ブリーフィング終わりに食事をしていたら嘘がバレた
鈴木、天汰の二人は第二研究室で落ち合った。
「うっす、今日もロボ見学か、飽きないもんだね」
「一日中ネットサーフィンしてるすーさんの方がよく飽きないもんだよ」
軽口を叩き合ってお互いの調子を確かめる。
第二研究室は鈴木たちの他にエイラと軍隊長、あとVPSのパイロットのブランという若い軍人もいた。
重役が集まるのでいつものような『脳みそいじくらせろ』的な雰囲気ではないことくらいわかる。
第二研究室は、主にパソコンが何台も並列されており、自動で何かを計算しているようだ。後はちょっとした会議ができそうなO形テーブルがある。基本的に第二研究室は無人らしく、時々今みたいな会議を開く場所として利用されるらしい。
軍隊長が皆をO形テーブルに座るように勧める。
皆少し緊張した面持ちで腰掛ける。
「あー、みんな座ったな。よしお前らに集まってもらったのは他でもない。任務が決まったからである」
(任務?)
鈴木は怪訝な表情になる。
「ここにいる全員、初めてのことだろう。だがお前らが持っている能力を考えれはこれは当然のことである」
軍隊長はそう前置きをする。
「本日、一六〇〇に港にてイグラス国の戦艦ルーテル、他護衛艦二つが停泊することになる。翌日〇七〇〇にルーテルは出向。君たちは我がフレインの護衛艦イザリヤに乗ってルーテルを護衛してもらいたい」
どういう仕組みになっているのか、O形テーブルの中央にホログラムとして島の地図が浮かび、戦艦ルーテルの停泊予定ポイントが点滅する。
「これはVPSを実践投入することを意味する。ブラン少尉はVPSを駆使してもらい、華々しい戦果を期待している」
「は、はい!」
ブラン少尉は少し緊張したように答える。
「情報士諸君はIOSを活かしてVPSやイザリヤの援護をしてほしい」
軍隊長は今度はエイラを見て、天汰、鈴木を見る。
「――了解です」
エイラは静かに敬礼をする。
天汰、鈴木もノリで同じように敬礼する。
「うむ、諸君らの働きに期待する。次に、これを見てほしい」
軍隊長の言葉に合わせるように、ホログラムの地図が収縮されていき、島が小さくなっていく。
「諸君らが通っていく海上ルートはこう、そしてここで朝雲国までいく予定だ」
世界地図くらいになったホログラムは、海の上を矢印が進んでいき大きな大陸(アフリカっぽいと鈴木は思ったが、若干形が違う。やっぱりここは『別世界』なんだとこんなところで思ってしまう)の近くで止まる。
「あくまでこれは現時点での予定になる。情勢が変わり次第作戦も変わっていくと思う。だがこれはチャンスだ、このチャンスをつかむために諸君らには身を粉にする思いで頑張ってもらいたいと思う。私からは以上だ」
その言葉で軍隊長はブリーフィングを締めくくった。
・ ・ ・
ブリーフィングが終わり、今日も早くも終わりが訪れようとしている。
夕食のために鈴木と天汰は食堂に顔を出しに行っていた。
もちろん、エイラを一緒に引き連れて。
「まさか、嫌がる女性を無理やり引っ張ってくるとは思いませんでした」
ラーメンをズルズルすすりながらエイラは無表情で言う。
「まあそういうなって、今日は俺のおごりだから」
なんて鈴木は言うが、直後天汰に「ここお金使わないよね?」と突っ込まれる。
「ともかく、明日なんか作戦が始まるっぽいし? 今のうちに親睦を深めようと思ってさ」
鈴木が言うと、
「親睦というと?」
とエイラに返される。
「まー明日からおんなじ船の中で住むことになりそうだし、お互いの距離感を縮めていこうという訳さ、こんな風にね」
ニッコリと鈴木は、イス一個分エイラに詰め寄る。
「――なんで? アナタ、情報士じゃないですね」
エイラは口から麺が垂れているのも気にせずに、鈴木を驚きの表情で見つめる。
(ヤベえ! なんかしくった!)
