もたもたしてたらソーマの方は先に終わっていた
ブラン少尉、彼は期待の機体乗りだ。開発部がその技術の粋を尽くして作り上げたVPS、そのテストパイロットである。
彼が二人と初めて出会ったのはVPSに乗っているときだ、侵入してきた情報士を合図の後倒せというものだった。実際はそんなことにはならず、情報士二人は亡命してきたということでこちら側の陣営に引き込まれたときいた。
次に彼がよく出会ったのが、工廠をよく見に来ていた天汰という若者だ。
一見するとただの見学だが、そもそも彼は情報士だ。しかもタイミングを考えれば完全に敵情視察に他ならない。
専用IOSの解析作業もずっと拒否されているというし、これはもう最初から敵対するつもりだったのだろう。いくら状況が追い詰められているからって、亡命してきただなんて見え透いた嘘も見抜けない上層部にはがっかりした。
いや、それも仕方ないのか。
これだけ追い込まれているんだ、目の前に出てきたエサは欲しくなるものだ、たとえそれが国を滅ぼす毒入りのエサだとしてもそれを精査する余裕もないくらいには追い詰められていることくらい知っている。
(ならば、俺がその毒を滅すればいい)
ブランは操縦桿を強く握る。
(こんなイレギュラーなんて、俺が修正してやる!)
マイクを通して操られていると思われる『舞姫』と敵情報士に向けて布告する。
「消えろイレギュラー!」
・ ・ ・
「エイラ、あのVPSをぶっ壊せ! あれがなかったら俺らがこんなことしなくてすんだんだ、諸悪の根源を破壊しろ!」
「ハイ、マスター」
『消えろイレギュラー!』
VPSの背中のブースターが火を放ち、鈴木とエイラの方へ接近する。
鈴木は(そもそもダメージを食らわないのでよける必要はないのだが)後方へ走って逃げ、エイラは大きく横に跳び直撃を避けた。
(別れたか、ならば)
ブランはVPSを操り、近くにあった整備機材を引っ張ってエイラが開けた整備室の穴をふさぐ。
(確か、今まであの鈴木とやらは攻撃用の装機もIOSもみせてない。もしもあれが特殊型だとしたら、この穴を再び開けることはできないはずだ)
そして、弾詰めが終わって整備完了しているVPS用のマシンガンを壁から取る。
ドゴン!
突然の衝撃にブランはコックピットの中で舌打ちをする。
「よそ見ですか? この『舞姫』を前に随分と余裕ですね」
『お前、操られてるんじゃなかったのかよ』
ターゲットの再設定をしつつ、ブランは機体の正面をエイラに向ける。
(主砲が二つに増えてる!?)
先ほどまではエイラの目の前にその丈ほどもある大きな砲が一つだけ浮かんでいたのだが、今は左右に一つずつ存在していた。
「なんというのでしょうか、操られているというより、半分寝ていたような感覚ですね。ですが、こちらもやられる可能性がある戦闘となれば意識ははっきりとしますよ」
『ではお前は、今は自分の意志で俺に攻撃したのか』
「すでに催眠下だったとはいえ、私は何人もの同胞を手にかけています。このまま本国へ戻ったら何かしらの罰があるでしょう。というかそれ以前に、この国にはもう戦える力は残っていません。この戦いの負けは見えています」
『そんなことはない! このVPSがある限り勝利は我々のものだ』
「いいえ、その機体でいくら船を落とせても、『舞姫』には勝てませんよ」
『ならば、試してみるか!』
ブランはマシンガンを撃つ。一発でも体にかすめるとその部分はなくなるほどの威力、それをエイラに叩き込む。
しかし、
「シールド展開」
エイラの目の前に壁盾が出現、殺人マシンガンの弾を防ぐ。
「主砲、発射!」
こちらも人が食らえば一発でその形が保てなくなる大きさと威力の砲弾をVPSにお見舞いする。
『くっ』
「さすが、最終兵器と期待されるだけはあるみたいですね。ですが、やはり『舞姫』には勝てませんよ。せいぜいA級五人を抑え込むのが限界でしょう。私はこんな負け戦、一抜けさせてもらいます」
・ ・ ・
(まっずい)
分断させられた鈴木は分かりやすく焦っていた。
(戦闘音が聞こえるからエイラが戦っているのは分かるが、こっちから指示出しができないのがもどかしい。それに、たぶん天汰はエイラに肩代わりをかけてないはずだし、最悪エイラはやられるか。工廠の整備機能をやってくれれば助かるが、ここからはエイラ抜きの計画に切り替えるしかないな)
頭を切り替える。
(戦闘音がするってことは、多分催眠は切れたな。その上で戦ってるってことか。一応留意しておいて、次、俺たちの脱出手段を確保しに行く)
(ここ数日で船の構造は把握している、そろそろ隣の船に体当たりする頃だ。左舷側の救命いかだを取りに行く――)
ドゴゴオオオオオオオンン!! 船全体が大きく揺れた。
予期せぬタイミングだったので普通によろけて転んだ。
(今かよ!)
