不思議な幻影
シリルと向き合い、抱き寄せられるようにして眠っていたはずなのに。
気づけば後ろからシリルに抱きしめられるようにして寝ていた。
だからこそ、気が付けた。
その気配に。
風の魔術で作り出す、不思議な幻影。
わずかな光、空気中を漂う粒子。
これらを風の力でコントロールし、そこにないものを、見える状態で映し出す。
実体はあるようで、ない。
前世でいうなら画質の悪い立体映像が、浮かび上がっているような状況だ。
ふと夢が途切れ、目を開けると、そこにそれが見えた。
アイスブルーの髪に、銀色の瞳。
夜に溶け込むような、闇色のローブをはおった高身長な青年の姿を。
セイン……!
見るとローブの前を合わせた辺りに、ガラス玉が煌めいた。
多分、あれは魔法がかかっている。
あのガラス玉を通じ、セインは私を見ているんだ。
起き上がろうとするが、シリルの腕が私を抱き寄せる。
「オデット」
甘い寝言のような囁きが聞こえ、「チュッ」と髪にキスをする音が響く。
シリルが起きたのかと思ったが、規則正しい寝息しか聞こえない。
寝惚けて名前を呼ぶとは!
ドキドキしてしまったが、そうではない。
慌ててセインの幻影に目を向けるが、その姿はぼやけ、消える寸前だった。
これは……間違いなく、誤解される。
「これは違うんだ、セイン!」と言ったところで無駄だろう。
幻影と同時に、あのガラス玉も消えている。
セインの風の魔術が生み出す幻影が、シリルのこの天幕に現れるなんて!
間違いなくシリルのこの天幕には、レウェリンの魔法とミルトンの精霊の力が使われているはずだ。それに天幕の周囲には二十四時間体制で、警備の騎士が配備されている。これをかいくぐるなんて……。
風の魔術だからできたのだろう。
あのビー玉サイズのガラス玉は、風をまとわせ、魔法を隠蔽した。
幻影は、この天幕の中に存在する物質で生み出したに過ぎない。
「シリル総司令官。このような時刻に申し訳ありません。何か異常はありませんか?」
寝室を仕切る布越しに、騎士の声が聞こえる。
ガラス玉の隠蔽には、失敗したようだ。
レウェリンの感知魔法に、気づかれたのだろう。
「!」
素早く上体を起こしたシリルが、枕元に置いていた剣を掴み、周囲の様子を探っている。
ほんの数秒前、熟睡していたと思ったのに!
その眼光は鋭い。
素早く確認を終えたシリルが答える。
「特に異常はないようだ。何か検知したか?」
「はい。レウェリン様が、微弱ですが天幕を出入りした魔法の気配を察知されたそうです」
そこで私はシリルに、セインの風の魔術による幻影が現れたことを伝える。
「なるほど。偵察か」と呟いたシリルは騎士に「偵察があったようだが、攻撃はされていない。ガラス玉が一つ、天幕内に現れたようだ。追跡できるか、レウェリンに伝えてくれ」と告げる。「かしこまりました」と騎士は答え、どうやら天幕を出て行ったようだ。
「セインがオデットの様子を確認しに来たのか」
「そうだな。……セインは無理矢理私がシリルと婚姻関係を結ばされたと思っているから、心配したのだと思う」
「なるほど。だが一足遅かったわけか。もう二時間程前であれば、奴は思い違いをしていると気づけただろうに……」
二時間前……。
思い出した私は、顔から火が出るぐらい恥ずかしくなっている。
「照れているのか、オデット?」
「あ、当たり前だろう! 二時間前の姿を、セインに見せるつもりはない!」
「では今から見せつけてやるか?」
添えた手で私の顎を持ち上げたシリルが、自身の唇を私の唇に重ねる。
その瞬間、二時間前を思い出し、全身から力が抜けてしまう。
そのままポスッと枕の上に、二人して折り重なるようにして倒れ込む。
その間も、シリルのキスが続いている。
セインの幻影はないのに。周囲を気にしていると。
「オデット、キスをしているのによそ見をできるとは……余裕だな」
「!? だって、シリルが……っ」
唇ではなく、首筋にされたキスで、自分のものとは思えない声をあげてしまった。
慌てて自分の手で、口を押えることになる。
天幕は、分厚い生地数枚で仕切られているだけで、外には警備をしている騎士がいるのだ。
焦る私を見て、シリルはクスクス笑い、額へキスをする。
「まだ夜更けだ。寝よう、オデット」
「……シリル」
こんなことをして、眠れるはずがない!と思ったが。
シリルにふわっと柔らかく抱き寄せられると……。
その胸の中は、広く、温かく、安心感がある。
キュッと目を閉じると、次第に全身から力が抜けていく。
気づけばちゃんと、眠りに落ちていた。























































