朝食は大事
天汰は廊下で目が覚めた。
「あ?」
当然のように疑問符が生まれるが、よくよく思い出してみると納得した。
昨日は結局、部屋には入れてもらえず、廊下で眠らざるおえなかったのだった。
廊下を通る施設の職員に奇異の目でみられなかったかとか、寝てる間に何か盗られていないかとか色々考えることもあったけど、とりあえず鈴木をぶん殴ることは確定していたので、部屋のドアを開ける。
鈴木は普通にベッドで普通に寝ていた。
「…………」
天汰はきわめて冷静に、鈴木に掛けている肩代わりを外して、その無防備な顔面に「そおい!」と肘鉄を落とした。
・ ・ ・
結局、二人は不毛な争いを三十分ほど続けていた。
鈴木の攻撃は全て天汰には『ダメージ』としては通らないが、目潰し、金的等人間が本能的に身が竦む攻撃。柔道のように相手の体や体重を利用する技、関節を固める拘束技と、意外と泥臭い戦いに慣れている様子であった(でもその割には体力がなくて、肩で荒い息をしていた)。
そんなこんなで、もう専用席となりつつある食堂の定位置へと朝ご飯を食べに来ていた。
「俺チャーハン」
「カレーうどん」
「そうだ、知ってるかすーさん」
「なんぞ」
「自宅でチャーハン作るときって、なんかパラパラしないチャーハンになるでしょ? そうならないためにはフライパンにマヨネーズを入れて油の代わりにすればパラパラしたチャーハンになるって聞いたことがある」
「そもそも自分でチャーハン作って事がないからなあ。あと、その口ぶりだと君もやったことはないのね」
「まあね」
そんな、死ぬほどどうでもいい雑談をしながら待つ。
『イザリヤに乗り込む予定の乗員に次ぐ、今より十五分後に港のイザリヤへと向かうバスを出す、場所は正面門。遅刻は厳禁だ、以上』
施設全体への放送だった。
「あと十五分だって、今何時?」
「インフォン見てみろよ」
「六時十二分、通りで眠いと思った」
鈴木は時間を確認して、二度寝したい衝動に駆られる。
「ちょっと待って、あと十五分って朝飯食べる時間なくね?」
天汰が革新的なことを言ったそのタイミングで、食堂のおばちゃんが「チャーハンとカレーうどんお待ちだよ!」と大声を上げる。
「いや、急げば食べ終われるって」
「俺はチャーハンだから掻き込めるけど、すーさんのカレーうどんはアツアツでそれを冷まさず急いで食うなんて無理だって!」
「……俺ら、別に遅刻しても大丈夫じゃね?」
「何をもってして『お客様』の立場の俺らが遅刻しても許されると思ってるのかが全く分からないんだけど」
「俺らは、未知のIOSを使える、いわば重役。これは遅刻しても許されるのでは?」
「すーさんのナゾ理論でも無理があるよ」
「じゃあどうすんだよ、俺は朝食抜きとか嫌だよ」
「……持っていこう」
「お前、天才かよ」
鈴木と天汰は、チャーハンとカレーうどんを持って食堂を飛び出す。
おばちゃんが「食器を持っていくな!」とか叫んでいるが、構うことはない。
バスが待っている正面門まで、実は結構な距離がある。カレーうどんが冷めるくらいには十分な距離だ。
バスのところには、時間ギリギリで到着できた。
チャーハンとカレーうどんを持って乗車してきた天汰たちは、なんだコイツらみたいな目で見られるが、二人とも気にすることはない。
カレーのにおいが車内を蝕んでいく中、バスは港へ向けて出発した。




