率先して動ける君に
ぎゅっと抱きしめたシリルだったが、すぐに私から体をはなす。
「テト、昼食の用意を進めてくれ。今から午後の決闘に備える」
そこからはセインとの決闘に向け、準備が始まった。
その合間に地上戦の様子を確認し、シリルは次々に指示を出す。
魔族たちは多くが逃走を始めているが、その際、建物の破壊や市民への攻撃も行っている。そこはきっちり捕縛するように命じていた。
「二十分程、休む。テト、時間が来たら、起こしてくれ」
天幕の外で、武器の手入れをしていた。
私もそれを手伝っていたが、まさに終わったタイミングで、シリルが昼寝をすると告げた。
昼寝が終わったら、防具を身に着け、いよいよ転移となる。
「オデット」
寝室に入ろうとしていたシリルが呼んでいる。
天幕の入口の布は上にあげた状態なので、寝室の入口まで見通すことができた。
立ち上がった私は、手にしていた短剣を鞘に収める。
短剣なんて、いつ使っていたのかと思ったら!
地上に落ちたレッドドラゴンと戦っている際、何度となく魔族に狙われていたというのだ。その応戦で、短剣をナイフ投げのように扱っていたと聞き、いろいろな意味でビックリだった。でも一緒に手入れをしていたテトによると、シリルの短剣は重心を調整しているため、むしろ投擲に向いているのだという。
ということでその短剣を武器係の兵士に渡し、私は急いで寝室へ向かう。
先に寝室に入っていたシリルは既にマントをはずし、上衣を脱いでいるところだった。
駆け寄った私は上衣を受け取り、ハンガーにかけ、ラックへかける。
振り返るとシリルは、シャツの袖のボタンをはずしていた。
昼寝をするため、いろいろと服を緩めているようだ。
そこで私は、昼寝の後に装備することになっている、革製の胴鎧、籠手、そして脛当てをローテーブルへ並べた。
ズボンのベルトをはずし、さらにシャツのボタンもいくつかはずしたシリルが、ベッドに腰かけている。
「ラベンダーの香でもたくか?」
「ありがとう、オデット。だが昼寝だ。ラベンダーの香をかいでは本格的に眠ってしまいそうだから、たかなくていい。それよりもこっちへ来てくれ」
なんだろう? すぐに横になるのかと思ったが……。
「マッサージでもするか? 手のひらや指のマッサージは気持ちいいぞ」
そう言いながら、ベッドに近づくと、シリルは「そうなのか」と自身の手を見る。
「座らせてもらう」と断りをいれ、シリルの隣に腰を下ろした。
「手を」
言われるままに差し出されたシリルの手を見て、今さら驚く。
あれだけの大剣を扱い、槍も投げている。
勿論、グローブをつけている。それにレウェリンの魔法で回復もされているのだろうけど……。
それでも改めて見ても、手が実に美しい。
「失礼する」と言いながら、両手でシリルの右手をとり、親指を使い、付け根や指に圧をかけていく。
すべすべとして艶もあるし、潤いも感じられた。
肌もピンと張っている。
もっとゴツゴツしているかと思ったが、そんなことはない。
「……気持ちいいな」
「だろう?」
「これは誰かに習ったのか、オデット?」
「まあ、そんなところだ」
前世であれは誰に教わったのだろう? ともかく友達同士でも気軽に手のマッサージをやっていた気がする。特に親指と人差し指で指先をぎゅっと挟み、少しふってからはなすと、されている方はスッキリするのだ。
「……驚いたな。何かやってもらうために呼んだわけではないのに。上着をかけ、防具も準備し、マッサージまで……申し訳ないな」
自然とシリルが左手を差し出している。
これは「気に入ったので、左手も頼む」という合図だ。
良かったと思いながら、その左手をとる。
「すべて大したことではない。何もできず、むしろこれぐらいしかできず、申し訳なく思っている」
「オデット。君は暗黒の国アビサリーヌでは、王族の一人だった。上着をかけ、防具を準備するなんて、しないでいい身分だ。ましてやマッサージをするなんて……」
そう言いつつもシリルの目は、マッサージをする私の手に注がれ、手から力が抜けていく様子が伝わってきた。リラックスできているようで、良かったと安堵する。
シリルが気持ちよさそうに息をはき、そしてこんなことを言ってくれる。
「率先して動ける君のことを尊敬している。だがただそばにいてくれるだけで、構わないんだ」
「そうなのか」
丁度、一通りのマッサージが終わり、シリルを見上げた。
天色の瞳が、とろけそうに甘くなっている。
ドキッとするの同時に、私の体はベッドに倒れこんでいた。























































