甲斐性なし
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自分が田島を助けに行った事実が、あの二人を救えたというのなら。
大樹の、沈みかけた心も引き上げられる。
ありがとう。
水面に向かって、少しずつ浮き上がる自分の身体。
引き上げているのは、貴恵。
ふわふわとする自分の身体が。
ドアのノックで、我に返った。
吉岡がきたのかと思ったら。
「濡れ場じゃ…ねぇな?」
ナース姿にあるまじき言葉を吐きながら、美津子が入ってきた。
「急患だ…相部屋になるぞ」
彼らの反応など、おかまいなしに隣にベッドをしつらえ始める。
「刺された男、だからな…サツも出入りするだろうから、おとなしくしとけよ」
ああ。
確か、美津子は外科の看護士だ。
大樹には、いろいろ都合があるから、ここにねじこまれただけだろう。
「いいか…サツと目を合わせるなよ、ショクシツされるからな!」
あの美津子が、警察を嫌いなのは知っている。
しかし、その嫌いな警察官と付き合ったことがあるのは驚きだった。
「普通の市民は、ショクシツなんてされないから」
貴恵が、苦笑している。
「あたしは、目を合わせなかったのに、こないだもされたぞ」
どれだけ警察の前で、不審な態度を取ったのか。
ストレートに腹を立てながら、てきぱき準備をすませる。
「しっかし」
出ていく前に、美津子が二人を振り返った。
「今時、おててつなぐだけかよ…甲斐性なしどもめ」
素晴らしき捨て台詞で――手をつないだままだったことを、思い出したのだった。