警報音が鳴り響く。緊急事態を知らせるサイレンなのだが、この事態は鈴木が引き起こした張本人なのでただ煩わしいだけだ。
(まー多分、戦艦に直接体当たりはできてないだろう。確かエイラの説明で全方位シールドなるものがあったのを聞いてるからな。でもシールドは再展開するのには時間かかるし、リソースひとつ潰せたと考えれば全然オッケ)
立ち上がる。
(左舷側の甲板、そこに救命いかだがあったはず。まずはそこを目指す)
だが、そう簡単に向かわせてくれるというわけでもなかった。
流石は軍隊というべきか、これだけの騒ぎの中もう体制を整えることができていたようだ。
鈴木の目の前には三人の軍人が小隊を組んで鈴木を射殺さんとばかりに睨んでいた。
「オイオイ、面倒はごめんだぞ」
余裕を嘯くが、基本的に鈴木に戦闘能力はない。天汰の肩代わりのおかげでやられることはないが、大の大人に組み伏せられるともうそれで終わりだ。
(持ってる銃にあと弾はいくつ残ってる? クソが、分断されるだなんて思ってなかったから後先考えずに撃っちまったじゃねーか!)
「とりあえずお前を殺せばこれ以上の混乱を避けることができる。重要証言人だとか、裏にいる敵だとかそんなものはどうでもいい、俺が、俺らがそうしたいから殺す」
三人の軍人の誰かが言った。
勝負になんかならなかった。
鈴木は手持ちの銃を撃つが、狙われた一人はそれを避けて、その合間に残りの二人が鈴木に体当たりを仕掛ける。強烈なタックルだがダメージはない。しかし、ダメージがないだけで鈴木は突き飛ばされてそのまま押さえつけられる。
銃も落としてしまった。
「クソ、放せ!」
「話すと思うか?」
「ならこれでもくらえ!」
鈴木は持てるすべての力を使って体を起こした。そう、頭突きだ。
取り押さえられて完璧に油断がでるタイミングでだ、ちょうど鼻に頭が決まって常人なら絶対に鼻を抑えるなりよろけるなりするだろう。だが、
「で、それで?」
鼻血を出しながらも一切動じない。これが軍人か。
三人の中でリーダーをしている男が言う。
「こいつは攻撃が全く通じない。銃で殺せることはないだろう」
「そうだよ、残念だったなバーカ!」
「だから、手足を縛って海に放り投げよう」
(あ、それマズイ)
天汰の肩代わり、これは敵の攻撃をすべて無効化する。攻撃されることでは天汰又その影響下にある者はやられることはないだろう。では、この肩代わりは無敵なのか? 答えは否。攻撃以外のものでなら倒すことが可能である。それは例えば鈴木が天汰とじゃれ合った時みたいな目や急所を狙うなど人間が本能的に持っている恐れを狙った精神攻撃。体の不調を引き起こす不摂生や睡眠不足、毒物なども効果的だ。そして最後に水や火。ダメージではなく窒息や酸欠状態を引き起こす意味合いでの水や火だ。
これらは外因的要素つまりダメージではないために肩代わりの対象外。肩代わりの機能をすり抜けてその保護下の人物を殺害を可能とすることができる。
つまり水による窒息死は肩代わりではどうしようもない。
「水で窒息死させることができるかはわからんが、お前は永遠に海の底を漂い続ける」
(これは、流石に終わったか)
鈴木が全てを諦めたその時、
「うっ」
リーダーの男が宙を舞った。
「ぐあ!」
続いて二人目。
「お前、誰ドゥアア!?」
そして最後に鈴木を抑えていた男もソイツに蹴り飛ばされる。
「何をしているんですか、もうコッチは世界を何度も繰り返してやっとの思いで世界を救ってきたというのに、なんであるじはまだこの世界を救ってないんですか!」
「お前、なんでここにいるんだ! アイリス!」
・ ・ ・
数日前。
「ふーんなるほどね、船を沈没させて『VPS』とその整備施設を海に返そうとしたわけか。それから僕を呼び出して島に戻り、島の整備施設と『VPS』のデータを消せば、なるほどたしかにこの世界から異世界の異物である『VPS』の痕跡は全部消えてなくなるね」
ソーマは、別世界にいる鈴木とメールのやり取りをしていた。
「確かにその計画が成功すれば、君たちがその世界にいる理由はなくなる。はれてお仲間のところに合流させてあげてもいいよ、っと」
ソーマは慣れた手つきでスマホを操作して別世界へメールを飛ばした。
返事はすぐに帰ってきた。
『じゃあ俺が連絡を出したらすぐにこっちにこい、タイミングが勝負だ。多分俺らは救命ボートに乗ってると思うが、船の生き残りがいたら救命ボートを奪われておしまいだ。お前教えてくれなかったけど多分海でおぼれたら肩代わりできないだろ?』
「あの子、いや、あの子らの成長は著しいものがあるな。天汰君は肩代わりのアーマーの効果範囲無視して守れちゃうし、鈴木君はアーマーの弱点を見つけるし、それに、クラリアちゃんとアイリスちゃんも――まさか本当に邪神を追い返してしまうとは思わなかったし、これでこの世界の主人公が生まれる前に世界が滅びることはなくなったか。後処理が少々必要だけど、もしかしたら天汰君たちよりも早く終わるかもしれないな」
その数日後、後処理も終わったソーマたちは、一つの世界を後にした。




