発散したいな。
「クリムゾン インフェルノ(赤の地獄)」
炎の魔術の詠唱と共に、体中をみなぎる得も言われぬ力に、口角が緩む。
目の前に広がる黒い火成岩に、次々と亀裂が走り、炎が噴きあがる。
こちらへ近づこうとする黒のワームは、次々と噴き出す炎に触れ、黒い影となって消えた。
黒のワームには、骨など元々なかったのか?
瞬時に炭となり、消えていく。
吐き出した黒のワームの毒さえ、この炎に呑まれ、消えていった。
あれだけこの荒地を覆うように、黒のワームがいたはずなのに!
跡形もなく消えていく。
さらに。
黒のギガースは亀裂へと落ち、身動きがとれない。
鋼鉄のようなその体を、その亀裂から噴き出す炎が、ものすごい勢いで包み込む。
なかなか焼け落ちない。
そう思っていたが。
どこか一箇所。
それは肩であったり、頬であったり。
小さな崩壊が始まった。そう思った次の瞬間。
黒のギガースの体が、瓦解していく。
剥がれ落ちる鋼鉄のような皮膚の下は、マグマそっくり。
外側の皮膚がいくら硬くても。中は細胞の塊。
炎に熱せられ、既に体内はドロドロに焼け溶けていた。
これにはまさに愉悦。
最高の気分の良さだ。
荒地から生命が消えている。
脅威は完全に去った。
黒のワームも黒のギガースも殲滅できた。
「オデット、よくやった。もういい。もう、魔力を使うな」
目の前の男の言葉を不快に感じる。
体には、溢れるばかりの魔力があった。
これを発散したい気持ちになっているのに。
しかも命令口調であることも、気に入らない。
私は……魔王だ。
命じられる立場ではなく、命じる立場にある。
「うるさい。黙れ」
「オデット! 落ち着くんだ。もう殲滅できた。これ以上、魔力を使うのはやめろ!」
手を掴もうとするのを振り払う。
過干渉は嫌いだ。
「アビスディゾルブ(深淵溶解)」
亀裂が走っていた火成岩が炎に包まれ、蝋のように溶けていく。
炎の海に、溶けた黒い火成岩が混ざっていった。
目の前の大地がどんどん沈んでいくように感じる。
「止めるんだ、オデット。こんなことをしていたら、この世界が滅びるぞ」
そういえばこの目の前にいる男には、なぜ魔術の効果が出ていない?
とっくのとうに煤となり、消えているはずなのに。
目を細め、じっと見ると、その男を覆うように三重の被膜があることに気づいた。
水・風・炎。
三つの元素を自身の周囲に展開し、特に一番外側を覆う炎が私の魔術の炎を相殺させている。
「面白いな。お前は相当な魔力を持つと見た。……だが、私の相手になるか?」
「オデット、魔力に飲まれるな。意識を現実に向けろ! もう終わった。これからシリルの元へ戻るのだろう? セインもレウェリンも、レダも、それにシアとペルも……おっと忘れていた! 私のことをいつも水の中に転移させるマーシャルソンも、みんな待っているぞ。帰ろう、オデット」
シリル……。
その名を知っている。
脳裏にぼやっとシルエットが浮かぶが……顔は分からない。
ただ……。
私好みの黄金の髪をしていた気がする。
セインという名も聞いたことがあった。
他の名も覚えがあるが……。
そこでクラッと眩暈を感じる。
体を巡る魔力量が多くて、自分の身なのに、上手くコントロールが効かない。
発散したいな。
この有り余る魔力を。
周囲を見渡すと、炎と闇がうねる海のようになっている。
私がいるのは、そこに浮かぶ小島みたいものだ。
そしてそこに見知らぬ男がいる。
しかも面白い魔術を使っているのだ。
ニャッと笑った私を見て、男が安堵の表情を浮かべた。
「やはりシリルの名を出したのが正解だな」
「ブラッド サクリファイス(炎の贄)」
男の体を、鮮血のような炎が包み込む。























