鈴木は焦る。
今のどの要素に自分たちのウソがバレるところがあったのか全く分からない。今はそれよりも知られてしまったエイラをどうにかしなくてはいけない。
「やだなぁ、何を言ってるんだい?」
とりあえずまずはごまかす。
「情報士は、お互いの物理的距離が二十センチほどに近くなるとお互いの脳が干渉しあってノイズが生じるはずです。撫子型の装機にそれを防ぐ装置が施されているので装機を展開している撫子型に限りそれはなくなるのですが、見たところアナタは撫子型のようでもなく、装機を展開しているようでもない。ノイズが生じないのはそれは情報士ではないからではないかと私は思っているのですが」
エイラの言葉でようやく欠けていた情報が聞けた。
情報士同士が近付くと脳にノイズが走る、そのことを鈴木は知らなかったのだ。
(やっばい、どうしよう)
ここまで順調に行っていたので今更バレた時のことなんて全く考えていなかったのである、もしここでエイラが大声でこのことを喋られたら食堂にいる多くの人がそれを聞いてしまう。そうなればバットエンド確実だ。
「しかしそうなるとおかしなことがあります。あなた達は情報士でもないのにどうやってこの島に上陸したのでしょう」
天汰が視線で早く何とかしろと言ってくる。やれるもんならやってるわという意味を込めて睨んでやるとなにをトチ狂ったのかウインクしてきた。鈴木には天汰の行動が理解不能だ。
「ああ、もし今おかしなことをしたら大声でこのことを発表しますので、悪しからず」
鈴木たちの今後を左右する情報をエイラに握られた。主導権を握られてしまった。
「ふふふ、そうやってすぐに公表しなかったのが運の尽きよ……」
「悪役っぽいセリフですね。さてしかしです、ここは掛けの時ではないかと私は思いました。このままいくと、私は、フレインと共に確実に死ぬでしょう」
弱小国、フレイン。そんな国の『舞姫』として生まれてしまったエイラは、十中八九前線で戦うことになるだろう。当然、国力で劣るフレイン国はどう考えても潰される。軍隊長はチャンスと言ったが、実際に戦う当事者からすればたまったものではない。死ぬために生まれてきたようなものだ。
幸いにも、エイラにはそれを嫌だと、望まないとする心はちゃんとあった。
そして目の前と隣には情報士ではない『未知の何か』がいる。
死なないために掛けるとしたら、それはここだとエイラは思った。
「お二人にお願いがあります。不躾だとは思いますし自分勝手な願いだと承知してます。それでも、私は死にたくないです」
エイラは鈴木と天汰をみる。
「私を死なせないで、助けてください」
ご都合主義にもほどがあると天汰は思った。
こんな都合がいい風になるはずがないと、だけど、ソーマの姉は確か運命が操れるとかなんとかだった。もしかしれこれは、そのせいなのかとも思った。
だけどそんなことはわりかしどうでもいい。
目の前で女の子が助けてくださいと言っているのだ。そして天汰は守りのスペシャリスト。本当にご都合主義だなと思いながらも天汰は、
「任せろ!」
と力強く言った。
・ ・ ・
黒の世界。背景がどこまでも黒く、しかしところどころに蛍のように煌びやかな光が点々と輝いているそんな世界で、身長の何倍もある長い黒髪の女性は口元に笑みを浮かべていた。
「あんまりじれったいから、ちょっと手を出しちゃったけど、駒と舞姫を結び付ければこの世界はひとまず安心していいかしら?」
どういう原理でそうなっているのか、女性の前には楕円形にモニターのように鈴木たちの行動が映っている。
いや、鈴木たちだけではない。
ソーマ、クラリア、アイリスが映っている楕円形もあれば、大和、黒石が映っているものもある。
これは『異世界の窓』というものだ。これで女性は複数の異世界を見ることができる。
「『ヤマトの世界』の方は順調そうだけど、『ユレイヴの世界』はソーマがいても難しそうね。巻き戻しも何度も使えるものでもないし、かと言って我が干渉すると外なる神が暴れるだろうし、限られた試行回数の中で当たりを引ければ幸いというところかしら」
女性はツィと指を横に払う動作をする。それだけで『異世界の窓』は消えて、女性と黒の空間に戻った。
「さあ、今の我に打てる手を打った、『あやつら』はどう返してくるかしら」
黒幕は静かに笑うのだった。




