燃える説教
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いい天気だ。
貴恵に引っ張られながら、大樹は空を見上げた。
さっき乗せられたジェットコースターという乗り物で、逆さまの空が意識にこびりついたのだ。
眼鏡を外していたので、ただただ青にしか見えなかった。
眼鏡をかけて見上げても。
ただただ――青。
視力の悪さも、空の青には通じないようだ。
「貴恵ちゃん…」
次のアトラクションに向かう、力あふれる背中に呼び掛けた。
「え? なに?」
やっと足を止めて、彼女は振り返る。
「結婚しようか」
青が――背中を押した。
プロポーズのきっかけが、空が青かったから、なんて当たり前のことだと知ったら、貴恵はなんと言うだろう。
とりあえず、いまの彼女は目を白黒させていた。
「あ…え…うん…いいよ」
目がパンダのまま、貴恵は唖然とした声で答える。
驚きすぎて、自分が何をしゃべっているのかも分かっていないだろう。
そんな状態ですら、イエスの返事をくれるのだから、なおさら愛しくなる。
「次は、何に乗るの?」
笑みを浮かべながら、大樹は貴恵に聞いた。
「あ、うん…こっち」
反射だけで動いているかのように、彼女は再び大樹を引っ張り始める。
「……」
「………」
そろそろかな。
大樹は、その気配を感じた。
ボンッ!
前を歩く貴恵の耳が、いきなり――火を噴いた。
「だっ…だだだだ…大樹っ…さっきの!?」
振り返りざま、大樹は胸ぐらを掴み上げられた。
そのまま、物陰に引きずられる。
それから30分、燃える貴恵に説教された。
昨日といい、今日といい――大樹は説教に縁があるようだ。