幸せの闇鍋
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いろいろな障害が、大樹の前に立ちはだかっている。
父親、とか大げさな話ではない障害だから、逆にタチが悪い。
貴恵に唇は奪われるわ、逆プロポーズの殺し文句までくるわ。
なのに、大樹は苦笑するしか出来ない。
胸の中に、もやつくものがあったとしても、ここは病院だし、人はいるし、自分はまだ半人前の職業の、若すぎる年令だし。
貴恵のように、ぽーんと飛ぶまでに、時間のかかる性格だった。
ちゃんと、自分から伝えなければならない唇も言葉も横取りされて、自分の腑甲斐なさに、苦笑してしまったのだ。
早く、年を取りたい。
昔思ったのと、違う意味で大樹は切実にそう思った。
あの時は、家から逃げるために大人になりたくて。
アメーバな自分を、見たくなかったのだ。
今は。
もっと大きくなりたい。
アメーバより、ずっとずっと大きいものに。
貴恵を、見る。
じっと。
「五年くらいしたら…」
「えっ?」
大樹の、ゆっくりとした言葉に、貴恵はあれっという声を出した。
また、彼がだんまりになっていると思ったのだろう。
「五年くらいしたら…ちゃんと、僕が…言うから」
なんだか。
言葉にしていくと、未来がとても楽しいものに思えてきた。
その日を、どれだけ自分は心待ちにするだろう。
「あ…わ…そ、そこまでマジに答えないで」
かぁっと。
貴恵は、やっと自分の言ったことの重さに気付いたようで、首まで赤くなった。
ああ、かわいいなぁ。
胸の中の、たくさんの靄の中から、大樹はその言葉をつかみ出した。
なんて幸せな――闇鍋。