最終話
最終話になります
宝くじを買って、俺は家に向かって歩いていた。
もう外には用は無い。
後は、一月一日の年末ジャンボ当選発表まで、家で待機するだけだ。
今度の代償は何だ?
手か?足か?そんなのはどっちでもいい。
金さえ手に入れば何でもいいのだ。
あと七日、一週間か・・・・・・。
地獄のような一週間になると思うが、それを乗り切れば、俺の未来に光が見えてくる。
「もう少し、もう少しだ・・・・・・」
独り言でそう言うと、俺の顔はにやけてしまって今にも高笑いしてしまいそうだった。
「ひひ、ひひひ」
悪役のように見えるが、今の俺にはそんな事どうでもいい。全ては自分のためだけあり、他のことなんて気にもしない。
楽園が、俺を待っているのだ。誰にも渡さない、俺だけの楽園を・・・・・・。
笑うのはまだ早い。
この笑いは、光が見えてきたときのためにとっておこう。
光が見えたら、盛大に笑ってやる。
「・・・・・・ッ?」
ふとそこで光が差し眩しくなった。
つい手で光をかざしたが、その光はなんでもないただの街頭の光だった。
ただ一つ気になったのは、その街頭の光に照らされ、そこでただ突っ立ってこっちを見ている一人の少年がいたことだ。目線を少し下にしていたせいか、いることにすら気がつかなかった。
少年とは言ったが、よく見ると男の子にも見えたし、女の子にも見えた。それに、背が低いわりには顔立ちは少年のようにも大人のようにも見えた不思議な子だった。
クリスマスの日に一人でいるのも変に思えたし、こっちを見てにやにやしているのも変に思った。
俺は気にもせず通り過ぎようと思ったが・・・・・・そうはいかなかった。
「まったく、君はあいかわらず哀れだねぇ。見ていてつい目を反らしてしまいますよ。いや、実際ちゃんと見ているんですけど。ははっ!とと、いけないいけない、笑ってしまいそうだ。いやー、まったく・・・・・・まったくだよ。君は実におもしろい人間だよ。自分でもそう思うでしょう?神田誠くん」
「ッ!」
俺は勢いよく振り返り、そいつを見た。
そいつは俺を見ていて相変わらずにやにやしていた。
「誰だ・・・・・・お前」
俺は聞いた。聞かずにはいられなかった。
当然だろう、知らない人に自分の名前を知られているのはどうも嫌に感じる。
嫌な気分だ。
「いやいや、別に名乗るほどでもないです。実に名乗るほどでもない・・・・・・。私はあなたの事を知っていて、あなたは私の事を知らない、それで良いんですよ。ドラマみたいに真剣な顔で『誰だ・・・・・・お前』なんて言っちゃって!かっこ良過ぎて笑っちゃいそうですよって、もう笑っちゃっているんですけど。どこかにカメラでもあるんですか?あははっ!」
イライラする事を平然と言いながら、そいつはキョロキョロとカメラを探している仕草をした。
「・・・・・・なんで、俺の事を知っている」
「え、なんで?なんであなたの事を知っているのかって言ったんですか?そんなの簡単です。ずっとあなたを見ていたからですよ。それしか考えられないでしょ?」
「はっ!ずっと俺の事を見ていたって・・・・・・。それってどう見てもストーカーじゃないか!良いか?俺は今お前みたいな奴に構っている暇なんてこれっぽっちもないんだよ!警察に通報でもされたくなかったらとっとと・・・・・・」
「おまじないで大金を手に入れるため・・・・・・ですか?」
「・・・・・・ッ!」
こいつは今、おまじないのことを言いやがった。おまじないの事をこいつは知っているのか?
だとしたらこいつは何だ。何者なんだ?ただの少年とかストーカーじゃない。
こいつは、こいつは・・・・・・。
「いろいろ知っていますよ。おまじないをして宝くじを買うと、見事に当選して大金がもらえるんですよね?まあ、その代わりに代償としておまじないをした人の体の一部を取られるみたいなんですけど・・・・・・」
「・・・・・・」
「あなたは最初、宝くじに当選し百万円を手に入れた。その代わりに代償として、髪の毛を払った」
「・・・・・・」
「次にあなたは、五千万円もの大金を手に入れた。代償は見て分かるようにその右足・・・・・・。事故に会い、あなたは右足をなくしました。しかし、当たった五千万円は親が宗教詐欺に貢ぎ込み、貯金も全て無くなった。挙句の果てには借金まみれで無理心中」
「・・・・・・」
「そして今回は、もっとすごい大金を手に入れ、借金を返してまともな人生を送ると言いたいんですよね。違いますか?神田誠くん」
「・・・・・・・・・・・・い・・・・・・か」
「はい?全然聞こえませんよ。もっと大きい声で言ってくれないと・・・・・・」
「悪いかって言ってるんだよ!それの何が悪い!哀れか?哀れだとでも言いたいのか?ふざけんじゃねぇぞ。俺はどんな手を使っても大金を手に入れる!代償なんてその次だ。俺はさっさと大金を手に入れて借金を返して、最高の人生を送ってやるんだ!お前みたいなお子様に、どうこう言われる筋合いはねぇんだよ!俺に口答えするな!」
「・・・・・・言いたい事はそれだけですか?いやー、哀れですね・・・・・・そして嬉しいです」
「・・・・・・なんだと?」
「あなた今、『代償なんてその次だ』って言いましたよね?その言葉はつまり『命より金がほしい』と言っている事と同じ意味になります。そうですよね?」
「だとしたらなんだって言うんだよ」
「鈍いですねえ、神田誠くん。実に鈍い、鈍感の鈍感、超鈍感だ。ダメですよ、命より金なんて・・・・・・。もっと命を大事にしないと、神様が天国で泣いていますよって、あなたに神様って言葉は禁句なのかな?あははっ!」
「だから何が言い・・・・・・ッ!」
神様、神様だと?
