悪の道
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ツカサが、この国にくる気になったのは、吉岡の根回しのおかげだった。
大樹のと一緒に、彼のパスポートも作られていたのだ。
行きたいと言い出したら、手配してやってくれ、とも。
一人で宿舎に缶詰もつまらなく、そろそろ決着もついてるだろうと、ツカサは観光気分で行くことにしたのだ。
そしたら、なんと決行当日!
おまけに、吉岡からの緊急無線で、爆発が起き、大樹が屋敷内から帰ってこないというし。
あいつのことだから、上手にトラブルの隙間に挟まってるに違いないと、ツカサは飛び出していた。
めんどくせーっ、と叫びながら。
走っていく体力はなく、チャリを盗む。
途中、学校の前にとまっていたバスをかっぱらって乗り換える。
自転車より早いし、田島やアーシャが一緒のことを考えたのだ。
この瞬間のツカサは、モラルは最低だったが、カンだけは冴えていた。
路地を飛び出してくる、東洋人の一団を見つけられたのだ。
そんなツカサの武勇伝が――すべて霞むシリアスな展開に、当事者たちには悪いが、うんざりしていた。
姉妹とワンが、何か恐いことを言って出ていって、いっそほっとしたくらいだ。
「なーもう日本に帰ろーぜー」
全員、無事ならもうこの国にいる必要などない。
吉岡に迎えにきてもらって、平和な国に帰ろう。
そうしたら。
田島が。
ツカサを見た。
「あー、迎えにきてくれたところ悪いが…オレは残ってもいいかな?」
言葉に、あの大樹が驚いていた。
しかし、なぜツカサを見て言うのか。
彼の返事など、分かり切ってるだろうに。
「好きにすりゃ、いいんじゃね?」
何を、自分に求めているのか。
まあ、大樹に言うよりは、説得が簡単だと思われたのかもしれない。
「田島さん…」
難しそうな顔で、大樹は彼を見る。
「悪の道に一人いた方が、きっと役に立つぞ」
田島は、悪が裸足で逃げ出しそうな笑顔で――言い切った。