真面目な戦闘
敵モンスターはアルマジロみたいなモンスター、ミロジラマが一体、ハニワを縦に伸ばしたようなモンスター、ワルフーリスが二体、そして久しぶりにみるカイゼランドが一体だ。
馬車群とモンスターとの距離は約五百メートル、相手はこちらに気が付いているが、警戒しているようで遠巻きに眺めているようだ。
ジルは今回の戦闘に出る三人を呼び出す。
「ゲーシック、アイリス、クラリア。お前らには前方の敵性モンスターをやっつけてもらう。作戦なんかはお前らの好きにしろ。その辺はゲーシック、お前に任せる」
「御意に」
「アイリス、初戦闘だが、気を張り詰めるな。危険だと判断したらすぐに撤退しろ」
「はい」
「クラリア、全体のフォローはお前が一番だ、期待している」
「期待に沿えるよう、善処します」
三人とも自然体で、緊張は見られない。
「じゃあ、行って来い」
ジルの言葉に背中を押されて、三人はモンスターの方を振り向く。
「じゃあ、大物は抑えておくから君たち二人はワルフーリスを頼むよ」
ゲーシックはそう指示を出すと、一足先に駆け出した。
モンスターの側も、ゲーシックを敵だと理解したのか、合わせるように向かって来る。
「さて、私達も行きましょうか。ところで、アイリスちゃんは何か武器を持たないのですか?」
「わたしは、ヴァルキュリーですので、体一つあれば十分です」
「徒手空拳で戦うのですか。心配で仕方がないのですが――」
チラリと振り返り、ジルの顔を見る。
ジルは小さく頷いた。
「分かりました。では私達も行きましょう」
クラリアとアイリスは小走りで、移動を開始する。
ゲーシックはカイゼランドとミロジラマ二体と戦い、その二体を完全に抑えることに成功していた。
別に押している訳ではないが、ゲーシックの守りは固く、その二体は、なんとしてもゲーシックにダメージを与えようと躍起になっている。厄介な攻撃力と、硬い防御力を持つこの二体がゲーシックに夢中になっていれば、クラリアとアイリスの危険度はかなり下がることになる。
カイゼランドの拳を盾で受けて、反撃を繰り出したゲーシックは、チラリと女性二人の位置を確認する。
(こちらを迂回して、反対側からワルフーリスを叩く考えですか。悪くない考えです。なら)
ゲーシックはモンスターの視覚に二人が入らないように立ち回る。
(では、お二人のお手並み拝見ですね)
(ゲーシックさんがモンスターの向きを変えてくれましたか。これでこそこそ移動しなくてもいいですね)
クラリアは全体の動きを確認する。
ワルフーリスはどうやら足がかなり遅いモンスターらしい、最初に見た位置からあまり動いていない。
「アイリスちゃん、このままワルフーリスを叩きます。走りますよ」
「はい!」
二人は走るペースを早くした。
クラリアは腰のベルトからブーメランを抜き取る。
「ハッ!」
鉄板をコーティングしてある強化ブーメランは、二体いるワルフーリスの右側の頭部分に激突して、ワルフーリスは倒れる。
それに合わせて、アイリスは更に足に力を込める。
「ッ!?」
そのダッシュは、並んで走っていたクラリアが驚いたくらいだ。
「はああああああああ!」
小さな体躯に似合わぬその火力、スピードの乗ったその拳は左のワルフーリスを粉々に砕いた。
「……このモンスター、体が粘度か何かで作られているんですかね?」
追いついたクラリアは、アイリスの拳で粉々に砕けたワルフーリスを見るとそう呟いた。そして自分が投げたブーメランが当たった方を見てみると、頭部に罅が入っていることに気が付く。
(武器よりも拳の方が威力があったということですか)
カタカタと、まるで裏返った昆虫がもがくようにワルフーリスは動くが、クラリアは罅の入った頭部めがけて十手を振り下ろす。
パリン、と頭部が割れて小さな穴が開いたところでワルフーリスは動きが止まった。
「では、ゲーシックさんを手伝いに行きましょうか」
「はい」
(……それにしても、ヴァルキュリーですか。見た目は幼子なのに威力は武器を持った私以上。ファンタジーの世界力が働いているのでしょうかね)