今、こいつは神様と言ったのか?
「あれ?どうしたんですか、神田誠くん?もしもーし」
だとしたらこいつの、こいつの目的は・・・・・・。
「お・・・・・・俺に」
「はい、なんですか?」
こいつはニヤニヤしている。俺がなんて質問するのかをわかってて、それをあえて待っているかのように。
息を飲んで言った。
「俺に、何の用だ」
「ふふ、ふふふ・・・・・・やだなー神田誠くん。もうあなたもわかっているんでしょ?まあ、どうしても自分の口で言いたくないんだったら、しょうがなく私から言いましょう」
「・・・・・・」
「あなたの代償をもらいにきました」
「ッ!」
そいつの声はもの凄く低く、どす黒い。あの時と同じの・・・・・・。
わかってた。わかっていた。
代償を取りにくるのはわかっていた。
でもまさか、こいつが・・・・・・こいつがこのように直接会いに来るとは思ってもいなかった。
「死・・・・・・神」
「ふふふ」
死神は、不気味な笑顔で俺を見て言った。
「あーあ、ばれちゃいましたか。まあ、どちらかと言うと遅かった方なんですけどね。ああ、この姿ですか?私、意外とミーハーでしてどうしても元の姿で人前に出たくなくてついつい変装しちゃうんですよ。そこらへん勘弁してくださいね。あははっ!」
本当に、いやがった。こいつが、死神が。
でも、俺は・・・・・・俺は。
「な、なんで・・・・・・俺は、俺は信じないぞ!神も仏も、死神も信じない!この世にいないんだ!」
「酷いですねえ、今の言葉結構傷ついちゃいましたよ。まあ、信じなくて当然なんですけどね。だれも見てないし、見えないし。神田誠くん、あなたは今ものすごい体験をしているんですよ。感動しちゃいますか?」
「ふざけんな!俺はこのおまじないのせいで人生最悪なんだよ!人の不幸に、手を差し伸べて救ってくれるのが神様じゃないのか!なんで俺のところに死神が来るんだ!お前が全部悪いんだ!地震とか津波とか、そのせいで大勢の人が死んで行くのも全部お前のせいだ!」
「ガーン!今の言葉、ますます傷ついちゃいました。いやいや、何もかも不幸を私達のせいにしちゃダメですよ。現にあなたの人生を最悪にしたのは、あなた自身なんですから。私はただ、代償をもらいに来ただけです。この不幸はあなた自身がもたらした結果なんですよ?」
「・・・・・・ッ」
「それに、地震とか津波とかの自然災害で人々が死んでいくのは、あなたたち人間のためなんです」
「・・・・・・どういう意味だ」
「この世の中、自然災害、戦争が起こらず、永遠に人口が増え続けていったらどうなるか、あなたにはわかりますか?わからないでしょうね。そのようになると、いつかは食料が間に合わなくなり食料が全て無くなります。そして人間、動物も飢え死にしてしまいます。植物は人口増加による領土拡大で森林伐採が行われ、美しい緑が消えていく。最悪、地球上の生物全てが絶滅する恐れがあります。わかりますか?すべては、この世界の『バランス』をとるためなんですよ」
「バランス・・・・・・だと」
「神様だって、この様なことをやむおえなく行っていることなんです。好きで大勢の人間を殺してしまうような神様は存在しません。まあ、存在しているとならば、死神の私だけなんですけどね。あははっ!」
「・・・・・・」
「それに引き換え、あなたは命より金の方を選びました。これがどういう意味か、おわかりですか?」
「・・・・・・」
「この世の中、必死で生きたくても生きられない人間なんてたくさんいるんですよ。この言葉聞いたことありませんか?『今日、無駄に過ごした一日は、今日どこかで死んだ人の死ぬほど生きたかった明日だったなのかもしれない』っていう言葉があるんですよ。誰が言ったかはわからないんですけど・・・・・・私、死神ですけどとても感動しましたよ。要するに、命よりも大切な事は無いという事です。わかりますか?あなたは、人間の命よりもお金を優先しました・・・・・・」
「はっ!別に良いじゃないか、これが俺の選んだ道、選んだ生き方なんだからよ」
「そうです、それが、あなたが選んだ道です。そして、あなたにこの先の道は・・・・・・ありません」
「は?」
「あなたの代償、命をもらいます」
「ちょ、ちょっと待て!命を取ったら・・・・・・」
「ええ、もちろん死にますよ。それで良いじゃないですか。私からの『最後の選択』で命よりお金の事を考えているあなたみたいな人間は、人としての『価値』が無い。神からお願いが来ました。そんなあなたを、私の手で始末してほしいと・・・・・・。言うなれば、神の裁きってやつですかね。必死で生きようとしている人間を殺すより、命の大切さを知らないあなたみたいな人を殺すのが、私としてはとてもやりやすい」
