お、叔父上……!
「……オデット、もう、いいだろう。さすがに……な、これ以上は……」
不遜にも抱きついて来た男の、焦げ臭い体を追い払おうとして、首への違和感に気が付く。
これは何だ?
触れたのはレースの手触り。
このレースは……。
エルフの……。
ハッとして周囲を見る。
私のいる場所を起点に、黒い景色が広がっていく。
な、何が起きている……?
目を凝らし、理解する。
赤く燃える炎の大地が、急速に冷えていっているようだ。
まるで燃料を断たれ、これ以上燃えることができない……というように。
これは一体……?
そこでフラッシュバックするように脳に記憶が巡る。
そして理解した。
これは……私がしたことだ。
私の魔術で……。
そこで座り込みそうになり、誰かが倒れていることに気づく。
うつ伏せで、着ている服のあちこちに焼け焦げた痕がある。
手や首など見えている肌にも火傷があった。
そこで血の気が引く思いになる。
「お、叔父上……!」
私の首に、魔力を抑えるレースのチョーカーをつけてくれたキル。
自分が彼に対し、何をしたのかと悟ると。
崩れ落ちた私はあまりの衝撃と……使い過ぎた魔力の反動だろうか。
膝をつき、その場で倒れ込んだ。
同時に意識を失った。
◇
女魔王に就任したが、表向きの魔王は別にいる。
名ばかり魔王を演じてくれたルーベントは、人間たちとの戦争に関しては、からっきしダメだった。だが内政では、それなりの手腕を発揮してくれた。つまりは書類仕事、ハンコ押しは、得意中の得意。
おかげで女魔王ながら、一日に数時間は、自由な時間を与えてもらうことができた。
その日、森へ向かうことになったのは、こんな会話がきっかけだった。
「エンバーの森の炭焼き小屋に行った下男が、フェンリルの子どもを見つけたそうですよ。大きさは本当に子犬ぐらいで、黒い毛玉みたいで、可愛いと言っていました」
「シア、でも、フェンリルは魔獣だろう?」
「ええ、そうですよ、オデット女魔王様。でも子どもの時はとても大人しく、無知ですから。魔族に懐くこともあるそうですよ」
こんな話を聞いたら、俄然見たくなった。
フェンリルの子どもを。
そこで昼食後、与えられていた自由時間の二時間を使い、エンバーの森へ向かった。
エンバーの森は、魔王城からは比較的近い森だ。馬を走らせれば、三十分程でつくことができた。
ペルとシアは侍女ながら、私の護衛も兼ねていたから、器用に馬を乗りこなし、一緒に森まで向かってくれる。
そのエンバーの森には炭焼き小屋があり、そこで魔王城で使う炭を調達していた。
毎日のように炭を受け取りに来るから、荷馬車を止めるスペースが、森の入口には用意されている。馬を休めるための水飲み場やえさ箱もあった。同行していた護衛騎士に馬をまかせ、ペル、シア、数名の護衛騎士を連れ、森の中へ入る。
フェンリルの子どもを探すために。
下男がフェンリルの子どもを見かけた辺りに行ったが、そこにその姿はない。
「よし。手分けして探そう。三十分後にここに集合。それで見つからないなら、帰ろう」
こうして私はペルと護衛騎士の三人で、森の中をさらに彷徨った。
すると。
いたのだ、フェンリルの子どもが!
「いたぞ、ペル!」「本当ですね!」
フェンリルの子どもは尻尾を振り振りして、私を呼んでいる気がした。
そこで私が近づくと、逃げる。
私が止まると、近寄る。
そうやってじわじわ一進一退を繰り返していると、突然、フェンリルの子どもが走り出す。
「待て!」
夢中で私は追いかける。
「オデット女魔王様、お待ちください!」
「オデット女魔王様、お一人では危険です!」
ペルと護衛騎士の声を無視して、私はフェンリルの子どもを追いかける。



















