あ、待った!
決闘の場となるコロン原生林は、この大陸で一番と言われる広大な森だ。
人間ではなくても、魔族でも知っているくらい。
トウヒやカラマツといった針葉樹林が多いが、ポプラの並木が広がるエリアもあり、そこはまさにメルヘン。だが沼地や湿地帯もあり、そこはホラー映画の舞台のようにおどろおどろしい。そして今回の決闘の舞台になるのは、数十年前に起きた噴火で、荒地になっている場所だ。
そう。
コロン原生林には火山も含まれ、それは定期的に噴火を起こしている。だが人里離れた場所であるため、自然に任せるままになっていた。
冷えて溶岩が固まり、やがてどこからか種が飛んできて、草木が芽吹く。そうして森ができるかと思いきや! そのタイミングで火山が噴火するのだ。その規模は決して大きなものではないが、せっかく芽吹いた草木はそれでダメになる。
よって決闘の場として選ばれた荒地は、ずっと荒地のままだった。
黒い火成岩が広がるその荒地は、暗黒の国アビサリーヌの土地を思い出す。
アビサリーヌは火山とは関係なく、黒い土地をしていた。
「決闘にはおあつらえ向きの場所だな。荒涼としたこの雰囲気。どれだけ派手に暴れようが、誰にも迷惑がかからない」
転移魔法であっという間に市街地からここへやって来たわけだが。
確かにキルの言う通り、ここに生物の姿はなく、魔族の残党と人間の戦いも、ここで行えばいいのに……と思えてしまう。
「シリル、この岩はとても硬い。転んだり、投げ飛ばされた場合、相応のダメージを喰らうじゃろうな。魔法のサポートも受けられんから、足元は気を付けることじゃ」
決闘の約束の時間まで、まだ余裕があった。
レウェリンとシリルは目の前の荒地での戦闘をシミュレーションしている。
「そうだな。これだけ硬いと、ジャンプして着地した時のダメージも考えないといけないな」
「そう。シリルは魔法のサポートなしでも跳躍力があるが、ここは砂地や草地ではないゆえに、足のダメージは加味した方がいいじゃろうな」
「それでいて滑らかな面があるから、滑りそうでもあるな。となると大剣でのふんばりが厳しいかもしれないな」
しばらく検証した後、シリルはスモールソードを選び、キルに声をかけた。
「キル殿、少し動きたい。お相手願えるか?」
「! 私かい? 勇者の剣の相手なんて。無理、無理、無理!」
「ご冗談を。“斬撃の狼”と呼ばれたのは、キル殿であろう?」
“斬撃の狼”……!
その名は確かに女魔王だった私も伝説として聞いたことがあった。
まさに狼のように敵を追い詰め、斬り伏せる。
まさかそれがキルのことだったなんて。
「あー、オデット。そんな期待を込めた目で見るな。見ての通り、私はもうおじいさんだ。昔のようには動けんからな」
「何を言っているか、キル殿。その見た目で何がじいさんか。ほれ、この剣を使え」
レウェリンに剣をパスされると、見事にキャッチしている。
それだけでもう、期待できてしまう。
キルは「見た目は魔術で若く保っているだけで、実際はがたがきているんだよ」とブツブツ言いながらもシリルと向きあった。
互いに剣を構えたその瞬間。
「あ、待った!」
キルが着ているクルミ色の上衣を脱いで、クリーム色のシャツ姿になった。
「ビリッってなると困るからさ」とキルがウィンクするので、脱力してしまう。
こんな飄々として、シリルの相手になるのかと思ったが。
「では始めじゃ」
レウェリンがそう言った瞬間。
キルの表情が変わる。
ルビー色の瞳の眼光が鋭くなり、剣の構えは斬るではない。
あれは……。
「レウェリン、あの動きは……」
「“斬撃の狼”とは程遠いのう。あれは“瞬砕の一撃”じゃろうな。セインは斬るより、突くの攻撃を得意としていると聞いているぞ。風をまとわせた剣の一撃を受ければ、甲冑は粉砕する。ゆえに“瞬砕の一撃”と呼ばれていると」
「つまり叔父上は……」
「セインの剣技を繰り出しているのじゃろうな。さすが剣豪。自身の得意とするところではない剣技もマスターしていると」
実際の決闘では魔術の使用を禁じている。でも突きの攻撃を得意とするなら、“瞬砕の一撃”とならずとも、“断命の一撃”を繰り出しそうだ。
「これはいい練習相手じゃ。キル殿はガタがきているというが、そんなことはない。剣術指南役になった方がいいのではなかろうか」
レウェリンの言葉に、強く同意だった。























