「そ、そんな、嫌だ・・・・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!俺はまだ死にたくない!俺はこれから最高の人生を送るんだ!楽園が・・・・・・俺を待っているんだ!」
「まったく、往生際が悪いですね。わがままの坊ちゃんみたいです。声がうるさすぎて耳が痛いですよ。あははっ!でも、私にはそれが実に快感でいい気分にさせてくれます」
「あ・・・・・・あぁ」
死神はマイペースに自分の喋りたい事だけを言い、俺のところに近づいてきた。
俺は逃げることができず、尻もちをついて後ずさりをした。
「だ、誰か!助けてくれ!死神が・・・・・・死神がああ!」
「助けを求めても誰もきませんよ。あなたはここで死ぬんです」
死神が一歩踏み出すたびに俺の恐怖は込み上げてきた。呼吸が乱れ、歯をガチガチ鳴らし、涙をこぼし、声が出ない。手足はガクガク震え、身動き一つできない。
「さて、そろそろ覚悟は良いですか?神田誠くん」
死神は笑顔で言った。
「い・・・・・・やだ・・・・・・いや、だ。俺は・・・・・・・・・・・・普通に、暮らしたいだけ・・・・・・なんだ」
「あーあ、まったく呆れてしますよ。楽しくない・・・・・・実に楽しくない、不愉快だ。だから・・・・・・」
そして死神は、不気味な笑みを浮かべ言った。
「さっさと死ねよ」
「ふう、まったく面白みが全く感じられなかったですよ。神田誠、人間として生きる価値の無い奴は神から裁きを受ける。よーく覚えといてくださいよって、もう死んでいるから意味無いか。あははっ!まあ、こんなところで死んでいたら他の人たちに迷惑かけてしまいますから、ちょっと体使って事故死に見せかけるよ。というわけで神田くん」
最後に、死神は決め台詞のように言った。
「あなたの代償は頂きました」
あの、もの凄く低く、どす黒い声でその言葉を言った。
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『ニュースをお送りします。昨夜、午前二時二十四分ごろ、○×交差点で赤信号の横断歩道を横断中の神田誠(23)が、走行中の普通自動車にはねられ、心肺停止のまま病院に搬送されましたがまもなく死亡が確認されました。尚、事故現場を目撃した方に尋ねると、フラフラしていた、急に飛び出したと証言されており、動機は自殺と事故の両方を視野に入れて捜査をすすめております』
一月一日。
「んー」
「あれ、秋山さんどうしたんですか?それって、年末ジャンボ宝くじですよね。買ったんですか?」
「ん?ああ、これか?これは、事故で亡くなった神田くんが所持していた宝くじなんだけどさ」
「ああ、神田くんですか。去年は家族が無理心中、そして本人が事故死・・・・・・ですか。それで、どうですか?当たっていますか?」
「そう顔近づけんなって。それがだな、当たりが一つも無いんだよ。おかしいだろ?年末ジャンボって十枚買ったら必ず百円の当たりはあるはずなんだけど、何度見直してもやっぱり無いんだよ」
「係の人が入れ間違えたんですかね?」
「まあ、そうとしか考えられんな。まったく、運の悪い奴だな。宝くじは当たらんわ、車にはねられるわ、神にでも見離されたんだろうな。なんつって・・・・・・」
「あ、そういえば聞きました?その神田くんなんですけど、先日遺体を解剖したら、心臓が無かったみたいなんですよ。秋山さん、これどう思います?」
「へえ、おもしろそうじゃねぇか。その話詳しく聞かせろよ」
「良いですよ。えっとですね・・・・・・」
『俺は神を信じない』 完
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございましたm(__)m
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人によって考え方はいろいろありますね。(タモリ声で)
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改めて、最後まで読んでいただき感謝感謝です!
もう一つの作品の方もよろしくお願いします。
それではこれで、筆を置かせてもらいます・・・・・・。
ありがとうございました。
PS 世にも奇妙な物語っぽくできていたかな?(笑)




