも快適に過ごせるのですが、涼みにくるのと、出会いを求めてということでプールがあるのです」


 娯楽が少ない。つまり男女の出会いの場も少ないグージャンパマではそのような所がきっかけの場になるのか……。


「いく!!いいよね茂!!」


「いいんじゃないかな?私は賛成だよ」


「俺達も行くか……」


「そうね」


「泉たちはどうするかな?」


 僕はふすまを開けっぱなしにしたまま、隣の部屋でタオルケットを掛けて寝ている泉とフィーロを見る。お昼を食べた後、ついに力尽きたらしくそのまま二人して眠ってしまった。


「何言ってるの薫?今日はこっちにお泊りさせるよ?着替えもここに変わらず置いてあるんでしょ?」


「何を企んでるの!?」


「ふふふ……秘密!」


「あらあら。お母さん。泉ちゃん達をあまり困らせちゃダメですよ」


「ご愁傷様だな」


 昌姉とマスターはやんわりフォローを入れるだけ……無理に止める気は無いようだ。


「さあ!まだお盆は始まったばかりだよ!!」


 ……僕は仏壇を見る。そして、種族として悪魔だっただろうお婆ちゃんに手を合わせて、母さんが暴走しないようにお願いするのだった。


「神頼みではなく……悪魔頼みか……」


 ……マスターの言う通りである。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌日「ビシャータテア王国・屋外プール」カーター視点―


「お、おお~~!!」


 薫の母上である明菜殿から感嘆の声が漏れている。


「凄いですね……ウォータースライダーに波のあるプール……あ、流れるプールもある」


「あっちにあるプールと変わらねえな……こりゃ」


「そうね~。寧ろ地元のプールより設備いいわね~」


 薫ファミリーからもここのプールに好感触のようだ。


「ここのプールは他国でも見られないくらい遊び心満載なプールですから」


「あそぶぜ!!」


「しかし……私達も休暇なんていいのかしら?」


「息抜きも大切だと思うぞカシー。特にここ最近は忙しすぎる。適度な休息は研究には必要な事だ」


 ワブーが休息の意味について力説している。ということで今回はカシー達とシーエ達も来ている。


「そうですよ……それに私達、二人の護衛も兼ねてますから」


「そうですねお兄様」


 今日は仕事でアレックス様とユノ様の護衛、兼、心身を休めて来い!というのが王様の意向だ。


「泉の水着……かわいいですね」


「ありがとう!別々のビキニを重ねて着てるんだ!ユノの水着は……モノキニかしら?谷間もしっかり見せて……うん。薫兄を落とすには丁度いいかも……」


「あっちではこの水着をモノキニっていうんですね。それで……」


 泉とユノ様が楽しそうに薫をさらに落とす参段を立てていた。……泉の水着を改めてみると、確かにかわいいと思う。水着を二重に着ている……が、それでも少し見せすぎではないかと思うが……。


「泉ちゃん……かわいいよね~」


 その瞬間、俺はドキッとする。横を振り向くと、泉のように重ね着はしないでビキニを着ている明菜殿がいた。


「そ、それは……」


「カーター……頑張ってくださいね」


「応援してるぜ!」


「射止めなさいよ!」


 シーエまで……周囲の熱意がすごい……。


「まあ……あまり気張り過ぎると相手が引くからほどほどだな」


「そういう武人さんは気張ってたけど。ふふふ……」


 マスターの俺に対する助言に対して昌さんが口をはさむ。マスターは慌てて、それは!あの時はな!!と楽しそうに笑っている昌さんに説明している。


「……薫ファミリーの女性陣って年齢が合ってないわね」


「改めて言われると……そうッスね……」


 ……カシー達が少し離れた場所でこの様子を見ている。まあ、確かに言われてみればそうだ。特に薫の母上は規格外であって……。


「成人前の女性にしか見えないかな?」


 そこを茂殿がカシーとの会話に笑いながら混ざる。その姿は泳ぐ格好ではなく、くつろぐための軽装だった。


「ちょ!茂!他の女性と話なんていけないんだから~!」


 そして、明菜殿が茂殿の腕に体を密着させつつヤキモチを焼いている。


「これが同年代夫婦とは見えないよな……」


「ですね……」


 あまりにも規格外の人々が多すぎる気がする。


「ゴメン……待ったかな?」


 背後から薫の声が聞こえて……俺とシーエは体を強張らせた。


「(振り向けるのか!?)」


「(……どうでしょう。薫さんが男性と言っている以上、つまり……)」


 薫の方を振り向かないで小声で俺とシーエは会話をする。薫は男性……つまり俺達と一緒で海パンだけとなる……それがどれほどの意味を持つ事か!!


「(今回の一番危険な規格外……薫は男……だから上半身は何も着てなくても普通……って思えるか!!)」


「(頭は分かってても……流石にアレは……)」


 俺達はそこで黙る。それほどに危険。30代童貞男性なのに絶世の美女。その美女っぷりは顔を見た男共がもれなく惚れるほど……。そんな奴の上半身ヌード……。


「二人共どうしたの?」


 薫が不審な俺達に声を掛ける……どうする!?振り向くのか!?振り向いて大丈夫なのか!?


「おーい。お二人さん!振り向いても大丈夫だ!薫の奴はそこは理解しているぞ!」


 マスターの声を聞いて、それを信じて振り向く。下は海パン……そして、上は服を着ていた。


「二人共……僕、男だから……」


「「心臓に悪い(です)!!」」


「まあ、お二人の気持ちは分かるわね~……薫ちゃんの上半身ヌード状態の水着姿を見て……生死を彷徨った人いたから……」


 生死を彷徨う?ははっ!何の冗談かな!?


「ああ……懐かしいね~。海で隠し撮りしてて、あの子をファインダーに収めた瞬間、鼻血による出血多量だっけ?あれには腹を抱えて笑ったよ!」


「鼻血で出血多量ってどれほどなのです?」


 もはや、それは新たな魔物では?


「そこにいた男性全員が目を逸らしたりして見ないようにしてたね……父さんもよく覚えているよ」


「……僕にとっては黒歴史なんだけど?」


「それだから、あの後ビキニの水着を買って上半身を隠したんだよね!」


「母さん!!言わないで!!それ見せたくないんだから!!」


「……まさか。薫の見せられない写真って」


「それも入ってるわよ?」


 それも?……まだ、あるのか?


「それより!遊ぶんでしょ!ほらいくよ!」


 薫がプールサイドを歩いていく、その姿を見た男共が残念そうな顔になるが……男としてその気持ちは分かる。中には彼女に頬をつままれたりしている者もいる。


「あ、待ってください薫」


 ユノ様が傍に近づいて薫の腕に抱き着く。水着姿のユノ様に抱き付かれて薫の頬が赤くなっていた。すると、男共がさらに残念感とご馳走様です!!というような混沌とした表情を浮かべている……女性陣の中にも親指を立てて、何故か笑顔を浮かべている奴もいるが……。


「ちょっと!私も遊ぶ!!茂行くよ!」


「はいはい」


 その後を茂殿達が歩く。その姿は夫婦ではなく親子にしか見えない……。


「おい。頭の中で色々ツッコミしてる所で悪いんだがいくぞ……考えすぎると……処理しきれなくなるぞ……」


「あ。はい」


 薫ファミリーとの付き合い期間が長いマスターの助言を聞いた俺とシーエは、もうこれ以上深く考えるのを止めて護衛という名の休暇に入るのだった。

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