クラリアは後で考えることとして、この事を忘れないように憶えた。
「ゲーシックさん、加勢に来ました!」
アイリス達がゲーシックの所にきた。
「では、ミロジラマのほうをお願いします」
ゲーシックはうまいことカイゼランドだけを引きつれて、移動をする。
特定のモンスターにだけ意識を向けさせる、これだけでもゲーシックが相当な熟練者なのだと分かる。
(やはり流石ですね、私もまだまだ訓練だ足りませんね)
クラリアは己の力量をそう評価する。
(さり気なく攻撃力の高いカイゼランドの方を引き受けてくれましたね。ですか、私ではミロジラマの防御力を超える攻撃は出せません。アイリスちゃんの出番を作った訳ですか)
「クラリアさん、左から囮をお願いします」
アイリスがそう伝える。アイリスとてヴァルキュリー、戦いの天才だ。クラリアが火力がなくてミロジラマにダメージを入れられないのは分かっている。逆に、自分ならその可能性があるのも。
「気を付けて!」
事前の打ち合わせなどしていないが、相互にその理解があったのは、お互い戦いに身を置いている戦士としての勘というものだろう。
二人は左右に分かれて時間差で攻撃を仕掛ける。
先に行ったのは左のクラリア、ブーメランを投げて牽制しつつ、ミロジラマの大振りの拳をくぐりぬけて背後を取る。
(まあ、私では大したダメージは見込めませんが)
十手で打撃を入れて離脱する。
ミロジラマがくぐられたクラリアを再び視界にとらえようと、完全に周りのことに気が向かないその瞬間、右側からのアイリスが突進してきた。
「はああああああああああ!!」
ワルフーリスの時と同じく、握り拳を力いっぱいぶつける。こちらに気付いていないミロジラマの頭部を捉える。
殴られたミロジラマは、ぐらりと倒れる。どうやらバランス感覚を失ったようだ。
「これも戦い、悪く思わないでください。粛清します」
クラリアは、その思いのほか先端が尖っている十手をミロジラマの口の中狙い、
「はぁ!」
突き刺した。
「ぎしゃ!」
生々しいが、確かな手ごたえ。暴れるミロジラマの腕に当たらないように気を付けながら、クラリアはぐりぐりと十手でえぐる。
「流石の防御力を誇るアナタも、口の中はそうでもなかったみたいですねっ! 鈴木さんの想像は当たっていたようです!」
ぐりぐりと十手を回しながら、クラリアは呟く。
「さあ、これで事切れなさい!」
ダメ押しとばかりに、一度十手を抜いてからもう一度口の中に突き刺した。
「ぐぎじゃ!」
ミロジラマはビクンビクンと体を痙攣させると、それ以来動かなくなった。
ギルバートはカイゼランドにトドメの一撃を食らわせる。
「はい、おしまいです」
断末魔さえ与えぬ見事な討伐だった。そして余裕を持って女性組の方を観察する。
(ほう、隙を作ったのはアイリスちゃんだが、最後はクラリア嬢が刺したか。まあ、理想形ではないが、妥当なところでもあるな)
ギルバートは敵性モンスターの全滅を確認して、己が武器を収め、二人に声を掛ける。
「二人とも、そっちも終わったね。お疲れ様」
「あ、ギルバートさん。お疲れ様です」
「そちらも終わりましたか。無事そうで何よりです」
アイリスはペコっとお辞儀をして。クラリアはミロジラマの口から出た返り血をぬぐいながら互いの無事を確認する。
「一度戻ろうか。解体して素材回収は働いてなかった奴らにさせよう」
ギルバートは親指で馬車群を示す。
「そうですね。私はあの人にお礼を言っておかなければいけませんし、武器の手入れもやりたいです。アイリスちゃんも、少し疲れたでしょう」
「はい……じゃなかった、わたしは、まだ全然……」
「戦闘は思いの外疲れるものです。私にはヴァルキュリーの補正がどの程度あるのか知りませんが、私には疲れ切っているように見えます。どちらにせよ、後は戻るだけです。あなたのあるじさんに、この事を報告してはどうでしょう?」
「それもそう、ですね」
アイリスが納得したところでゲーシックがまとめる。
「んじゃ、戻りましょうか」




