罪深い心
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生きてたのね、田島さん。
勝手に殺してしまった彼に、脳内で詫びる。
大樹の弱りかたが尋常ではなかったから、つい深読みしてしまったのだ。
しかし、田島がいない理由は、なんとも言えず、切ない話だった。
田島は、悪人の側にいて生き延びることに決めたのだ。
「僕らのためでもあるんだ」
悪人の情報は、悪人が一番よく知っている。
大樹たちをさらった勢力を、彼が監視してくれるのだろう。
ただ、大樹とは対極の人になったことは間違いない。
それに。
「アーシャも無事でよかった」
頭の片隅に、チーフがよぎる。
また日本にこられるかは分からないが、永遠のさよなら、だけはなくなったのだ。
「よかったな、大樹…行った甲斐があったな」
アーシャの無事を祈るのは、貴恵にとっては罪のようなものだった。
大樹の無事のためには、切り捨てなければならないと。
そんな利己的な自分と、貴恵は戦っていたのだ。
結果、貴恵が知るかぎりの人は、生き延びたのである。
ボスは残念だったが――人の心は残酷で、まったく知らない人の死の報告には泣けないものなのだ。
両手で届く範囲の人の命で、手いっぱいだった。
大樹が、少し笑う。
罪深い心の貴恵に、目を細める。
「ありがとう…」
大樹の返事は、変なものだったが、熱にうかされているだろうし、笑ってくれたから、貴恵は言葉の意味なんて、考えなかった。