表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/127

報告忘れ

 貴恵の口から、父親の話を聞くのは、これが初めてだ。


 彼女の家に、写真など飾ってもいないので、死別とは違うのだろう、と判断する程度だった。


 それと同じように、大樹も自分の父親というものを、状況証拠でしか知らない。


 海外の日系人。


 それくらいだ。


 しかし、それを告げた時の貴恵は、少しだけ嬉しそうだった。


 ぼんやりする頭で、彼女を見る。


「あ、いや…大樹が、お父さんについて話してくれたのが…なんか嬉しくて」


 顔の緩みに気付いたのか、貴恵が片手で自分の頬をたたく。


 もう片方の手を、大樹が占有しているからだ。


「うん…でも…いいんだ、家族は…。大事な人たちがいたら…うん」


 ぽつり、ぽつり。


 自分の口から、音が落ちる。


 大樹が倒れた時、貴恵がこうしてそばにいてくれる。


 吉岡が、ちゃんと手配してくれる。


 親の存在があやふやでも、大樹には問題ないのだ。


「『たち』、でよかった…」


 貴恵は、片方の手を伸ばして、大樹の前髪をくしゃっとする。


「うん…田島さんも、もう一生会えないわけじゃないから…」


 早く、田島のことから立ち直ろう。


 大樹が、そう自分に言い聞かせようとした時。


「えっ!? 田島さん、無事!?」


 貴恵が。


 目をひんむいていた。


 あ。


 報告するの、忘れてた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